白い包帯

  今日は仕事を早引きして、脱毛をしにクリニックに向かった。
 実は腕が重たくて髭を剃ることが難しくなってきたので、半年ぐらい前から脱毛するためにレーザーを当てていたのだ。

 そして、その帰り、事件は起きた。

 クリニックからバス停まで歩くことにしたのだが、そのバス停まで後10mと言うところで、足が絡まってしまい、前のめりにこけてしまったのだ。

 普通の人だったら手をつくこともできるだろうが、僕の場合、手が上がらないのだから頭からこけるしかない。

 そして、起きあがろうとしたとき、頭から吹き出てくる血に気付いた。
「どうしたかいいのか?」
 全くわからなかったが「こういうときは動かない方がよい」ということを聞いたことがある。
 だから、半分寝込んだまま地面に吹き出てくる血をじっと見つめていた。

 すると、徐々に周りが騒がしくなってきて、ある女性の「きゃー血が出ている!」という言葉に端を発したようにたくさんの方が「大丈夫か!」「誰かタオル持ってないか?」「救急車、救急車」と動き出してくれて、そのおかげでそんなに時間をかけずに救急車が来て処置をうけることができた。

 残念ながら、僕はその間ずっと下を向いていたので、お世話をしてくださった方の顔を見ることができなかったが、心よりお礼を言いたい。

 本当にありがとうございました。

 そんな感謝の気持ちがある一方で、一向に止まる気配がない血を見つめながらこんな事も考えていた。

「最近、よくこけるようになったが大きな怪我がなかったので気にせずに外出していたが・・・。でもこの怪我で、さすがにパートナーも”お願いだからもう余り歩き回らないで”と言うだろうなあ」
「僕は今まで結構がんばってきたけど、この辺が潮時かなあ」
「これで亡くなった方が楽かもなあ」

 究極のマイナス思考かもしれないが、張りつめた糸は簡単に切れてしまうものだ。

 しかし、医者からは「レントゲンを見る限り骨に異常はない。もう少し様子を見ましょう」と言った。
 「おまえはまだまだがんばりが足りない。もっとがんばれ!」と言われているような気がして遠くを見つめてしまった。

 祖母の家に子どもを預けて駆けつけてきたパートナーに「”お願いだからもう余り歩き回らないで”と思っているだろ?」と聞くと、「なんで?元気そうじゃん」と答えた。

 そして、子どもを迎えに行って家に帰ると、3人はいつものように布団に直行していった。

 何も変わらないその景色の中で、頭に巻かれた白い包帯だけは僕に「今日起こったことを忘れるなよ」と言っていた。

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