2階級降格

 

 最近、この自治体にコールセンターが誘致された。

 そして、このコールセンターには50名の募集人員に対し、200名近い応募があり、その中には、”妻子がいる一家の主”もいた。

 つまり、仕事がない”地方”では、かつて”女性の仕事”と言われていたコールセンターも、貴重な就職先となっているようだ。

 時給650円で、1週間の研修の後、一日300件の営業の電話をし、3ヶ月後からは能力主義を導入する。

 なかなか、厳しい職場だ。

 こんな時、僕はいつも「自分が働く”公務員”の職場環境」と比較し、精神的な負担は承知の上でそれらに異を唱え続け、「1時間早く帰ってはいけない」「酔っぱらって仕事に来てはいけない」などと大きな声で主張し、その一方で、上司の意見を聞きながら、これまで無かった「仕事の効率やスキルアップが図れるような”事務要領”」を作成した。

 そして、その結果として、今日、人事担当課から2階級降格、つまり、入庁1年目の職員と同じ級に格下げとなった。

 ただし、経過措置として、「給料の額は今までどおり」とのこと。

 つまり、「あなたの能力は、公務員としては新人レベルだ」「今後、数年間は給料を上げない」という意味のようだ。

 僕は、病気を患ったことから「もう無理ができない」と思って異動を希望したときから、「もう昇級はできないだろう」と思っており、「君の給料は今後上げない」ということなら、わざわざ、等級を落とさなくても話し合いをすればいいはずだった。

 公務員の世界では、12年働いたぐらいでは、若干の昇給しかなく、僕の年収は、ここの公務員の平均年収にさえ100万円以上及ばず、20年働いてやっと平均を超える仕組みとなっている。

 その仕組みによって、僕は、この職場に異動してきた後も、他の職員同様、年功序列で”一般的な定期昇給”がされていたため、「もっと頑張って仕事をしないといけない」と思っていた。

 そんな矢先に、「何ら事前説明もなかったこと」は、大きなショックだった。

 かつて、地元の人を1000人以上雇用し、賃金だけで、毎年、10億円以上をこの地域に落としてくれる企業を誘致したときも、全く評価されなかったが、「年功序列の公務員で働いているのだから仕方がない」と思っていた。

 荷物が運べる力(能力)がなくなったら、何も言わずにいきなり降格してもよいのか?

 そんなことをしたことによる”相手に与えるショック”は無視してよいというのか?

 しかも、その相手が目の前のハンディキャップと闘いながら毎日必死に仕事をしていたとしても・・・。

 それがこの地域の公務員の考え方なのか?

 ならば、なぜ、当時、職場で「僕しか持たなかった”語学能力”」を駆使して企業を誘致したときに評価しなかった?

 ならば、なぜ、当時、職場で「僕しか持たなかった”IT能力”」を駆使して日本一アクセス数の多い公式ホームページを作成したときに評価しなかった?

 断っておくが、これらの能力は、僕が元々持っていたものではなく、「いつか仕事で役に立ちたい」と思って、数年前から頑張って独学で取得したものだ。

 僕の知る限り、民間企業でも「”成果”を評価せずに突然切り捨てるだけの人事評価」なんて聞いたことがない。

 もしかしたら、人事担当課が期待する”成果”とは、僕が描いている「県民サービスの向上」と異なるのかもしれないが、そんな人事評価を導入して、今後、職員に、いったい、何を期待するのか?

 また、このような評価は、僕以外の「病気と闘いながら健常者に負けないように仕事をしている人」にも行われており、その人が「もう一生懸命働くことは止めよう」と言っていたことにもショックを受けた。

 この評価制度は、どうやら、「これまで行っていた人事評価制度」の不備を国に指摘されたこともきっかけの1つのようで、「いっしょに人件費の削減もしよう」という意図もあり、短期間で作成し、そして、実行したもので、労働組合に対しても事後報告のようだった。

 仮に、人件費削減を主たる目的であったなら、「給料を減らさずに役職を下げる」よりも、「評価を人事担当課から民間企業に委託すること」を前提に定期昇給を廃止した方がよっぽど効果的だ。

 それに、「公務員の給料が高すぎる」という指摘があるのであれば、人事担当課の職員の給料も含めて、全体的に減らせばよいはずだ。

人事担当課は言う。
「この自治体の職員を”元気が出る職員”にする」

僕は言う。
「職員のやる気に直結する人事評価制度をこんな内容にして、本当に”職員を元気にする”ことができるのか、世間に問うてみる」

 公務員の意識改革にまず必要なことは、ハンディキャップを持ちながら100%の能力を出して頑張っている少数の人を切り捨てる「弱者切り捨て」よりも、経済から福祉まで広範囲の仕事がある公務員にとって、適材適所に人為配置し、全ての職員の能力を120%出し切る方法を考えた方が断然効果的だ。

 例えば、僕のような「3級の職員が担当した企業誘致という仕事を人事担当課長が担当し、もし、その結果が出せなければ新人と同じ2級に降格する」、というシステムにして、あなたの意識が前向きに向上していくと、本当に思うのか?

 こんなやり方では、たとえ、1割の職員の意識が高まったとしても、残りの9割の職員の意識が下がってしまい、とてもよい成果など得られるはずがない。

 仕事に対する気力が減ってしまった僕に「世間に問う体力」が残っているかどうか分からないが、この自治体への最後の奉公と思い、いけるところまでいきたい。


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