TV撮影

 

 とあるTV番組の関係者から、こんな提案があった。

 「5〜6分の短い時間ですけど、この地域のALSに関する活動をニュースの中の特集で取り上げましょうか?そうすれば、あなた達が行っている”ALS患者支援の会”について、より多くの方の興味を持つかも?その場合、あなたやあなたの家族の様子も少しだけ特集の中に入れた方がよいと思いますが?」

 そして、この提案がきっかけとなって、先日、TV局の人が我が家に来た。

 最初、子ども達は、TV局の人に警戒していたが、彼らの必死の努力により、その距離は近まっていった。

 息子は、マイクの棒を指さして「これ、何の武器?」と触りたがり、娘はインタビュアーの人の膝の上に座り始めた。

 そして、大きなビデオカメラに興味を持ち始め、「お〜、すげ〜。この中にお父さんがいるよ」といって、妹を呼んでくる。

 こんな和やかな雰囲気で撮影は進んでいき、あっという間に1時間30分が過ぎた。

 そして、ついに、インタビュアーの人が僕にいくつかの質問をし始めた。

「いく頃から症状が出てきたんですか?」
「平成13年頃からですね。」

「最初はどんな症状だったんですか?」
「毎日のように”オカリナ”を吹いていたんですが、左手の指が動かなくなって吹けなくなったことが最初ですね」

「病院からは、いつ頃、告知を受けたんですか?」
「平成14年の5月ですね」

「告知を受けたときは、どんな気持ちだったんですか?」
「ショックだったんですけど、妻が取り乱していたんで、不思議と冷静だったんです。でも、その後、フッと涙が出ることがよくありましたね。やっぱり、きつかったんでしょうね。」

「その告知から、約一年後に2人目のお子さんが生まれたようですね。」
「一家の主っていうのは、やはり、最悪のことも考えておかないと、と思って。もし、僕がいなくなったら、ここには家内と息子しかいなくなるし、そんな状態で、もう一人家族がいた方が楽しいのかなって・・・」

 あれ?
 おかしいぞ?
 のどが詰まって言葉が出ないぞ?
 あれ?
 涙が出てきそうだぞ?

 僕は、この病気の件では、決して、パートナーを除いて、人前では涙を見せたことがない。

 いかん、 いかん。落ち着け。深呼吸だ。楽しいことを考えるんだ。

「すいませんでした。やはり、一家の主っていうのは、最悪のことも考えておかないと、と思って。もし、僕がいなくなったら、ここには家内と息子しかいなくなるでしょ。そんな状態で、もう一人家族がいた方が楽しいのかなって思って。でも、もしかしたら、2番目の子どもは父親の思い出を持たずに生きていかないといけないかも知れないし、そうなったら、娘から、”父親がいなくなると分かっていて、なんで、私を生んだのよ!”っ怒られるかも知れないし。だから、もし、娘の結婚式に出ることができたら、”お父さんはね、君に会うことができて本当に幸せだったよ”って言いたいんですよ。いや、2人の子どもの世話は、ほとんど妻がやることになるから、妻には、ほんと、迷惑を掛けてばかりで申し訳なくて・・・」

 こんなことを言いたかったのだが、焦っていたので、ほんとにこんなことを言ったのかちょっと自信がない。
 それに、支離滅裂な言い方だったので、たぶん、このインタビューのところはカットになるに違いない。

 どうやら、僕の中では、「告知の後に娘と会うことを決めた」ことは、本当に大きくて、つらい決断だったのかも知れない。
 そして、それは、娘から「私を生んでくれてありがとう」という言葉を聞くまで続くのかも知れない。

 

 こんな内容のインタビューを、子どもと食事をしながら撮影していたのだが、途中で、子ども達が駄々をこねはじめ、一時、インタビューが中断され、パートナーが子ども達を別の部屋に連れて行った。

 子ども達は、子ども達なりに何かを感じたのかも知れない。

 なんだか、子ども達に「ごめんね」と言いたくなってしまった。

 

戻る