PARTV「目指すは椎葉林道」

師匠の一番弟子を心の支えに、宮崎県の椎葉林道を目指す。
気心の知れた仲間達とのツーリングは最高でした。


●大学生最後のツーリング

時は、PartU(熊本編)から半年経過した昭和59年3月。既に就職が内定していたものの、
一科目でも落とせば留年という厳しい状況である。悪いことに、ツーリングから戻る日と卒業者発表の日とが重なった。「人生の大きなピンチの時期にツーリングに行くなんて、罰が当たって留年するさ」と母に言われながらも、私は仲間達との最後(?)の想い出づくりとしてツーリングに参加した。

参加人数は、前回より3名増え、総勢6名。我々が選択した場所は九州で有名な「椎葉林道」である。日程も2泊3日と少し余裕がある。

私達一行は、前回同様フェリーで熊本に渡り、地図と道行く人達を頼りに一路椎葉林道を目指す。
途中、熊本市の河川敷で休憩
(写真)、仲間達はその河原敷きのジャリ道を林道に見立て、トレーニングを行う。一方案内役の私は、これからの道程を地図で確認する。林道まではまだまだ遠い・・・。


●またしてもパンク!

椎葉林道の位置はおおよそ検討つくのだが、地図上にその入り口までは記載されていない。先頭を走る私は、「行けば解るやろ〜」と開き直り、皆を誘導する。途中休憩したり、ガソリンを補給をしながら、しばらくオンロードを走っていると、ある山間で突然雨が降ってきた。
そこは準備万全、雨合羽を着用し、濡れたアスファルトに気を付けながらしばらく走っていると、今度は後方でクラクションが聞こえる。

先頭を走る私は、何事かと思い速度を落とす。
「パンク!パンク!」の叫び声である。前回同様、またしてもパンクである。しかも、後輪がパンクしている。雨が降る中、皆不安に・・・。

しかし、今度は師匠の一番弟子H氏がいる。手際良い見事なパンク修理に全員ホッとする。


●林道は疲れる

いよいよ、林道突入である。前回は、3名ともいわば「素人」であったため、走る速度に大差はなかったが、今回は、師匠の一番弟子から初めて林道を走る者まで「レベル」に違いがある。

各自のペースに任せると、全体的な走行のバランスが崩れてしまうので、まず、一番早い者が最後尾、用心深い私が最前を走る。皆が林道の走りに慣れた頃、私が最後尾になる等、順番を変更しながら走る。
しばらくすると、その順番に変化が生じた。「林道の走りは競争でない」とは言え、やはり前を行く者に離されたくない、できれば追い越したいと思うからである。 こうして、最後は、各自のペースで1時間ほど走り、その後休憩をとった。
全員が遅れまいと頑張ったのだろう、休憩中の写真はまさに疲れ顔である。


●上達した?

皆、よほど疲れたのであろう、すぐに出発する気力がないようだ。そこで、休憩を利用して、写真を撮ることとする。集合写真を写すのは簡単だが、走る姿を撮る場合は、シャッターチャンスが難しい。走る者とシャッターを押す者との呼吸が合わなければ、良い写真は撮れない。

私は、「顎を引き、右ひじを曲げ、左手を伸ばし、腰を入れ、左足を伸ばし・・・」などと考えながら、カメラを若干意識してコーナーを攻める。こうして、6人全員が撮り終えるまでかなりの時間がかかったが、充分休憩できた。

林道走行の証拠となる、そして、一生涯の想い出となるであろう貴重な写真を撮り終えた私達は、この後も、ひたすら走り続けるのである。


●ツーリングを終えて

このツーリングは、前回の3人よりも人数が多かったため、師匠が常々言っている「交通マナー」にも気を配った。また、休憩中には、次の休憩地点の確認はもちろん、走る順番など綿密に打ち合わせをした。
私は、案内役として先頭を走ることが多く、バックミラーで仲間の走りを確認しながら、一定の速度で走ることに神経を集中させる。一方、他のメンバーもマシン調整、宿泊先等でのマネジメント等、各々役割を分担し、全員参画型のツーリングであった。やはり、
気心の知れた仲間達とのツーリングが一番と感じた。


●エピローグ

ツーリングを終え帰宅すると、母から無事卒業した旨の朗報を受ける。いよいよ、4月から社会人である。
その翌年、林道ツーリングの再開を夢見て「YAMAHA DT200」を新調するが、結果的に通勤程度の利用に終わってしまう。
乗らなくなると当然、愛車の手入れも疎かになり、4年ほどでバッテリーが壊れてしまった。当時は長男が誕生したこともあり、妻の視線とオートバイの維持費を気にした私は、
断腸の思いで愛車を知人に売却する。こうして、オートバイとは無縁の生活が続くのである。

しかし、オフロード車に限らず、「オートバイに乗りたい、仲間とツーリングをしたい」という気持ちがあったのか、寒い日でも得意先回りに会社の原チャリを利用するなど、「ツーリング」気分に浸っている「たーさん」の姿があった・・・。