奉仕の理想探求語録     第52号

          長崎東ロータリークラブ  松林政寛選        

 

水一升に油一滴    (友 2002−7  呉東  賀谷倭登)

 

 昔から、商人は儲けて当然であるが利潤追求も千差万別であって「商人には商人道徳と

いうものがあり、正しい利潤を追求しなければならない」と中国の孔子は説いている。

21世紀の現在は、商人道における金儲けの感覚がいささか変わってきているようだ。

人間対人間の貸借関係をみても、昔は金を借りたら人様のものは必ず返すことが鉄則で

借金も能力以上は借り入れたものではない。それが常識とされた時代、先輩は日常努力

精進したものだが、昨今はどうだろうか。貸借が昔の感覚と異なっている。

IT革命の時代となり、便利な半面、信用不安を招く危険性も存分にあると思われて

ならない。

先人は信用保持について、充分に気配りし、努力もしたものだが、今の社会情勢はいかが

であろうか。疑問に思われる節が多々あるようである。

 私は幸いに子供のころから恵まれた家庭に育ち、ものに不自由な生活をしたことがなく

生まれたときから男女の使用人を家庭で住み込みで使っていたが、時代が落ち着いていた

こともあって不正なことをする者はひとりもいなかった。

「水一升に油一滴」の例え話をよく老婆から聞かされた思い出が残っている。

教訓は今でも一緒であって、鍋にいれた飲み水一升に、もし機械油一滴を落としたと

したならば、たちまち油は表面一面に広がって全部が油のように光ってしまうから

とても飲用にはならない。たったひとしずくで水全体をダメにすることは恐ろしいことだ

と思う。

それと同じことが人にも言えるように思うのである。これまでなんの過失もなく楽しく

暮らし、金銭の使い方にもなんの欠点もない人でもわずかの金、例えば5000円、

1万円の金の使い方を誤っただけで、あたかも油ひとしずくが水面に広がるように、

その人の全部が信用不安につながることがある。

先日の新聞の記事にも自殺者がなんと3万人も出た、と報じられたが、こと金に関して

心せねばならない。金ほど危険なものはない。金は人間の命を取る、との教訓通りだ。

時代はいかに変化しようと、利己と利他の調和の大切さがよく認識される。

信用こそ時代を超越した人間の生きる道の根幹であることを痛感し、新時代に勇気百倍

して挑戦する覚悟を新たにしている。

油断のならぬ時代の到来でもある。