落書き





 冬はあんまり好きじゃない。
日が暮れるのが早くて、一日の時間が短く感じられるから、
すごく損をした気持ちにさせられる。

 こないだまで、6時過ぎても教室には誰かしらんがいて、賑わっていたのに、
今日はまだ5時前なのに、誰もいない。
ただひとり、わたしを除いては。

 今日は日直だったから、ひとり残って日誌を書いている。
友達が待ってようか?って言ってくれたけど、遠慮した。
こんな寒い中待っててもらうのも気が引けるし・・・それに、
誰もいない教室だから出来ること・・・それをやりたかったから。

日誌も書き終わり、机の上を片づけて・・・乱馬の席に向かう。
椅子を引いて、座って・・・ひんやりとしていて冷たい。
けれど、こころの中はぽかぽかしていて、暖かい。
まるで乱馬がここにいるかのように。
まるで乱馬の上に座っているかのように・・・考えただけで顔が赤くなる、わたしがいる。

「ん?」

机の上に落書き発見。

「・・・乱馬、あかね、らぶらぶ・・・。」

という言葉がハートの真ん中に書いてある。

「だっ、誰よ、こんなこと書いたの!!」

ひとりあたふたして、動揺して、筆箱から消しゴムを取り出して消そうとした。

 けれど・・・よくよく考えたら・・・・・・

 別に間違ってることじゃないし・・・そりゃ、らぶらぶではないけど、
許嫁だし、ハートの中に並んで名前を書かれていても、いいと思った。

 にしても、いつ書かれたんだろ?
誰に? どうして乱馬は消さないの?
気付いてない? それとも面倒くさいからかな・・・。

 当たりだ。

 そうよね、面倒くさいもんね、いちいち相手にしてられないって、
そう思って、消さずにいるんだ。

 でも、もし、乱馬がわたしと同じ気持ちだったら・・・。
ハートの中に名前を並んで書かれてることを快く思ってくれているんなら・・・
それだったら、嬉しいな。

 机にぺたりと頬をつけて、その落書きを指でなぞる。

「本当にらぶらぶに、なれたらいいな・・・なれるかな・・・。」







「・・・あかね、あかね!」

「・・・ん。」

「なにやってんだよ、ったく、日誌書くのに30分もかけてんじゃねぇよ。」

「乱馬?」

「寝ぼけてねぇで、とっとと立って。」

「わたし・・・。」

 どうやらそのまま、ほんのちょっとの時間だったけど、眠ってしまったらしい。

「帰るぞ。」

「あ。」

 乱馬はわたしのかばんと日誌を持って教室を出る。

「ま、待って。」

 急いで後を追いかけながら、教室の鍵を閉めた。

「あ、あのね、私。」

「いつまで経っても出てこねぇから、わざわざ迎えに来てやったんだからな。」

「うん、それでね、机にね。」

「・・・ったく、冷やかすやつらが多くてうっとおしい。」

「う、ん。」

「何度何回書かれたことか。消す方の身にもなれってんだ。」

 やっぱり、面倒くさかっただけだったのか。

「・・・・・・。」

 そうだろうとは思ってたけど、でもやっぱり、なんか淋しい。
ちょっぴりしゅんとなったわたしのことを、乱馬は気遣ってくれたのだろうか、
突然歩みを止めて、わたしを見つめた。

「いいか? あの落書きは・・・秘密だからな。」

「え?」

「他の奴らに知られたら、それこそおれの机はまたぐちゃぐちゃだ。
 せっかく書いたあれが、汚されんの、嫌だからな。」

「乱馬。」

 書いた? 乱馬が書いたの? あれ。

「いっ、いいからっ、帰るぞっ。」

 くるりと背中を向けてる乱馬の耳は赤い。

「乱馬が書いたの?」

 思い切って聞いてみたけど、返事はない。

「ほら、もう早くしろよっ。」

 繋いだ手の温かさと、照れてる後ろ姿を見つめながら・・・
いつか本当にらぶらぶになれたらいいなって思った。












                         =おしまい=




呟 言

純な感じでお送りしたつもりのこのお話。
というのも、久々授業を受けることになって、
そういえば・・・と学生時代の頃のことを思い出して書きました。
中にはマジックで堂々と机に書いちゃう人とか、
修正液で書いたりとか、してましたねぇ。
ちなみに私は漢字を書いてました。
ええ、カンニング用に。
真ん中くらいに書くと意外とばれません・・・とか、
裏技教えてんじゃねぇよって話ですがね、はいはい。
そんなわけで、私はこれを書いて載っけて旅に出ます。
もちろん、苦情は受け付けません。ええ。書き逃げです。
                           ひょう
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