こころの傷 「おばーちゃん、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・・。」 暗い押入れの中で、あかねは泣いていた。 保育園が休みの日はこうして、祖母とふたりで過ごす。 まだ手のかかるあかねの世話を祖母が引き受けてくれていた。 ただ、祖母はしつけに厳しく、あかねが言うことを聞かないと、こうして押入れに閉じ込めていた。 扉であるふすまは、外からものさしで固定されていて、小さなあかねの力では決して開けることは出来ない。 ただ、身体を震わせて泣いて謝って、祖母が開けてくれるその時を待つしかなかった。 一時泣いて、声も涙も枯れた頃。 いつもは今くらいに、外に出してくれるのに。 泣き止めば、ふすまは開く。 幼心に覚えたこと。すべては、苦しみから逃れるため。 だけど、今日に限って、いつもの約束が守られない。 ただでさえ、不安なこころは、闇の中で更に震える。 「おばーちゃん。」 声を出すと、また涙が出てくる。 泣くと、出してもらえない。 言うこと聞かなくて、怒られて、悲しくて泣き出すと、うるさいって、ここ入れられるのに。 泣き止んだら、外に出してもらえる。 また泣いたら、もっともっとここにいなきゃいけない。 あかねは必死に涙を堪えて、祖母を呼んだ。 しかし、近くに気配はない。 わたし、忘れられちゃったの? いらない子になったのかな・・・。 「いい子にするから。もう、悪いことしないから。」 我慢していた涙が零れた。 声を出さないように、顔を横にある布団に押し当てる。 「外、出たい・・・よ・・・。」 くぐもった声をあげていると、唐突に外から声がした。 「誰か、いんのか?」 誰か来た? 「誰?」 「・・・・・何やってんだ? かくれんぼか?」 男の子の声。 意地悪そう・・・苦手かも。 「違う。」 「だったら・・・・・閉じ込められてんのか。」 どうやら、外から固定されているのに気がついたらしい。 「これ、外せばいいんだな?」 「駄目っ!!」 「なんで?」 「勝手なことしたら、おばーちゃん、怒るもん。」 「でも、やなんだろ?」 「・・・・・・叩かれる方が、もっとやだ。」 「だったら、ばばー、呼んで来てやっから。」 「いい。」 「どーして?」 「怖いから、そこにいて。」 誰もいない時は、ひとりでも平気だったけど、ふたりになった途端、 ひとり、暗闇の中に身を投じていることが怖い。 そのまま、この男の子はどこかに行ってしまうかもしれない。 それなら、いつか来てくれるおばーちゃんを待っていた方がいい。 「仕方ねーな。」 ふすまが少しだけ揺れる。 どうやら、男の子は背中をそこにつけて寄りかかっているようだ。 あかねは中からそれを真似、ふすまに背中をくっつけた。 ちょっとでも、誰かと触れ合っていたかったから。 実際に触れられなくても、あかねにとっては、すごく心強かった。 「ばばー、戻ってくるまで、ここいてやっから。」 「うん。」 目の前は真っ暗なままだけど、こころに灯りが灯る。 「なぁ、なんでおめー、閉じ込められてんだ?」 「・・・悪いことしたから。」 「どじだなー、逃げりゃーいいだろ?」 「無理だよ。他に行くとこないし、ここにしかいれないんだもん。」 「ここいんの、やなのか。」 「違う、やじゃない。おばーちゃんのこと、好き。」 「変なやつ。」 「・・・・・・。」 この子、やっぱり苦手。 「押し入れん中って、真っ暗なのか?」 「うん。」 「怖い?」 「うん。」 「・・・・・やっぱ、開けてやるよ。」 「駄目!!」 本当は外、出たい。 こんなとこ、いたくない。 「おめー、素直じゃねーな。」 「うるさい。ほっといて。」 わたしの気持ちわかるわけない。 「・・・・・おれ、もう行くからな。」 声色が変わったのがわかる。 やっぱり、わかるはずないよね。 「うん、いいよ。」 精一杯の強がり。 「いいんだな。」 「うん。」 ふすまがまた揺れた。 身体を離した証拠。 本当にいっちゃうんだ。 頑張った分、辛い現実が圧し掛かってきた。 少し乾いた涙の後がまた濡れる。 だけど 「ここに、いるから。」 え? ふすまをこんこんと叩く音。 「おれ、ここにいるからな。」 ぎしっと、ふすまがきしんだ。 また、そこに座ってくれてるんだ。 背中が あったかい・・・・・・。 ふすまに隔てられ、熱など伝わるはずがない。 だけど、この男の子の優しい気持ちが、あかねの身体を温めてくれた。 「喧嘩したくねーから、口、聞かねーぞ。」 「うん。」 「でも、ちゃんといるから。」 「うん。ありがと。」 ぽかぽかして、心地好くて、いい気持ち。 泣き疲れていたせいもあって、あかねはいつの間にか眠りに落ちた。 しばらくして、外に出してもらえたけど、その男の子はもういなかった。 そ れからは、あかねは押入れに入れられても、あまり怖くなくなった。 相変わらず泣いてしまうけど、前みたいにひとりぼっちの不安はない。 あの子が教えてくれたから。 暗闇は怖くないことを。 また、ここに来てくれるかな? 今度は一緒に遊びたいな。 わたしを闇から助け出してくれた、姿も知らないあの子と。 =おしまい= 呟 言 補足するなら、あの子=乱馬くんです、名乗らせなかったです。 名前も出さなかったです・・・ってわかってますよね。 こころの傷・・・トラウマってことですね。 何だか暗めな話で・・・すみませんです。 児童心理も掴めていないんだろうな、やっぱり。 この前に作った物が、私の中ではかなり重いので、 描いても、なかなか乱馬くんとあかねちゃんが動いてくれずで。 これを書いて、次、動いてくれるといいんですが。 ま、昔作ったもんでも出してみっかー。 ひょう