そらをとべたら さん 「お腹すいたね。」 あれ? 怒ってなかったっけ? だけど、あかねが話し掛けてくれてよかったって、心底思いながら、おれは返事をする。 「ああ、そうだな。」 「なに食べたい?」 「・・・一番、得意なやつ。」 「乱馬、いっつもそればっかり。」 「・・・・・・。」 それ以外、どうにもなんねぇからだろ。 そう言いたかったけど、のどの奥で詰まったその言葉を、無理矢理飲み込む。 ひとつでいいから認められるものが作れればいいんだ。 同じ物を繰り返し作らせれば、きっとちゃんと出来るようになり、 魔法世界に帰ることが出来るとおれは思っていたから、あかねに そうさせていた。 「いいから、早くしろよ。」 「はーい。」 あかねが軽快に指を鳴らせば、次々と料理が作り出される。 「なぁ・・・もうちっと、どうにかなんねぇのか?」 「そんなこと、言ったって・・・。」 ぶつぶつ言いながら、あかねは魔法で作った料理をおれの前に並べた。 形も色も・・・よくわからない、けれど湯気が出ているから暖かい物らしい。 これも修行のためと、あかねの作る魔法料理をおれは食べる。 というか、食べなければならない。 「で? これ、なんなんだ?」 「え・・・あの、だから・・・。」 あかねは口ごもってしまった。 「ま、いいけどよ。」 当たり前のようにおれはそれを口に運ぶ。 「・・・おいしい?」 「・・・・・・。」 いつもより・・・酷いな。 初めて口にした時、親父から聞かされてはいたが・・・これほど酷いとは思わなかった。 毎食作ってくれる、いや作らせる代物は、 自分の味覚を思わず疑ってしまうほど、変わっている味だった。 とは言っても、決して・・・まずいわけではなかったけど。 ひょっとして、さっきのことが尾を引いてるとか? 料理を生み出すことは、イメージと関係する為、ダイレクトにこころのありようが反映される。 他の魔法と違い、情緒で生み出さなければならないこの料理魔法は、確かに簡単ではなかった。 特にあかねのように素直な正確だと、機械的には作りだせない。 一度覚えた味を真似て作ることが出来ないのだ。 ・・・単に不器用ともいうけど。 今日のこの味が、特にこのことをあきらかにしているように思える。 こころが満たされていれば、味もまろやかでやわらかいが、 こころが乱れれば、味はとげとげしく舌に響くから。 あかねのこころが揺らいでる? おれが怒ったから? おれの・・・せい? 都合のいい考え方なのはわかってる。 そんなわけねぇだろ。でも、ひょっとしたら・・・。 「なんか、あったのか?」 「・・・わかる?」 「ああ。」 「・・・あのね、今日あったテスト、難しかったの。 終わったあと、友達と答え合わせしてみたら、わたしの答え、違ってて・・・。」 「・・・・・・。」 役に立たない勉強にすら、おれは勝てねぇのかよ・・・情けねぇな。 「もちっと、きばれよ。」 「・・・うん。」 「でなきゃ、いつまで経っても、あっちには帰れねぇ。」 「・・・わかってる。」 「大体、なんで、こんな初歩魔法が使えないんだよ。」 「・・・だって。」 「こんなのな、毎日食わされる方の身にもなれよな。」 「・・・嫌なら、もう食べなくっていい。」 あかねは指先をはじこうとしたが、慌ててその手をおさえ、止める。 「おれが食べなきゃ、おめーの修行にはならねぇんだよ。」 「・・・だったら、そんなこと言わないで。」 「ったく、なんで出来ねぇんだ。上級魔法は得意なくせに。」 魔法使いとしての素質は・・・多分、おれよりあるのかもしれないと思う。 まだまだその中に秘めてある潜在能力は計り知れない。 その証拠に、あかねは一度教えた魔法はどんなに難しくても決して失敗しない。 唯一、この料理の魔法を除いては。 「ねぇ、おいしい?」 「くだらねぇこと、聞くなよ。」 「・・・やっぱり、消す。」 「わ、わかったから、それはやめろ。」 「おいしい?」 「・・・昨日に比べればおいしい。」 「本当?」 「ああ。」 「そう。よかった。」 ほっとして笑顔を見せる。 いつみても、かわいいな・・・。 少し油断していた自分にはっとして、慌てて顔をそらし、俯いた。 「どうかした?」 「・・・いや。」 何も言えないおれは、残りの料理を慌てて口に詰め込んだ。 もうこれ以上、一時の間、なにもしゃべらなくていいように。 「残さず食べてくれたんだ・・・ありがと。」 「・・・腹減ってたからな。」 「今度からも少し量、増やそうか?」 「い、いや、いい。これで丁度いいんだ。」 「そう?」 「そう。」 「足りないときは、遠慮せずに言ってね。」 「ああ。」 この時、親父の言った、おれなら耐えられるっていう意味がなんとなくわかった気がした。 「・・・そんじゃ、行くか?」 「うん。あ、ねえ、乱馬。わたしは、どうしてたらいいの?」 「一緒にいるやつが、どっか連れてってくれっから、ついてけばいい。」 「うん。」 「けど、おれは人間じゃねぇからな。おめーが行きたいとこあれば連れてってやる。 どっか、行きたいとことねえか?」 「うーん・・・。」 「・・・・・・。」 「うーん・・・。」 「そんなに悩まなくったっていいだろ。」 「だって、せっかくだし。」 「・・・・・・。」 嬉しくて胸が躍ってる。 「普通こういうとき、どこに行くものなの?」 「ま、色々あるけど・・・街歩いたり、公園行ったり、映画見たり。」 「ふーん・・・それじゃあ・・・。」 「どこでも言いな。」 「乱馬が好きな場所。」 「え。」 「よく行くとことかないの?」 「ないことないけど・・・。」 「じゃあ、そこ。そこがいい。」 誰かを連れてったことないし・・・第一、あかねが気に入るかどうか。 「連れてってやるけど、行ってから文句言うなよ。」 「言わないわよ。」 「そんじゃ、手。」 「え? 電車とかバス使わないの?」 「あったりめーだろ。いちいち、そんな面倒くせぇもん使ってられっかよ。」 「ちょっと待って・・・本当に?」 「おれは冗談は好きじゃねぇ。」 「移動魔法で行くの?」 「そうだ。」 「乱馬、自分以外の生物の移動出来るんだ。」 「ああ。」 「・・・やっぱり、乱馬って凄いんだね。私、自分以外の生物は出来ないよ。」 「いいから、手。」 「うん。」 あかねは手を差し出す。 手首を握ればいいのに、おれはあえて、手を握った。 こういうの、役得とか言うんだよな・・・でも、ま、せっかくだし。 「そんじゃ、行くぞ。」 「うん。」 おれは軽く、指を弾いた。 「・・・あれ?」 目の前にいたはずのあかねはいない。 「失敗したかな・・・。」 もう一度、元いた場所に戻ると、あかねが手を差し出したまま、立ち尽くしていた。 「わりー、わりー。」 「もうっ! びっくりするじゃない!」 あかねは少しだけむくれている。 「もちっと、くっついてくれる?」 接触点が小さすぎて上手くいかなかったから、おれはあかねにもう少し近づくように促した。 「うん。」 大きな返事と共に、おれの身体にあかねはしがみつく。 い、いや・・・そんなにくっつかなくても・・・腕を組むくらいでよかったんだけど。 「これなら大丈夫?」 「た・・・多分。」 温かいあかねの体温が服を通して伝わってきて、 こんなにくっついたことなんてこれまで一度もなかったから、胸のどきどきが身体中を駆け巡る。 この顔色がばれないとこにしよう。 そう思い思い、おれは指を鳴らした。 >>>>> よん へつづく 呟 事 ああ楽しい。楽し、他の死だわ。 他の人全く無視のこの姿勢。 書き進めてくうちに、自分のやってることが正しいことのように思えてくるような、 そんな慣れ慣れした気持ち。 だから、楽しいに違いない。 間違いない。 そんな感じでまだまだ続きます・・・。 ひょう