子は鎹

 

 パートナーが、「隣町に家族風呂がある”温泉センター”ができた」というニュースを聞いてきたので、早速、入りに行くことにした。

 僕の場合、一人で着替えることができないので、「家族風呂」でないと温泉に入ることができない。
 
 だから、「家族風呂は2部屋しかないので予約をしていこう」と提案したが、「大丈夫よ」と言われ、予約をせずにそのまま温泉センターに行くことにした。

 そして、受付で家族風呂の空き状況を聞くと、案の定、満室だった。

 これで僕が入浴できないことは確定したが、温泉プールを楽しみに”水中めがね”まで持参してきた子供達の顔を見るとそのまま帰るわけにはいかない。

 仕方がないので、僕は、入室料480円を払って休憩室で待つことにした。
 そして、それを見かねたパートナーが「指圧マッサージ」の券を買ってくれた。

 子供達と別れて待つこと1時間。

 やっと僕のマッサージの時間が来たのだが、どうしてもマッサージ券をポケットから出すことができない。

 待ち疲れてイライラしていたこともあって、「もういいや!」とマッサージを受けることをあきらめて待っていると、満足げな顔をした子供達と疲れ果てたパートナーが帰ってきた。

 彼らは彼らで、どうやら、プールで監視員の方に「プールに顔をつけないでください」とか「そっちには行かないでください」など、散々注意を受けてしまったらしく、大騒動だったようだ。

 そんな疲れ果てた顔のパートナーから、開口一番「高いお金を払って買ったのに・・・。なぜマッサージを受けなかったの!」と怒られた。
 とりあえず言い訳をしてはみたが「マッサージ券ぐらい受付の人にとってもらえばいいでしょ!」という反撃に遭うだけだった。

 彼女がとても疲れているのは顔を見て十分分かったが、僕だって疲れていた。

 「まあ、いいじゃないか。それより食堂で食事しよう」と提案したが、「何言ってるの!払い戻してきて。」と言われ、受付でいろんな言い訳をして何とか払い戻してもらうことに成功した。

 その後、やっと、食事をすることができたが、パートナーが「マイ食器」を忘れてきたため、僕は一口食べるのも苦労していた。
 さらに、「保育園の友達家族」が近くにいることに気づき、何だか恥ずかしくなってきて、悪戦苦闘して食べることも止めてしまった。

 結局、子供達以外は「疲れるために温泉に行った」ようなものだったが、子供達のはしゃぐ姿を見て、夫婦で目を合わせ、子ども達に「また来ようね」と言ってしまった。

 なんとなくだが、「子は鎹(かすがい)」という言葉の意味が分かったような気がした。
 

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