奉仕の理想探求語録 第47号
長崎東ロータリークラブ 雑誌委員会
変わってはならないもの
(友2000−8 田辺RC 森脇 要)
現在、日本の医療は大きな変革の時代を迎えようとしています。診断技術、治療方法
などの進歩に加えて、医療の仕組み、制度も大きく変わろうとしています。
例えば、分子遺伝学研究の発展は、遺伝子診断や遺伝子治療を可能にしました。
また対外受精技術の進歩による不妊治療の発展があげられます。
臓器移植の実用化などを含めて、医療倫理の面にも大きく影響を与えています。
医療現場では、医療費を抑制する必要が叫ばれる一方でより質の高い医療を提供
する事が求められています。
その結果、病院の運営のあり方にも、大きな変革が求められることになるでしょう。
医療現場では進歩した技術の一つに、疼痛緩和技術が上げられます。よい薬の開発とも
あいまって、その応用技術にも工夫が凝らされ、末期ガン患者の疼痛も、大きく緩和される
ことになりました。
私は医師になって40年近くになりますが、なりたての頃は、患者の背中をさすって、
「もうすぐよくなりますよ」「もう少しの辛抱ですよ」といって、励ます以外になす術も
なかったことを思い出します。看護婦や家族もそうやって慰めていました。
私は、医師としての無力に絶望感を抱くこともしばしばでした。
そうするしか、できることはなかったのです。
しかし、現今の末期ガン患者のベッド周辺の雰囲気は様変わりして、痛みを訴えることは
ほとんどなくなりました。「もし痛ければいつでもおっしゃってくださいね」と、
若い医師もすまし顔です。隔世のの感です。ですが、私ども医療に携わる者は、患者の
背中をさすることをともすれば、忘れがちになっているのではないか。ふとそういう思いに
とらわれることがあります。
かように、医療技術の進歩によって、医療現場ではさまざまな変化が起こっています。
けれども一方では変わらないもの、いや変わってはならないものがあります。それは
「思いやりの心」ではないでしょうか。患者の苦しみや悲しみを患者の立場にたって
共感する、医療はこの共感に依拠していなければなりません。
この共感の前提となる創造力を、私たちは大切にしなければならないと思います。
激しく変動するこの時代に、変わらないもの、変わってはならないものを見つめ続ける
ことが重要です。
(長崎北RC 三原さんから紹介をいただきました。)