恋ニモマケズ






「あんまりおいしくない。」

「え。」

「あげる。」

「ちょ・・・なんだよ。」

面倒くさいの我慢してわざわざ並んで買ったのに。
食べかけの甘いお菓子をおれに渡して立ち上がる。

「ねぇ、あれ見たい。」

「は?」

捨てるには忍びないし、仕方なく口を付けようとする、
そのおれの腕を掴む。

「早く、行こ。」

「これ、どうすんだよ。」

「いいから、早く。」

「ああもう。」

一口でそれをほおばる。

・・・確かにあんまり美味しくない。
というか、あかねの好きな味じゃない。

そんだけしっかりした味覚があんのなら、
実生活で生かせよって言いたくなる。

そんな思いを当然あかねが知るよしもなく・・・。

かけだしてく、あかねの後ろ姿。

ああもうちっとじっとしてろっての。

お目当てのショーウィンドウの前。

「かわいい・・・ね、乱馬。」

おれの方を振り返り、にっこり笑ってみせる。

慣れてっけど、やっぱり・・・遠目なのにやっぱり・・・
その笑顔はかわいくて・・・ついついみとれる。

ぼぅっと立ち止まったおれにしびれを切らせたあかねは
走ってこっちに戻って来た。

「もう、早くってば。」

腕を引くあかねに従っておれはゆっくり歩きだす。

「ね! すごくいい感じでしょ。」

「・・・・・・。」

むぐむぐと必死に口を動かしながら、うんうんとうなずいて見せた。

「似合うかな?」

「着て、みれば。」

「うん。」

店の中に入って、すみませんと、店員を呼び、マネキンが来ているワンピースは脱がされる。
あかねはそれを手に取り、試着室に入った。

「あの形、今、流行ってるんですよ。」

「そうですか。」

「生地が・・・。」

あんまり・・・というか、ほとんど興味のない話を時間潰しに店員は話してみせる。

けど、正直そんなことはどうだっていい。
要はあかねが好きか嫌いかだ。

そんな折、シャッとカーテンが開かれる。

「どう?」

「・・・・・・。」

すごくかわいい。

その辺にいたやつらも思わずあかねにみとれてる。

「丈、変じゃない?」

鏡の前で一回りして、まんざらでもない、そんな顔をして見せる。

「早く、着替えな。」

「え。」

「いいから、早く着替えろ。」

「う・・・うん。」

再びカーテンが閉まる。

「よくお似合いでしたよ。」

そんなこと言われなくったってわかっているさ。

少しうつむいた感じであかねは試着室から出てきた。

「似合わなかったかな・・・。」

「・・・・・・。」

何も言わずに、試着したそれを奪い、店員に渡す。

「これ、ください。」

「え、ええ。ありがとうございます。」

わたわたと店員はレジへと向かう。

「いいの?」

「ああいうの、好きだろ?」

「うん。」

「今日買わなくったって、明日こっそりひとりで買いに来るだろ?」

「・・・うん。」

「だったらいいさ。」

惚れた者の弱みってやつ。
繋ぎ止める何かが欲しいから。

こんなもんじゃないってわかってても、
なにかせずにはいられなくなる。

店を出て、しばらくぶらぶらしてる間中、
ずっとあかねはにこにこしてて、こっち見る度、
そうやって微笑まれる度、顔が赤らむ。

「おなか空いたね、何食べよっか?」

「そ、そだな。」

返事がおぼつかない。
そんな自分がちょっと情けなくなるけど。

この辺に確か・・・こないだ友達と行った店あったな。
気に入ってくれるといいけど・・・。

「おいしい。」

「だろ。」

そんなに気取ったとこじゃないけど、
雰囲気は悪くない。

「乱馬って、美味しいお店、よく知ってるよね。」

「・・・・・・。」

それって・・・さりげなく責めてる?
というのは考えすぎかな。

「わたしみたいに雑誌に頼ったりしないのに、ちゃんと見極めてる。」

「おれは舌が肥えてんだよ。」

「・・・じゃあ、わたしの作る料理、おいしい?」

「え。」

さっきまで振り回されてたのに、一気に形勢逆転。
かなり感じる優越感。

「答えてよ、ねぇ。」

似たよな顔の女は探せばいくらでもいるだろう。

だけれど、あかねってやつはこの世にはここにしかいない。

こういうの繰り返しながら、惹かれてく。
どんどんのめり込んでく。

あかねがどう思っていても、どう思われてても、おれはおれ。

ずっと、きみに惹かれてる。












感 想

・・・理解不能な感じが・・・いつものことですね。
この曲聞いてもらうとなんか、ちょっとはわかってもらえそうな気がするんですよねぇ(さりげなく買えと言っている)。
でも聞いたら、えぇ!?と難色を示されそうなのも確か。
わかるような、わからないような。
そこがいいのか?   ひょう

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