冷めないうちに





「乱馬ー、ごはん出来たよー。」

 あかねは乱馬を呼ぶ。
道場でその声を聞いた乱馬は、稽古の為に脱いでいた上着を羽織ると居間へ急いだ。

「なー、今日のめし何〜?」

 わくわくしながら居間に行くと、テーブルの上に出来上がったばかりの夕食が並んでいる。
そこへ座った乱馬。

ご飯もお味噌汁もよそってあった。
箸をつけようとして、あかねがなかなか来ないことに気がつく。

「・・・・・腹、減ってんだけどな。」

 乱馬は仕方なく立ち上がると、台所に向かった。

「何やってんだよ、早く・・・あれ?」

 そこにあかねはいなかった。
正確にいうなら、さっきまでそこにいたらしい形跡は残っていた。
使ったフライパンが洗いかけのままだったから。

「何処行ったんだ?」

 思いつくところ、お風呂場、トイレ、あかねの部屋・・・探してはみたが、あかねの姿はない。
玄関まで出てきた。 靴はある。

外には出かけてねー・・・みてーだけど。

 乱馬はちょっと不安な気持ちになってきた。

「あ、道場!」

そうだ、おれがまだ道場にいると思って呼びにいったんだ。
その時ちょうど、入れ違って・・・。


 道場は静まりかえっていて、人の気配はない。

「あれ・・・本当、何処行ったんだ?」

いくら広いといっても、こんなに入れ違いになるもんか?
・・・とにかく、居間で待ってたら、戻ってくるだろ。


 乱馬は 結局 居間に戻り、
お腹が減っていたことを忘れているのか、出来上がっている夕食に箸もつけず、
ただ、あかねが来るのを待った。

 が、五分も黙っていられなかった。

 胸はざわつく。
そわそわして落ち着かない。
ドキドキと心臓は鼓動を速めた。


あかねは、何処にいったんだ?
さっきまでそこにいたのに。
何やってんだよ。
・・・・・一緒じゃねーと飯、食えねぇよ。


 乱馬は居た堪れなくなって急に立ち上がると、外に向かって大声をはりあげた。

「あかねー!!」




がたたっ


 奥の方から物音がした。

「?」

 乱馬はその音の方向へと走る。



がたん


 押入れからのようだ。

な、何だ? ・・・猫だったらどうしよう・・・。


 乱馬は警戒しながらそおっと、押入れを開けると、そこにあかねが小さく丸まって座っていた。

「あ」

 ふたりの目が合う。


 あかねは、ばつが悪そうに少し笑いながら、そこから這い出る。

「えへへ、見つかっちゃった。」

 乱馬はあかねの手首を掴むと、身体を引き出した。
その力の強さにあかねは驚く。

 乱馬を見るとむっとした表情。

ひょっとして、怒って・・・る?

「な、何よ。」
「何よ、じゃねーよ! おめー、何やってんだよ!!」

 乱馬は大きな声であかねを怒鳴りつけた。

「何って、かくれんぼしてただけじゃない。」

なによ! そんなに怒んなくったっていいじゃない!

「軽い冗談でしょ? そんな。」

 あかねの言葉を遮るように、乱馬はあかねの身体を引き寄せた。

「何よ、何すんのよ。」

 抱きしめている腕に力が入る。

「頼むから・・・・・こんなことすんな、冗談でもすんな。」

 乱馬の言葉にあかねはその腕の中で赤くなる。

「めちゃめちゃ心配しただろ。あかね、どっか行っちゃったって、まじ、焦った。」
「・・・・・・。」

 あかねは何も言えない。

「あかねの姿、見えなくなると不安になるから、だから、
 だから、おれの目の届く、手の届くとこにいろ。」

 乱馬はあかねの瞳を見つめる。
あかねもその真剣な眼差しに身体が固まる。

「わかったな?」

焦ってたおれ・・・なのに強気。
だけど、おれは本気だ。だから、わかったな?

「う、うん。」

何よ、乱馬ったら。格好つけちゃって。
焦ってたくせに・・・・・。
でも、すごく嬉しかったから、素直に言うこと聞いてあげる。

「わかった。ごめんね、乱馬。」

 そういうとあかねは乱馬ににっこりと微笑んだ。
乱馬はあかねの身体をあわてて離す。

「い、いいから、ほら、冷めねーうちに、飯食おーぜ。」

ったく、そんなにくすぐんなよな、おれのこころ。

「うん。」

相変わらず・・・奥手なんだから。


「一緒じゃねーと、おいしくねーからな。」

乱馬が背中越しに発したその言葉が、すべてを物語っているようで・・・。

「じゃあ、あーんって食べさせてあげようか?」
「・・・・・・。」

 耳まで赤くしている乱馬。

「冗談よ。」
「だから、冗談はやめろって。」
「・・・じゃあ、食べさせてあげる。」
「・・・・ほ、本当?」
「冷めないうちに、早く食べよ?」


 ふたりは居間へ戻る。
暖かい食事が並ぶその部屋に。





                       =おしまい=


呟 言
私にしてはめずらしく・・・タイトル、ひねっとります。
私はタイトルをつけるのがものすごーーく苦手かつへたくそです。
ダイレクトなタイトルしか思いつきません。
今回のはこれでもひねってます。
ひねらなかったら「かくれんぼ」になるところでした(汗)
これじゃあ読む前に話の内容見えてしまう、おもしろくないと思ったので、頑張ったです!
これから先を考えて、タイトル付け真剣に学んでみよう・・・       ひょう

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