そらをとべたら   ご





 すぐに休日はやって来た。


「ふたりで会うのか?」

「ううん。友達も一緒。」

「そっか。」


 それなら、ちっとは安心だな。


「ちゃんと、見ててね。」

「ああ。」


 そこんとこは、心配いらねぇ。


「それじゃあ、そろそろいってきます。」

「気、つけるんだぞ。」

「うん。」

「・・・軽々しく近づくなよ。」

「え? なに?」

「・・・ま、がんばれよ。」

「うん。」


 手を振りながら走って行くあかねの後姿を、しばらくの間、見送っていた。







「天道さん、こっちよ。」

「こんにちわ。」

「えっと、きみが・・・あかねちゃん?」

「はい。はじめまして。」

「よろしくねー。」


 あかねの他に、数人の男女がその場に集まっていた。

 この状況なら、そう易々と、あかねに近づくことはできないだろうと、おれは思う。
実際、移動するときも、食事をするときも、あかねの隣には男ではなく女がいた。

 だけど、次第に慣れてきたのか、
気がつけば、あかねの方から・・・人間の男に積極的に話し掛けていた。

 いつもは、あかねの周りに目を光らせているけど、
でも・・・話しては楽しそうに笑うあかねの笑顔がとても痛くて、
まともに話を聞き取ることなど出来なかった。







 夕方になり、あかねは帰って来た。

 鼻歌を歌い、機嫌のよさそうな様子。


「ただいま。」


 先に部屋で待っていたおれは、弾んだあかねの声に余計むかつく。


「あ、乱馬、もう来てたの?」


 悪ぃか。


「・・・・・・。」

「すぐ、晩ごはん、作るね。」

「いらねぇ。」

「え?」

「・・・・・・。」

「だったら、お勉強よね? ちょっと待ってて、着替えるから。」

「今日はもう、帰る。」

「え・・・どうかしたの?」

「別に。」

「ひょっとして、わたしのこと見てて、疲れちゃった?」

「違ぇよ。」

「なら、いいけど。」


 あかねにあたったって、どうにもならないし、自分が惨めになるだけ。

 そんなことはわかってる。

 わかってるだけに、抑えられない気持ちに振り回され翻弄される自分自身が情けない。

 そしてそれが、苛々を余計に募らせていた。


「あ、乱馬、あのね、聞いてたからわかってると思うけど・・・。」

「なんだ。」

「明日ね、学校終わってから、今日会った男の人と会うの。」


 なんだよ、それ。聞いてねぇ。


「この人なんだけどね・・・。」


 手帳に貼ってあるシールになった写真を見せられる。
小さいしぼやけてるし、いまいち顔はわからないが、そんなことはどうだっていい。


「ちょっと強引な人みたいなんだけど、でも断る理由もなかったし・・・会ってもいいよね?」

「・・・なんでおれに聞くんだよ。」

「だって、わたしとその男の人と、ふたりで会うから、乱馬に。」

「勝手にしたらいいだろ。」


 あかねの言葉を遮り、そう言い放つ。

 ああそうか。それで、あかねは機嫌がよかったのか。

 明日会う、その男のこと考えて、喜んでたんだ。

 結局、あかねも人間の男に惹かれたのだと思いながら。


「そんな風に言わなくっても。」

「だったら、どう言えばいい? 止めろとでも言ってほしいのか?」

「・・・・・・。」


 睨みつけるような、冷たい瞳。

 だけどその奥に、まるで悲しんでるような、歪み?・・・まさかな。


「と、とにかく、おれ、もう行くから。」


 まるで逃げるように、おれは窓から外に飛び出していた。









「乱馬。」

 あかねの部屋を出たところで、親父に呼び止められた。

「な、なんだ親父かよ。」

「明日、わしと一緒に魔法世界に来るのだ。」

「明日?」


 明日はあかねが・・・。


「おまえの今後のことで、王家の方々から話があるそうなのだ。」

「悪ぃけど、明日は外せねぇ用がある。」

「あかねちゃんのデートのことか?」

「ちっ、違うっ! おれはただ、あかねの父親に頼まれてるからっ。」

「そうは時間は取らせないようにしてもらうから、心配はいらん。」

「・・・・・・。」

「それに、天道くんも同席することになっておる。」

「けど。」

「よいな、日が暮れかかる頃、魔法世界に来るのだぞ。」

「お、おい、親父っ。」


 承諾もしないうちに、親父の姿は消える。


「目離してる隙に、あかねになんかあったって、おれは知らねぇからな。」


 いるはずのない空に向かって、おれはひとり呟いた。







 翌朝、顔を合わせ辛かったが、夕刻にしばらくあかねの元を離れることを
一応伝えておこうと部屋に赴く。


「おはよう、乱馬。」

「・・・おはよ。」

「朝ご飯、食べるよね?」

「ああ。」

「じゃあ、座ってて。」


 まるでなにもなかったかのように振舞うあかねの姿に奇妙さすら感じたものの、
よくよく考えてみれば、結局のところ、おれとどうなろうと、あかねにはさほど興味のないことで、
おれと仲良くなろうが、喧嘩になろうが、どうだっていいことに違いないのだと、そう思った。


「どうぞ。」

「いただきます。」


 並べられた朝食は、今までになく上手く出来ていて、味も悪くなかった。


 あかねは今、幸せってことかな。

 嬉しいことのはずなのに、胸の奥がちくっと痛む。


「おれ、今日さ、ちょっとあっち戻んなきゃなんねぇんだ。」

「うん、さっきね、おじさまに聞いた。」

「だから。」

「心配しないで。大丈夫だから。」

「・・・・・・。」


 おれの目が届かない間、自由になれることがそんなに嬉しいんだろうか。


「わたしのことなんかより、乱馬、しっかりね。」

「は?」

「あ、もう、行かなきゃ。」


 あかねは鞄を手に取る。


「ちょっと待て。」

「え? なに?」


 すさかず、おれはあかねの頭に手を宛てた。


「乱馬?」

「・・・・・・いいだろ。行ってこい。」

「う、うん。」


 あかねは首を傾げながらも、部屋を出て行った。



                                   >>>>> ろく へつづく





呟 事 

だったらどうした? 本当、だったらどうしただよ・・・本当にね。
こんなもん書いて載っける私はやっぱり変人ですな。

まだまだつづきます(汗)         ひょう
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