そばにいて 最終章 城に着いた。 「ただいま。こいつのこと、わかったぞ。」 「おお、そちらの方は・・・」 「はじめまして、私あかね様付きの者でございます。あかね様は、我が国の王女なのです。」 「王女!」 「やっぱりそのような身分であったか。」 「あかね様には国に結婚を決めた相手がおられました。 しかしその方の裏切りにより、心を痛めたあかね様は国を飛び出し、 そうして記憶をなくしてしまったものと思われます。」 「そんなに、その相手を想っていたんだ・・・。」 ちょっと残念そうに玄馬は言う。 「いえ、そうではありません。あかね様はその方を決して愛してはおりませんでした。 国が決めた政略結婚で、多くの民の為、あかね様は心に偽りの愛を示しておられました。 周りから見ていても痛々しい程で、正直今回のことであかね様が自由になられたのを 心の底より喜んでおります。ただ、元よりお優しい性格の為、今回の結婚が破談になれば、 多くの民が苦しむと、そう思い悩まれたのではないのかと。」 「それで、どうなるんだ?」 乱馬は不安になり、先を聞いた。 「はい、その方が裏切りの行為を行った為、我が国は相手国との国交を断ちました。 相手国からはあかね様に対する謝罪と、決して我が国にとって不利益なことをしないと いうことで話がまとまりました。」 「じゃあ。」 「ええ、あかね様はもうその方と結婚する必要はありません。あかね様は自由なのです。」 そこまで話すとその女性はあかねを見て泣いた。 乱馬は安堵とともにあかねのこころを心配した。 こんなことを聞かされて、普通でいられる訳がない。 あかねは変わらぬ様子で、ただぼうっと立ちつくしていた。 女性はあかねの元へ近づく。 「本当に、おいたわしくて、私が変われるものならば、変わってさしあげたかった。 ですが、もう思い悩む心配はありません。さぁ、私と国へ帰りましょう!」 あかねの手を握りしめた。 「い、いや。わたし、帰りたくない。」 あかねは乱馬の後ろに身を隠す。 「国へ戻れば懐かしいものばかり、じきに記憶も戻るでしょう。」 「・・・・・・。」 「今日はもう遅いし、続きは明日にしようぜ。」 あかねの様子に、気遣う乱馬。 「わかりました。あかね様、私にも国での生活がございます。どうかご理解ください。」 そう言うと女性はその場を立ち去った。 あかねは眠れずにいた。 舞踏会ですべてを思い出していた。 だけど、思い出したとはいいたくなかった。 ただ、乱馬のそばにいたい・・・そう思う。 コンコン ドアをノックする音。 「もう、寝たか?」 乱馬の声! あかねは急いでベッドを降りる。 「ううん、起きてる。」 そういいながらドアを開けた。 そこには乱馬がいた。 「眠れないのか?」 心配して様子を見にきてくれたのだろうか? あかねのこころは、ぽうっと暖かくなる。 「おめー、王女だったんだな・・・悪かったな、メイドなんかやらせて。」 「そんなこと、全然気にしてなんかないよ。」 「あ、あのさ・・・。」 「うん?」 「やっぱり、親とか心配してると思うんだ。」 「・・・・・・。」 わかってた。 乱馬が自分を拒絶していることを。 ここにいてほしくないことを。 嫌いだということを。 「だから・・・さ。」 「わたし、ここにいちゃだめ?」 あかねは乱馬を見つめたが、すぐに瞳はそらされる。 それは、あかねにとって決定的な態度だった。 「明日、迎え、早いんだろ。早く寝ろ。」 「・・・わかった、おやすみ。」 あかねは慌ててドアを閉めた。 やっぱりだめだった。 「目障りだ。顔を見たくない。」 そういわれた方がよかった。 目だけをそらした、何も言わずに。 乱馬は優しい。 でもその優しさがあかねの胸を突いた。 「乱馬が好き・・・。」 この想いも、ここでの生活もすべてを封印しなければならない。 あかねは枕に顔をうずめ、声を上げて泣いた。 乱馬はひどく後悔していた。 本当はそばにいてほしい、そう伝えたかった。 辛い思い出のある国になんか帰らなくっていい、 記憶なんか戻らなくったって構わない。 自分のそばで、ただ笑っていてほしい・・・。 目の前で閉じられたドア。 あかねのこころと同じ。 せっかく開いてくれたのに自分の足りない言葉のせいで閉じさせてしまった。 「おれってこんなに素直じゃなかったかな。」 あかねにはもう男の影はない。誤解だった。 チャンスだったのに。 あかねのこころの隙間に入り込めたかもしれないのに。 なんで、ひと言が、言えなかったんだろう・・・。 翌朝、馬車がやって来た。 「わたしをここにおいてくださって、ありがとうございました。」 「やっぱり、帰っちゃうの?」 玄馬はあからさまに寂しい顔をした。 「はい。」 「そうか・・・いつでも遊びにおいでよ。」 「また寂しくなりますなぁ。」 早雲は少し泣いている。 「乱馬はどうしたんだ、全く。あかねちゃんがもう帰るっていうのに・・・。」 「いえ、いいんです。乱馬にはご迷惑をおかけしたと。」 「あかね!」 大広間に乱馬の声が響き渡った。 あかねがゆっくりと振り返ると、乱馬が近づいて来る。 「あかね。」 「は、はい。」 最後に何か言われる・・・あかねはこころを緊張させた。 なに? もう二度と来るなとでも言いたいの? それとも舞踏会で会っても声をかけるなと? 期待をするのは昨日で終わり。 期待しただけ裏切られるなら最初から期待なんかしない方がいい。 だけど乱馬はあかねを見つめた。 「あかね。」 名前を呼ばれるのは初めて。 いつもおめーとしか呼んでくれなかった。 最後に優しくなんかしないでって言おうとしたが、 乱馬の真剣な眼差しから心をそらせなかった。 「おれの・・・そばにいて。」 「え?」 意外な言葉にどうしていいのかわからなくなる。 おれのそばにいて・・・思考が止まって意味を考えられない。 「おれはあかねが好きだ。だから、帰るな。おれのそばにいてほしい。 あかねが他の男の名を呼んでいたから、諦めようとして辛くあたって・・・だけど、 昨日の話を聞いてふっ切れた。」 あかねは乱馬の腕の中へ飛び込む。 「嬉しい、初めて名前、呼んでくれた。」 「す、素直じゃねーんだよ、おれは。」 そう言うと、あかねの身体を抱きしめた。 「やっぱりな。」 その様子を見つめる玄馬と早雲。 「さすが、王。」 「あかねちゃんの国へ従者を使わせねばな。」 一ヵ月後、良牙王子の城へ手紙が届く。 婚約披露のパーティを開くから、ペアで来い。 乱馬 「やっぱりそうだったんじゃねーか!!」 「だ〜〜〜、もううっせーよ、てめーは!!」 良牙に小突かれながらも乱馬の顔は幸せでいっぱい。 その視線の先には・・・あかねが立っている。 今まで見たこともないような満面の笑顔で。 =おしまい= 呟 事 最後まで覚悟を決めてお読みになってくれたかたに敬礼。 貴重な時間をこんなもののために潰してしまったことに陳謝。 こんなんでOK? ひょう