幸せをおもうがゆえ  後 編





 翌日、早々にあかねと王子の婚約の儀は執り行われることになっていた。

「あかね王女、昨夜は心配しましたよ。」
「・・・・・・。」

 俯いたまま、少女は何も言わなかった。

「まぁ、結婚しちゃえば、こっちのものだけど。」
「・・・・・・。」
「だいたい、こんな小さな国、本来なら相手になんかしないけど、あかね王女が、
 すごくかわいいから、顔が綺麗だから結婚してあげるようなもんなんだけどね。」
「・・・・・・。」

 ただ、少女は俯いていた。


「これより、婚約の儀を執り行う。」

 王子に手を取られ、前へと進む。

「いい加減、顔をあげてくださいよ、王女。僕にその綺麗な顔を見せてください。」


 そう言って、王子は少女の顔を手で触る。
顔をあげた少女に王子は驚く。

「これ以上の嘘は、もうつけません!!」

 唐突に話し出した少女に周りはざわめく。

「ちょ、と、きみは?」

 そこにいたのは、あかねではなく・・・見慣れぬ少女だった。
ベールで顔を覆っていたせいで、顔が見えなかったのだ。
そばに用意してあったお湯をおもむろに浴びる。
と、身体の線が太くなり・・・女装した男の姿が現れた。

「この王子は、あかね王女ではなく、近衛兵であるわたしに興味を持たれ・・・
 それで、無理矢理にあかね王女の格好をさせて、婚約させようとしていたのです!!」

 周囲からどよめきの声があがる。

「わたしは男。それなのに、無理矢理にわたしを・・・。」

 しおらしく泣くその姿に、周囲はきつい目を王子にあびせる。

「これは、どういうことです?王子?」
「神への裏切り、神への冒涜・・・。」
「あ、あの、いや、だから・・・。」
「王子! おまえ、まさかっ!」
「ち、違うっ、ご、誤解ですよっ!」
「ひどい、王子様っ、わたしを騙したのですね。」

 乱馬の言葉に一同固まる。

「王子!!」

 居たたまれなくなった王子は更に慌てふためいた。

「さ、さよならー!もう、2度とはこの国には来ませんー!!」

 王子と、その父はそのまま逃げるようにいなくなった。
もう、ニ度とこの国には近づかないと誓約させられて・・・。


上手くいったな・・・
 
 乱馬は嘘泣きをやめ、柱の影に身を潜めていたあかねを見る。
あかねが『うまくいったね』と口をぱくぱくさせて話し掛けていた。



 昨晩、あかねの部屋を後にした乱馬は、何かいい方法がないかと考えていた。
そんなとき、王子とその父親の話を耳にする。

「あかね王女は顔が美しく、いわば装飾品のようなもの。
 よその国との外交に使えれば、我が国はますます繁栄、間違いなし。」
「ただの道具に過ぎないってことだね、父様。」
「そうだ。利用できるだけ利用しろ。」
「はーい。」
「あかね王女が歳を取り、美しくなくなれば、また新しく妃を迎えればよいだけのこと。
 それまでは大切にしてあげなさい。」
「はーい。」


 今すぐ出ていって、殴りたかった。

 あかねの純粋な気持ちをもてあそぶ、こいつらが許せなかった。
しかし、怒りに身を任せたところでどうにもならない。
逆に自分の立場が悪くなれば、あかねに迷惑がかかってしまう・・・。

 そうしていたら思いついた作戦。


 あかねを 守りたかったから・・・      

 彼女の部屋へ引き返し、伝えた自らのあかねへの想いと、誓った、奴らへの復讐。
あかねと語り合い、確かめ合った気持ち。

 あかねの身体を抱きしめて、あかねの瞳を捕まえて、
自分だけを見つめてくれるその瞳を、大切にしたい。

 あかねを守るのがおれの生きていく道。
運命なんて変えられる。
身分なんて関係ない。
あかねさえいてくれたら、それでいい・・・。
あかねが気づかせてくれた、愛という感情。


 あかねは乱馬の前に現れる。
そしてそのまま、その大きな身体に抱きしめられる。
暖かい乱馬の腕の中で、愛しい人と生きてゆける喜びに身を震わせる。

「乱馬・・・約束守ってくれる?」
「当たり前だろ?」
「ね、乱馬。今すぐ、わたしと結婚してね。」
「あぁ。おれがあかねを幸せにする。」
「嬉しい。」

 そうしてふたりは結ばれる。
強い絆は決して断ち切られることなどない。

 ふたりだけの場所で幸せを誓った。








                          =おしまい=



呟  事
というわけで、中世・護衛乱馬くんと王女あかねちゃんでした。
気にならない程度の続物。気になるくらいの続き物書きたいです。
私は自分自身、この中世を作るのが好きだ。
限りなき自己満足世界の中でここが好き。
自分で言うなよ・・・ってくらいに、このジャンルが大好きなんだっ!
というわけで望まれなくとも、こっち側どんどん書いていく予定。

ここまで前・後編、読んでくださった方に心底感謝。   ひょう

>>>もどる