知られざる世界の話

 


 今日は、体調不良で、残念ながら仕事を休んでしまい、「家族の帰りを待っている一日」だった。

 そして、夕刻時、家族が帰ってきて、みんなで夕食をとった。

 その夕食の時、長男がこんな話をしてきた。

「僕ね。ずっと前、雲の上からお母さんを見てたんだ。」

「え?それって、どれくらい前?」

「えっとね。ずっと前。雲の上から、”お母さんのところに行きたい”って思って、見てたんだ。そしてね。どうしてもお母さんのところに行きたかったから、”よーい、ドン!”って言う前に、先に走っていって、お母さんのところに行ったの。」

「え?いつのこと?」

「お母さんのお腹に行く前。それでね〜、雲の上にいるときにね、妹にもね、”いっしょにお母さんのところに行こうね”って言ったんだよ。」

 どうやら、長男は、「生まれてくる前」の話をしているようであり、その”知られざる世界の話”に、夫婦で少し興奮気味に聞き入っていた。

「へ〜、”お母さんがいい”って思って、”お母さん”を選んでくれたんだ〜。うれしいな〜。お母さんを選んでくれてありがとう!」

 パートナーは2人の子供達をぎゅっと抱きしめた。

「へ〜、うれしいことだね。そしたら、”お父さん”のことも、”お父さんのところに行きたい”って思ってくれたんだよね。」

「う〜ん・・・」

「え?そうじゃないのか?」

 返事が曖昧だったので、何度も聞いた結果、パートナーから「そんなにしつこく聞かないで」と言われてしまったが、ついに、子供の方が折れてしまったようにこう言った。

「う〜ん、・・・そうだよ」

 なんだか、渋々「そうだよ」と言わせてしまったような気がして、複雑な心境ではあったが、子供達が「こんな病気になるお父さんがいる家庭を選んでくれたこと」が嬉しくなって、僕も、2人の子供達をぎゅっと抱きしめてしまった。


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