お見舞い

 一代で会社を興し、成功した人がいる。

 その人と話をしていると、たまに「厳しいなあ」と思うことを言うこともあるが、それは、「厳しい”生き残りの世界”では、負ければそれで終わり」であり、「甘い考えでは会社もつぶれてしまうし、そうなると社員やその家族を路頭に迷わせる」ことを知っているから、つい、厳しい内容になってしまうのだろう。

 僕も、「公務員だからといって”甘い考え”ではいけない」と、周りに「厳しいなあ」と思われるようなことも、”県民サービスの向上のために必要”と思えば、躊躇せずに言 うこともあり、その人の考えには共感するところがある。

 その彼が、脳に腫瘍ができ、手術を受けた。

 家族にはだいぶ迷惑を掛けていたようだが、手術は無事に成功したように思っていた。

 しかし、2回目の手術を受けることになった。
 そして、お見舞いに行くと、「今度の手術は少し恐い」と、その人から、初めて弱音を聞いた。

 彼は、よく転ぶようになってしまい、その結果、病院から「入院中は室内の冷蔵庫の中のものを取るときも危ないのでナースコールをしてください」と言われ、ガラにもなく?それを素直に 守っている。

 「転んで1週間も経っていない僕」としては、「そんなこと気にしないで歩き回った方が元気になりますよ」と言ってはみたが、病状の違う人に「わかったふうなこと」を強く言うこと はできなかった。

 ただ、「手術が終わったら、以前約束していたように、”ウナギ”をごちそうしてもらいますからね。あ、それに、僕の子ども達を”観覧車に乗せてくれる”と言った約束も、きちんと守ってもらいますからね」と いうことは、約束は約束として、強く言った。

 約束は約束。

 どんなに彼がきつくても、「”ウナギ”をおいしそうに食べる僕の姿」と「観覧車に乗って喜ぶ子どもの姿」だけは見せよう。

 そう強く思った。

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