木の上





 おばあちゃんの家に預けられたまま、あかねはクリスマスを迎えた。


 嬉しかったこと。イブの夜、お母さんと電話で話せたこと。

 悲しかったこと。サンタクロースが、来なかったこと。


 いい子にしてたら、サンタクロースがプレゼントを持って来てくれるって信じていたから。


 プレゼントがほしいわけじゃなかった。ただ、みんなで一緒にいたかった。
でも、わがままを言ったら、サンタクロースは来ないって知ってたから。
それに、わがまま、言っちゃいけないことくらい、わかってた。

 だけど、本当はすごく羨ましかった。

 サンタクロースに貰ったって、そう言ってくる友達の嬉しそうな顔。
家族で一緒にケーキを食べたって言う、友達の幸せそうな顔。

「どうして、わたしのところにはサンタさん、来ないの? 自分の家じゃないから?
 サンタさん、わたしがおばあちゃん家にいること、知らないのかな?」

「いい子にしてたら、きっと来てくれるわよ。」

わたし、いい子にしてるよ?
わがままだって、言ってない。
まだ、駄目なのかな? 足りてない?
もっと、もっと、いい子にならなきゃ駄目?


 電話口で、お母さんに言いたいことは、たくさんあった。


みんなでケーキ食べたい。みんなで一緒に過ごしたい。

・・・・・・さみしい。


だけど、口に出したら、泣いてしまう。
泣いたら、お母さん、悲しむ。
だから、言わない。絶対言わない。

お母さんを、困らせたくなんかない。


「だったら、いい子にしてる。」

 それが、精一杯 我慢して出てきた言葉。

「風邪引かないように、あったかくして寝るのよ。あ、こっちはね、雪が降ってて、きれい。」

「雪?」

「うん、とってもきれいよ。」


 電話を切った後、窓際に行って真っ暗な空を見上げた。

「雪、降ってないかな?」

 窓を開けて、身を乗り出す。

「寒い・・・・・・」

 冷え切った外気が一気に部屋に流れ込んでくる。吐き出す息が白くなった。
それでも、天を仰ぐ。星だけが輝く空。
雪は・・・・・・降っていない。


「明日、雪が降りますように。」

 星空に向かって願いをかける。

 それが、私のほしいもの。
サンタクロースに望む、プレゼント。
せめて、雪が降ったなら、みんなといる場所は違っても、一緒にいるような気がするから。


 窓を閉め、眠りについた。







 翌朝早く、寒くて目が覚めた。急いでカーテンを開ける。
・・・・・・だけど、雪は降っても、積もってもいなかった。

「サンタさん、来なかったんだ。」

 がっかりして、布団に戻ろうとした時、枕もとに紙切れを見つける。

「なんだろう?」


いえをでて、よっつめのカドをみぎにまがって、そのまま まっすぐ。
かいだんのぼったさきにある、おおきなき。



「サンタさんからだ。」

 間違いない。サンタさんが、ここに来てくれたんだ。

 嬉しくて、急いでコートを着て、長靴を履いた。
メモを片手に外に出る。


まるで物語の主人公になったような気分。
冒険に出たみたいで、胸がわくわくしてきた。


 期待に、こころを躍らせながら、地図どおりに歩いた先は、
見晴らしのいい、おばあちゃんとよく来る、小さな公園だった。
大きな木が、この公園の目印になっている。

 木の下に、歩み寄り、上を見上げた。
冬だというのに、葉は生い茂り、枝の間は薄暗く、目を凝らしても何も見えない。


この木に何があるんだろう?

 そう思いながら、木の幹に背中をつけ寄りかかる。
しばらくその場に佇んでいると、ざわざわっと木の枝々が音を立てた。


ひらり


 白いものが、目の前をかすめて、足元に落ちる。

「え? 雪?」

 首を上げたら、木の上から、真っ白いものがたくさん降ってきていた。

 髪についたものを手に取る・・・・・・それは、小さく切られた紙きれだった。


 だけど、降り注いでる、それは本物の雪のように冷たく、そして、不思議と暖かかった。

「ありがとう、サンタさん。雪、ちゃんと、降ってるよ。」


 木の上。
姿は見えないけど、ちゃんとそこにいる、サンタクロースに、お礼を言う。



 木の上。
幸せそうに微笑むあかねの様を、小さく身を潜ませたまま、
口もとにやわらかな笑みを湛えて・・・・・・少年は、黙って見ていた。









                               =おしまい=



呟 言

乱馬くんとあかねちゃんのクリスマス・・・過去編。

な、何と言うか、その・・・突発的。本当、突発的に、発生しました。
だけど、その後の推敲は長く険しく・・・でした。
前の流れを汲んでいたりしつつも、意味ありそうでなさ気。
クリスマス、何故に過去・・・未来で甘く・・・そっち方向が、やっぱり、いいよね。そうよね・・・。
でも、あの・・・なんというか、微妙な触れ合いのようなのを、私的にどうしても・・・書きたかったのでした。

過去は暗い感じらしいことがこれにて判明・・・ってこれって乱あ小説って言っていいのかな。
乱あでも引っかかり、小説ってとこでも引っかかる・・・今日この頃。

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