となり あれ?あかね? ちょっと用事があって出かけた先から、帰路に着こうとしていたおれの視界に入った見慣れた顔。 二人掛けの椅子の窓側にいたその顔が目に飛び込んできた。 なんで、バスになんか乗ってんだろ。 不思議に思いながらも乗り込んだバス。 あかねは、窓の方にもたれかかり、目を閉じていた。 眠ってるように・・・というか、眠ってるんだろうな。 バスは動き出し、おれは隣に、そっと腰を降ろす。 途端に、あかねのいい匂いがした。 一緒にいる時にはしないけど、廊下でたまにすれ違うとかすかにする、香り。 「・・・・・・。」 そして襲われる、不思議な感覚。 なんだろ・・・この感じ・・・。 いつも、並んで座ってるのに。 いつだって、並んで歩いてるのに。 いつもと違う、不思議な空気。 お互いの肩と腕と、そして太腿が、バスが揺れる度に触れ合っては離れる。 「・・・・・・。」 触れたところが・・・あったかい。 ・・・ちらっとあかねを見る。 「・・・・・・。」 気持ちよさそうな寝顔。 「・・・・・・。」 慌てて目をそらし、手を胸に押し当てて、一度、大きく深呼吸。 もっかい、ちらりと顔を見る。 「・・・・・・。」 やっぱり、よく眠ってる。 ・・・こっちから肩に向かって手を回して、ぐっと引き寄せて、そしたら、頭が、おれの肩に乗る・・・かな。 もうちょっと近づきたいって気持ちが、頭の中をよぎっていく。 イメージはばっちり。・・・後は実行に移すだけ。 「・・・・・・。」 って、できねぇよ。そんなこと簡単に出来てたら、おれたちはとっくに・・・・・・。 ふぅっと溜息がもれる。自分の不甲斐無さが身に沁みて、思わず頭を垂れた。 もっと近づいてみたい・・・って思う気持ちと、 これ以上は近づけない・・・って気持ちが、いつもぐるぐる頭の中を巡っていて、 こういう時なんだから、もっと近づきたいって、そう思う気持ちが強くなってるのを 自分自身感じてはいるけど、だからって、そんな簡単なもんじゃなくて・・・。 結局、この優柔不断さが、自分の気持ちすら、はっきりと伝えられない要因であることだって、 ちゃんと理解していた。 あかねの身体を見つめる。 今の自分にはない、柔らかな線。 近づいた途端、目を開かれたら、それは鋭く尖ってしまうかもしれない。 好き好んで喧嘩したくなどないから。 やっぱり無理だな。 今度は顔をあげて、天を仰いだ。 途端に、肩にずしっと重み。 「え?」 いきなりのことにびくっと跳ねた肩には、あかねの頭。 「なっ。」 もたれかかられて触れらているところは、あったかいを通り越して熱いぐらい。 「・・・・・・。」 やっぱりよく眠っているようで、よりかかってくる身体の重みが増してきた。 「・・・・・・。」 しばらくそうしていようと思ったけど、あかねの身体を向こうへ押し返す。 頭は窓の方へぐらりと動き、再び窓にもたれかかった。 確かに、どきどきしたけど・・・あったかくて気持ちよかったけど、なんか違った。 ずっとこのまま・・・そうも思ったけど、でも、それも違う。 近づきたいって、そう願ってたけど・・・。 身体が触れるか触れないか・・・この距離が、今のおれにはちょうどいいって思えた。 触れなくても、あかねを感じることが出来るから。 触れない方が、あかねのこと・・・余計に近くに感じたから。 しばらくして、あかねは目を覚ました。 「あれ? 乱馬?」 「あ? なんだ、あかねかよ。」 「・・・いつからいたの?」 「さあな。」 「・・・・・・。」 「本当に寝てたのかよ。」 「え・・・うん・・・。」 「やめろよな。」 「眠かったから。」 「・・・・・・。」 なんだ、わざとじゃなかったのかよ。 おれのことに気付いて、それでこっちにもたれかかってきたのかなって、 そう思ったから・・・思ってたから・・・。 ってことは、もし、他の野郎なんぞが座ってたら・・・複雑な気分。 「心配してくれてる?」 「・・・・・・。」 あっさり気持ち読まれてて、かなり焦る。 違うって言って、喧嘩してもよかったけど、 だけど、本気でやめてほしかったから、あえて反論しなかった。 ・・・けど、やっぱり肯定も出来なかった。 「・・・ありがと。」 肩に触れる、あかねの髪。 「・・・あかね?」 「ありがと、乱馬。」 そう言って、再び目を閉じたあかねを、今度は直に触れられた肩が感じていた。 さっき感じたのとは違う、あかねのあったかさを。 =おしまい= 呟 言 ・・・・・・いや、隠そうかと思ったのですが、最近隠してばっかなので 普通に出してみました。 が、自分的感覚によっているのです(汗) バスの二人掛けの座席ってのは ふたりだけって感じがしてて、 でも、ここにカップルで座ると、野郎(口悪)がでかいと結構むぎゅむぎゅで きつかったりして・・・乱馬くんとあかねちゃんの場合は、 いや、あくまでも私のイメージですが、乱馬くんって筋肉質だけど華奢な感じがするし、 あかねちゃんってちっちゃい感じなので、一緒に並んで座っても、 肩とか腿は触れるか触れないかくらいの、微妙な空気感であってほしいなーと・・・。 というか、私がその触れるか触れないかってところの空気が、 じかに触れた時よりも余計に暖かく感じるような気がして好きなだけなのでした。 また個人的な感覚によったもの・・・すんません。 ついでに言うなら・・・ぷらとにっくな感じを・・・相変わらず出したかったと、 そう言ったわけでした。 ひょう