優しさに擁かれて





「ちっくしょう、良牙のやろー。」

 いつもの調子で、乱馬は良牙と手合わせしていた。
軽い稽古のつもりがついお互いに力が入り、本気を出す。
必然的に身体は傷ついてしまった。

 服の下。肩が熱を持っていた。

「しくじったな。」


 だからと言って、このことを周りに知られては、
乱馬の持つ、高い高い自尊心が傷つけられてしまう。


 絶対に避けるべきは、あかねに知られること。
弱い男・・・なんて思われたら、見捨てられてしまうんじゃないだろうか・・・そんな不安がよぎる。
実際、こんなことで見限ったりなんかしないってことは、
あかねの性格をよく知ってるから、わかってはいるけど。
でも、あかねの前だけでは、強い自分でありたいから。

くだらないなって、本当、そう思う。
無理する自分の方が、あかねにとって受け入れ難いことだって、そんなことはわかってる。
だけど、どうしても、かっこつけな、おれがいるから。



 見つからないことを祈りつつ、こそっと出来るだけ静かに玄関の引き戸を開ける。
が、運の悪いことに、そこにあかねが立っていた。

「おかえり。乱馬。」
「た、ただいま。」

 返事する声がおかしい・・・と自分でわかる。
いつもどおりに振舞わないとって、そう思うほど、不自然になる身体の動き。
だけど、あかね、にぶいから・・・気付かないことをただ願う。

「どうかした?」
「・・・・・・。」

いつもは、鈍感なくせに。

「い、いや別に。」

 じーっと視線を感じる。

「・・・・・んだよ。」
「なんか隠してるでしょ?」
「なんもねぇよ。」
「嘘。」
「あーもう、うっせーな。」

 早いところ、この場から逃げなきゃ、ばれてしまう。

「言いなさいよ。」
「いいから、ほっとけっ!」

 知らず知らずに強い口調になっていた。怒鳴るような言い方。
まずいなって、流石に思った。

「なによっ!」

 ぷいっと後ろを向くと、どすどすっと奥の方へ。

 その背中に向かって、ごめん・・・・・って言葉を投げかける。
こういうのには気がつかないから、やりにくいよな・・・なんて思いながら。





 ひとり、部屋で湿布を貼ることにする。
片手の作業は難しいけど、やっぱりあかねには知られたくない。
傷よりも、気になるのはそのことばかり。
さっき、怒らせたし、部屋に戻ったみたいだったから、居間には来ないだろうって、油断してた。



ばんっ

 唐突に、ふすまは開く。

 眉がつり上がってる・・・あかねが立っていた。
やばって思った次の瞬間、曇り眉に変わる。

「なんで言わないのよ。」

強がってるって、わかんないか?
・・・・わかんねぇよな、あかね、鈍いし、おれ、こんなだし。

「・・・・・・。」

 返答に、困る。

「わたしには、甘えられない?」

 怒ってるっていうよりも、寂しそうに聞こえた。

「乱馬が困ってても、力になれないかな、わたし。」
「不器用な女に、手当てなんか任せられっかよ。」
「不器用じゃなくったって、答えは一緒でしょ?」
「わかってんじゃねーか。」
「・・・・・・そう。」

な、泣く?
あれ?・・・・・笑ってる?

「そうだよね、わたしったら、気が利かなくって、鈍いし。乱馬にわたし、必要ないよね。」

引き攣った笑顔の目元から涙。

 その涙の重さに比べたら、この傷は軽すぎる。すぐに痛みは消えてなくなる。
ただ、胸だけがぎしぎしと、ひどく軋んだ。

 あかねを泣かせると頭ん中ぐるぐるして、どうしていいのかわかんなくなる。
いつだって、笑顔に救われてたから。
どんなにきつくったって、それを見るためなら、その顔が見れるなら、
守るためならなんだって出来るし、なんだってする。
なのに、こんな悲しい笑顔、初めて見た。

こんな顔させるなんて・・・・・・謝んなきゃ。


 ごめんって、そう言おうとしたら、唐突にあかねの手が頭を押えて、顔を引き寄せられる。

「なっ、なっ。」

 目の前が・・・。

「それでも、甘えてくれる?」
「え。」

 固まる身体・・・・・・離れはしない。

「痛いなら、痛いって言ってほしい。」
「・・・・・・。」

 こうやって抱きしめられたいって、思ってた。
いつも抱きしめてる方だけど、泣いてもいいよ、辛いなら、力 抜きなよって、
・・・・・そう言ってほしかったんだ。

「今、だけ・・・だからな?」
「え?」
「おれは、強くあって、あかね、守るんだから。」
「うん。」


 やっぱり、かっこつけてしまうけど、しばらくは、居心地がいいから、
あかねの優しさに擁かれていよう。









                                  =おしまい=

呟 言

きついとき、辛いときって、誰かにぎゅって抱きしめてもらえると、途端、元気になれます。
ぎゅっとされてる腕の中で大声で泣くと、癒されるです。
それだけで、あっという間に立ち直れたりするんです。
そんな感じを、わかってもらえたら嬉しく思いつつ、
あえて乱馬くんではあるんですけど。あかねちゃんではなくて。
ここいらへん、私の願望みたいな・・・。

こんなん書いて、私はこころの整理がされてます・・・・・ひょう

>>> もどる