紙飛行機

 

 長男が保育園で紙飛行機の折り方を覚えてきた。
 しかし、家ではなかなかうまく折れず、ついに、「あ〜うまくできない〜」とカンシャクを起こし始めた。

 お母さんは娘を寝かせに別の部屋に行っていて、ここには僕と長男の2人しかいない。

「大丈夫だよ。お父さんの言うとおりにしたらうまく折れるよ。」
 と、横から一生懸命教えるのだが、後少し、というところで「クシャッ」となってしまう。

 そして、また、「あ〜ん、お母さんを呼んでくる〜」と泣き出した。

「大丈夫だって。お父さんが折ってやるから大丈夫だって。」
 と言って、比較的動く”小指”と”薬指”を使って紙飛行機を折り始めた。

 昔なら”ものの1分”で折れていたものが、今では最初の一折りさえ大変な作業だった。

 あっという間に汗が出てきた。

 頭を支えている首に力が入らなくなり、頭がブランと落ちてしまい、呼吸も しにくくなってきた。

「あ〜、やっぱり無理だ。もう止めよう」と何度も思ったが、泣きやんで僕の隣から真剣にのぞき込んでいる長男に「あきらめた父親」の姿は絶対に見せたくない。

 後一折り。

 何とかそこまで来たのだが、その一折りがどうしてもできない。
 もう、指に力が入らない。

 天井を見て「もうだめだ。もういけない。どうしよう」と思い、もう一度、下を向いた。

 汗が鼻の頭を伝って紙の上に落ちた。
「いけない、いけない」ともう一度天井を見上げた。

 タオルを持つ手が”おでこ”まで上がらず、汗が拭けない。

 そんな僕をずっと見ていた長男が「そこだけお母さんにしてもらおうか?」と言った。

 彼の目にはもう涙はなかった。

 ホッとして、「そうしようか」と言うと、隣の部屋で寝ているお母さんのところに”作りかけの飛行機”をもっていき、そして、”完成した飛行機”を持ってきた。

 僕が「飛ばしてみなよ」というと、その飛行機は長男の手を放れ、スーと宙を舞った。

 「ヤッター!!」と二人して喜んだ。

 長男は何度も何度もその飛行機を飛ばして喜んでいる。

 僕は、その姿を見ながらこんな事を考えた。
「どんな父親でも一生懸命子どものことを考えて頑張れば、子どももその気持ちはわかってくれる。だから、たとえ、最後までできなくても”できるところまで必死にがんばる”という気持ちが大事なのだろう。でも、 やっぱり、”紙飛行機ぐらい折れる父親”でいたいなあ」

 ”父親の一生懸命さ”をわかってくれる子どもだからこそ、「もっと父親らしいことをしてやりたい」という気持ちばかりが広がっていった。


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