新採の研修

  とある自治体で、「新規採用職員(以下「新採」と略)に対し、職務上必要な基礎的知識、技能及び態度を習得させるとともに、公務員としての自覚を高め、もって職務への適応性を養うこと」を目的とした”新採職場研修”というものがあ った。
 そして、その研修では「新採と係が同じで5歳程度年長の職員」がトレーナーとなり、採用された日から1年6カ月間(「基本学習ノート」を活用した職場研修については1年間)新採の世話係となる。
 そして、新採は、1年6ヶ月後のアンケートで「わからないことがあっても教えてくれる人がいたので仕事を覚えるのが早かった」とか「トレーナーがいてくれたので職場の中にとけ込みやすかった」など、 前向きな感想があり、どうも、この自治体ではこの研修を今後も続けるようである。

 でも、僕は以下の点でこの研修制度に疑問を投げかけたい。

◆1年6カ月間の新採研修はあまりにも長くないか?(民間ではあり得るのか?)
◆「基本学習ノート」って、小学生の「夏休みの友」を連想しないか?
◆新採より5歳程度年上の人が、”管理者”の重大な仕事である「人材育成」、それも公務員のことを何も知らない”新採”の育成ができるのか?
◆「教えてくれる人」がいないと仕事を覚えないような方法は、”受け身”の考えを植え付け、職務上で重要な”自分で考えて行動する”人材育成につながらず、ちょっと恐い上司の下で働くと何も言えなくな り、結果、これまでの「県民ではなく上司の顔色ばかり伺う」職員を育成する可能性さえある。

 だから、どうせ1年6ヶ月も新採研修をするのであれば以下の方法が効果的ではないだろうか?

☆「納税」「用地」「福祉」の職場をそれぞれ6ヶ月勤務させる。
 これから新採の数は減っていくだろうから、受け入れる職場の負担もそんなに大きくないだろうし、これらの職に就いている人たちは現場でもまれているから比較的度量が広い。それに、何よりも、入庁してすぐに、公務員の仕事が「誰のお金で行われているのか?」とか「誰のために行っているのか?」 という”現場”を直接体感することは、彼らが、今後、自治体で業務を遂行していくための非常に大きな財産になる。

☆政策提案のプロジェクトを作成する。
 政策提案を、自分たちの力だけで「問題定義からそれを解決する政策」まで作成し、その結果を、(一部の分野しか把握していない管理職ではなく)その自治体の全てを把握している人(知事や市長)に発表し、そこで、その自治体の公務員としての心構えを伝授してもらう。 つまり、「まずは自分で考え、そして、答えを教えてもらう」ことにより、これも、彼らが、今後、自治体で業務を遂行していくための非常に大きな財産になるだろう。

 これらの2つの案は、入庁10年後に税務に勤務することになり、そして、そこで初めて知事に政策提案をした僕の経験を元にしており、決して、机上の空論ではない。

 年齢の近い職員が新採の”教育者”であれば、確かに職場では楽しいかも知れないが、住民主体の「厳しい現状」を直視できない人材、つまり「公務員主義の人材」が育ってしまう 可能性を、僕はどうしてもぬぐいきれない。

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