1本の電話

 

 1本の電話があった。

「ALS患者支援の会の活動、お疲れさまです。あなたと同じ病気を患っていたうちの義父もこのような会が出来たことを本当に嬉しく思っていたようです。私にもすごく優しい義父だったんですよ。ほんと。でも、先日、 なくなりました。だから、本当は、何かお手伝いをしたいと思っていたのですが、しばらくの間、家族一同、ALSを患う前の元気だった義父の思い出と一緒に過ごしたいと思っていますので・・・ 。本当にすいません。でも、これまで義父が使っていた意思伝達装置は、ALS患者支援の会で活用していただければと思い、電話しました。」

 その後は、鼻をすする音と「本当にごめんなさい」という声が繰り返された。

 こんな時、僕はいったい何を言ったらいいんだろう?

「発病から3年間、本当に大変でしたね。でも、もう、この病気のことは忘れて良いですからね。本当に気にしないで良いですから。」

 僕はいったい何を言っているんだろうか?

 そういえば、最近、こんな事をパートナーに言ったことがある。

「僕は絶対病気を治してみせる。でもね、もし、病気に負けてしまったらね、もう、この病気と関わらないで良いからね。僕が勝手に”ALS患者支援の会”を創ろうと頑張っているだけだから。万が一のことがあれば、その後は、ALSと関わらない生活を送って いいからね。」

 なんだか、電話の相手を自分のパートナーと思って話していたような気もしたような、でも、違うような・・・。

 最近、ちょっと思うところがあって、なかなか寝付けない日が続いたが、今日の件をきっかけに、これからも続くかも知れない。

 僕は、「一日に一回は人々の笑顔がこぼれるような街にしたい」と思って、公務員になった。

 ALSを患った人やその家族の笑顔を創るために僕ができることは何か?

 そのことを、僕は、もう一度、頭の中で、強く、強く、強く、繰り返した。

 
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