「リツコ14/30」

− あかぎりつこ、14さい! −


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19 June 07:28 PM ー 葛城家リビングルーム(1)



「・・・ミサト・・・」
「何?」
「食事って、レストランとかじゃ・・・なかったのね?」
「えへへっ? それがさぁ? 珍しく、創作意欲が湧いちゃって」
「創作・・・意欲ぅ?」

そう言ったきり、リビングの入り口で、リツコは思わず絶句した。
第一、あの不味いカレー(と称する謎の物体)を食べさせられてから、未だ、ひと月と経過してはいないのである。
創作意欲は結構だが、無二の親友をモルモット代わりに再利用(地球に優しい)するなぞ、人道にもとる行為だ。

『それに・・・これじゃあ、騙し討ちじゃないのよ?』

食事の誘いは確かに受けたし、それに快く同意をしたのもリツコ自身である。
しかしその時点では、「ミサトの自宅で」との言葉は只の一言もなかったし、そんな話になっていたら、即刻その場で断っていた筈なのだ。
が、ここはマンションの11階で・・・しかも、リビングにまで足を踏み入れてしまったのだから、迂闊(うかつ)のそしりは免れまい。
とは言え、食事に加えてアルコールが入る時など、車を置きに、職場からマンションまで戻る事なら良くあったし(そこから飲食街まではバスかタクシー)、のこのこ部屋まで付いて来たのも、ついでに荷物を置きに来ただけかと、「てっきり」勘違いしていただけの話である。

『・・・全く・・・』

まあ、しかし・・・だ。
このまま諦観していては、それこそミサトの思うツボ。 こうなれば、なりふり構わず「最後の手段」だ。
リツコは静かに息を吸い、ここぞとばかりに吐き出した。

「あっ、そうそう!(とワザとらしくポンと両手を合わせて) 私、用事を思い出しちゃったから、今日の所は帰らせて頂くわね?(にっこし)」
「えっ、えっ、え〜っ!? い、今来たばっかじゃん! そ、それに、せ、折角用意したんだから、今日ぐらいはゆっくりして行きなさいよぉ〜!?」

突然の話に、ミサトは必死で引き止める。 が、リツコの側には、「カレー事件」の二の轍(てつ)を踏む気など一切合切金輪際ない。
一応、同僚の機嫌を損ねぬ為か、「精一杯の作り笑顔」()を浮かべるが、ためらう様子もなく、さっさとミサトに背を向けた。

(注1)ホントはグーで殴りたかった。

「それでは御機嫌よう・・・あぁ、残念ねぇ?」

と、リツコが正に部屋から出ようとしたその時だった。
今しがた帰って来た様子の碇シンジが、学生服姿のまま、リビングルームに現れた。

「ただいま〜・・・って、あれ? ミサトさん、用意してくれてたんですか?」
「あっ、シンちゃん! シ〜っ! シ〜っ!! 言っちゃダメだって!」
「えっ? だってコレ、僕が下ごしらえしといたハンバーグ、ですよね? 後は焼くだけって・・・」

首を傾げるシンジの姿に、リツコも何やら悟ったらしい。
眉を吊り上げ、唇の端をピクピクと引きつらせながら、リツコが背後を振り返り見た。

「ミサト・・・説明して頂戴?」
「せ、せ、説明っスか?」

・・・よくも私を謀(たばか)ったわね?
有無を言わさぬリツコの口調に、葛城ミサトはタジタジだった。

「は、はい・・・スミマセン。 し、シンジ君が下ごしらえしたのを、パパッと手早く調理しました」
「・・・」

しょげ返った同僚相手に、ブザマね、とリツコが一言。
恐らくは前回、「驚異の味覚」を皆にけなされた作戦課長が、同居人の食材を横取りしてまで汚名返上を・・・と、言った辺りが真相だろう。
それにしても、姑息(こそく)な手段を大の大人が。 まぁ逆に、ミサトらしいと言えば、ミサトらしくもあるのだが。

「相変わらず、子供みたいね? ま、シンジ君のなら、例え「作戦局の某課長」が調理しても、「安全」なんでしょうけどね?」

・・・聞き捨てならないわね。
呆れ顔で言い切るリツコに、ミサトが思わず食って掛かった。

「・・・どういう意味よ?」
「・・・そういう意味よ?」

言ったきり、そのまま暫くにらみ合っていた二人だが、最初に視線を外したのはリツコの側だ。
これ以上は何を言っても無駄、とでも思ったのか、目の前にいるミサトの存在を完璧なまでに無視。 逆にシンジに向かっては、三十路女の老練さ――いやいや――したたかさを「これでもか」と思い知らせるような猫なで声で話し掛ける。

「それじゃあ・・・今日はご馳走になるわね? シンジ君?」

家主の意向は問題外、とばかりに、シンジの名前を強調し、科(しな)をつくってリツコが言った。

「はい。 お二人とも、お先にどうぞ。 僕は着替えて来ますから」
「ええ、ミサトと先に頂いてるわ? ごゆっくりどうぞ。 お気遣いなく」

そう言うと、「この猫かぶり冷血女が」とイライラした様子のミサトをものともせずに、シメに一発、右二十度方向に首を傾げてニッコリ微笑む。
知的な女性の優しい笑顔に、シンジは少しどぎまぎとした表情で、恥ずかしそうにそそくさと、二人の前を後にした。

「・・・ウフフ♪」

そんなシンジの後ろ姿を、暖かい目でリツコが見送る。
と、今度は一転。 笑顔「だけ」は崩さずに、揶揄(やゆ)するようにリツコが言った。

「シンジ君って良い子よねぇ? ある意味・・・「反面教師」のお陰かしら?」

・・・口うるさい小姑(こじゅうとめ)が。
チッっと短く舌打ちし、仏頂面でミサトが返す。

「それを言うなら「出藍(しゅつらん)の誉れ」でしょ? チョ〜優秀なネルフの管理職である私を見習って・・・」
「・・・諜報二課の報告書には、そう思えるような記述はなかったわねぇ? 家事の「一切」を「任せきり」の様子、とはあったけど?」
「ぎょ、ぎょ、ぎょっ!! い・・・碇司令も読んでるの!? そっ、その報告書!?」
「いいえ? 今の所は・・・だけど。 でも、読んで貰った方が良いのかしらねぇ?」

言った途端に、ミサトの態度がコロッと変わった。

「ま・・・まぁまぁまぁ、赤木博士! ささっ、えびちゅでもグッと・・・」
「ホホホっ・・・喜んで頂くわ?」

程よく冷えたビールを片手に、乾杯、とアルミ缶同士を軽く合わせる。
シンジ君のお手製と聞き、すっかり安心しきったリツコは、この時点で・・・自ら犯した重大な過ちに、まるで気付いていなかった。
フォークを伸ばして皿の上のハンバーグを一刺しし、事もあろうに、軽い気持ちで口の中へと放り込んでしまったのである。

「「・・・ウ゛ッ・・・」」(ミサト&リツコ)

舌の上に乗せた途端、苦くて、甘くて、刺激的な感覚が二人の全身を駆け抜けた。
口の中の水分が、チーズハンバーグという名の「人類未体験ゾーン」に吸い尽くされ、上下の唇がまるで接着されてしまったかのように動かない。
思わず鼻から抜いた息は、口内から立ち上る「この世のものとも思えない」鮮烈な刺激臭で満たされていた。

ミハホ〜〜〜っ!!

腹話術の要領でリツコが叫ぶが、今回ばかりはミサトも同じ状況らしく、喉をかきむしりながら、只々、涙目で首を左右に振るばかりである。

『い・・・一度ならず二度までもっ!!』

彼女の料理の難点は、実は素材の良し悪しにはなく、味付けにこそ、その最大の問題点が・・・。
薄れ行く意識の中、思いが至ったその瞬間、リツコの意識はついに途絶えた。


19 June 07:49 PM ー 葛城家リビングルーム(2)



「・・・う、う〜ん・・・」

倒れて暫し。 リツコがむくりと体を起こす。
不機嫌そうな顔つきで、なおかつ、ポリポリと片手でもって後頭部を掻きながら・・・という体たらくで、である。

「ミサト・・・は?」

半ばうわ言のように呟いて、ボンヤリした目で辺りを見回す。
と、真っ先に視線に入ったのは、Tシャツ姿で倒れている、サードチルドレン・・・碇シンジの姿であった。

「シ、シンジ君っ!」

ほつれた髪もそのままに、リツコは慌てて駆け寄ると、シンジの首筋に二本の指を素早く当てた。

「脈は・・・良かった、正常だわ。 でも・・・シンジ君までどうして?」

そう思った所で、見慣れた赤いジャケットが目に付いた。
ミサト・・・のようにも見えるのだが、この違和感はどうした訳か。

「ミサトっ! 起きなさいっ! 全く貴女は・・・ヒッ!!
「にゃ・・・にゃによぅ〜、うるちゃいわねぇ〜? あれ? どうちちゃったのかちら・・・わたち?」

葛城ミサトの「服の中」から立ち上がったのは、見た所、5〜6歳児程度の女の子である。
何故ココにこんな子が・・・ともリツコは思うが、その口ぶりと容姿には、何故だか強い既視感を感じていた。

「りちゅこじゃない? ど〜ちて、びっくりちたかおちてんの?」
「貴女・・・誰?」

これではレイね、と思いつつ、それ以外に適切な言い様などある訳もなく・・・。

「だりぇって・・・どちたの?」
「あ・・・う、う〜ん。 まぁ・・・ねぇ?」

素っ裸で両目をゴシゴシ擦り続ける幼女を前に、「ある確信」を持ってリツコが言った。

「ミ、ミサト・・・よね?」
「あったりまえでちょっ? ありゃ、りちゅこ・・・おっきくなってなぁ〜い? それに、にゃんだか・・・」
「問題は、私が、じゃなくって・・・貴女が、だと思うんだけど?」
「ほにゃ? ん? ありぇ?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お、おおぉ〜〜〜っ!?

「貴女が」との言葉に、ミサトは自らの上半身へと視線を移し・・・暫しの沈黙。(「チチ」が無い(当社比100%の減少)のを目視で確認
そこでようやく、そのキテレツな状況に気付いたらしく、手のひらでペタペタと体中を撫で回すと、いきなり素っ頓狂な声を上げる「プチ」ミサト。

「にゃ、にゃんでぇ〜っ!? どうちてぇ〜!? りちゅこっ! わたちにいったいにゃにをちたのよぉ〜!?」

グーに握った両手を、力任せにブンブンと振り回し――半ば錯乱状態にあるのだろう――ミサトがリツコに飛び掛る。
が、互いのリーチ差は決定的だ。 ヒョイとリツコが片腕を伸ばして相手の額を押さえにかかると、ミサトの前進はそこで止まった。

「ちょ・・・ちょっと落ち着きなさいよ! 私は何もしてないんだからっ!!」
「え〜ん、え〜んっ! りちゅこのばかぁ〜! 嫁(い)き遅れのオタンコなすぅ〜っ!」(お前の母さんデ〜ベ〜ソ
「こ、この・・・クソガキッ!(−− (son of a bitch !)

泣きじゃくるミサトの姿に、こういう時は子供が得ね、とため息交じりにリツコは思う。
実際、ミサトはコレで被害者確定(ガキンチョに責任能力なし)。 逆にリツコは、一人で原因究明の責を負わされるハメになったのである。

「ミサト・・・ちゃん? すぐ戻るから、ちょっと待っててね?」
「・・・え〜ん、え〜ん・・・」

取り敢えずは頭を冷やそう・・・と、リツコはそう言い残して洗面所へ。

「・・・真相究明と言ったって、ミサトはああだし、シンジ君は倒れたままで・・・」

呟きながら蛇口を捻り、何の気なしに鏡を見ると・・・。



「わ、私まで・・・なのっ!?」



鏡の中には、遠く忘れ去っていた・・・十数年前の自分がいた。


−あかぎりつこ、14さい− <終わり>


今日のひとこと。

「アッタマ(リツコ)ばっかりでも、カッラダ(ミサト)ばっかりでもダメよね?」(プチダ○ン♪)



〜皇帝誕生〜


リビングを通って風呂場に向かった碇シンジは、偶然にも、ミサトとリツコの「変身シーン」に出くわしていた。

「・・・う、う〜ん・・・」

一体どれ程の時間が経過したのか。
気絶していた碇シンジが、フラフラしながら体を起こす。

「・・・ウギャ?・・・」
「ペ・・・ペンペン?」

見慣れたシルエットに、クリクリとしたつぶらな瞳。
ペンペンは「マカロニペンギン属」(注2)のペンギンで、その属名の意味する通り、派手な眉毛が特徴の、粋(いき)でいなせな「伊達男」である。
体長は約60cm、体重は4〜5kg程度。 小型のペンギンで、ヨチヨチとリビングを歩く姿がとってもラブリ〜・・・な筈だった。

(注2)この場合の「マカロニ」は「伊達男」(だておとこ)という意味だそうです。

「あ・・・あれれ?」

ところが目の前の「彼」は、姿形こそペンペンにそっくりなのだが、全体的な雰囲気が、こう・・・何だかえらく妙な感じで。

「・・・クエ?・・・」
「・・・!?・・・」

甘えた声で鳴かれた瞬間、碇シンジは、その不可思議な違和感の正体にハタと気付いた。

現時点におけるペンペンの特徴は以下の通り。(いずれも目視による推定)

1.体重 : 35kg
2.体長 : 1m20cm
3.フリッパー(水かき)長 : 40cm
4.生息地 : 南極大陸及びその周辺
5.潜水能力 : 連続20分 最大深度500m


元々はイワトビペンギンか何かと思っていたシンジであるが、これではまるで・・・。

「え・・・エンペラーってカンジ?」(
「・・・?・・・」

英名 : Emperor Penguin
学名 : Aptenodytes forsteri
和名 : 皇帝ペンギン

ミサトハンバーグを食した事で、ペンペンは、ペンギンの中のペンギンである「皇帝ペンギン」へと・・・。(

「な・・・無かったコトにしちゃおカナ?」
「・・・クエクエ?・・・」

シンジは再び気絶した。

(注3)ペンペンちゃんだけデカくなりました。



 JUDDさんからSSを頂きました(^▽^)ありがとうございます〜

 ミサトさんの食事に誘われたリツコさんは騙されました。まさかミサトさんが作るとは・・・でもそれはシンジ君が下ごしらえしたハンバーグを焼くだけなので少しホッとしましたね。でもそれが命取り、焼いただけでもミサトさんの料理、地獄を見ましたね(^^;)

 その結果、リツコさんとミサトさんはなんと子供に戻っていました、!(ミサトさんは五歳児くらいに、リツコさんは十四歳に)

 ミサトさんの料理をペンペンも食べていたんですね。でも何故か大きくなってエンペラーペンギンに、出世しましたねペンペン(笑)

 シンジ君これは現実なんだよと感想を送りましょうね。

 とっても素敵なSSをくださったJUDDさんへ感想は掲示板かjun16に送ってくださいね。JUDDさんに送っておきます。

 皆さんの感想が作者の力になります!一言でもよいから感想を書きましょう!!


SSroom_5 −MADサイエンティストりつこ−

投稿:リツコ14/30 -あかぎりつこ、14さい!-