奉仕の理想探求語録     第32号

        長崎東ロータリークラブ 雑誌委員会        

 

一笑の辞世句          (友1999−4号  伊達 深田健嗣)

 

願念寺境内に、松尾芭蕉の「奥の細道」の俳句、「塚も動け 我泣く声は 秋の風」

の石碑があることを知って行ってみた。

これは金沢への観光旅行何回目の時であった。

その石碑を見て、芭蕉がその俳句に詠んだ同じ境内にある小杉一笑の塚を、寺の許しを

得て見せていただいた。

三角おむすびを細長くしたようなその一笑塚には、

辞世句 「心から 雪うつくしや 西の雲」が刻まれてあった。

小杉一笑は芭蕉の門弟で、江戸にもその名を知られていた俳人であつた。

芭蕉が金沢を訪れるのを楽しみにしていたというが、その前年の暮れにこの世を去った。

「塚も動け」の句は追悼句会で芭蕉が詠んだのである。

私はいつも、冬が巡ってくると、この一笑の辞世句を思い浮かべる。

ところが平成5年12月に冠動脈の手術で入院した。

その札幌の病院から望む野も山も、そして街並みも、一面に雪景色。

その真っ白の銀世界を、真夜中に廊下の窓から眺めながら、おのが人生を省みることで

あったが、雪が美しいと気持ちには、ほど遠かったようであった。

それから5年がたったが、再発という不安を抱きながら、毎日を過ごしている。

 私は療養生活を送っていた若い頃、短歌に親しむことを知り、高齢になった今は

欲張って写真も始めた。

残された人生を、一笑の辞世句のような心境に達するのは無理としても、そこに少しでも

近づきたいものだと、日々を大切に生きたいと念願している。