そらをとべたら なな その後、おれは人間界に一度も行くことなく、 当然、あかねとはあの日以来、顔を合わせていない。 気にならないと言えば嘘になるが、 あかねに相応しいのは、残念だけどおれじゃない。 これはふんぎりをつけるいいチャンスなんだ。 と、自分に何度も何度も繰り返して言い聞かせ、無理矢理納得させていた。 「あれ・・・おかしいな。」 この間まですんなりできていた、上級魔法が急に出来なくなった? あかねと関わらなくなった途端、調子が悪い。 まるであかねの料理だな・・・。 「なんだ、調子が悪いのか・・・まあ、よい。お前は私の側にいてくれさえすればよいのだから。」 あかねの監視役を降りたのもあって、 結局おれは、王女に魔法を教えることになったのだが・・・。 「大体、あんた、魔法出来るんだろ? おれが教えることなんかねぇよ。 なのに、なんでおれが教えなきゃならねぇんだ?」 「聞いておるとは思うが、お前はこの世界にとって必要な存在。 私はこの世界を後々は取り仕切る者。お前は私にとっても重要な存在になるのだ。」 「・・・いいのかよ? あんたはそれで。」 「私は構わぬ。王家に生まれた、それが私の運命。」 「・・・・・・。」 「こうして少しでも早いうちから一緒におるようにと、取り仕切ってくれておるのだ。 ・・・とは言っても、お前は納得してはおらぬようだがな。」 「おれはただ、魔法が他のやつよりちょっと出来るだけだ。 なのに、こんな馬鹿げた計画に、なんで参加しなきゃならねぇんだ。」 「私と一緒になるのがそんなに嫌か?」 「嫌とかそういう次元の話じゃねぇ。」 「あの女のどこがいいのだ?」 「あ、あかねは関係ないだろ。」 「あのような非力な女、お前とは到底つりあわぬ。 聞けば、初歩魔法すらろくに出来んというではないか。」 「料理魔法だけ、出来ねぇだけだ。」 「生きるのに必要な魔法すら使えぬ女と、お前は一緒になれるというのか?」 「おれがあかねと一緒になれるわけないだろ。第一、あかねは人間と・・・。」 「そうだ。魔法世界を捨て、愚かな人間と一緒になろうとするような女、 お前のような者が気にする必要はない。」 「別に気にしちゃいねぇ。」 「ならばよいが。お前は、あのようなつまらぬことに無駄に時間を使うことなく、 もっと高度な術を学び、己の力とするのだ。」 「・・・おれに命令するな。王女だろうが、おれには関係ねぇ。」 「そう言うな。お前は、この世界を治めるのだ。私と共にな。」 「おれは。」 「逆らえば、お前は魔力を取られ追放されるのだ。いうことは聞いておけ。 お前の力を失うのは惜しい。」 「・・・・・・。」 「答えは急がぬ。いずれ時が経てば、お前も変わるだろうからな。」 「・・・・・・。」 拒絶は出来なかった。 あかねのことを想う気持ちが変わったというわけではなく、 おれがあかねを守れるのは、魔法の力を持っているからだということがわかっているからだ。 この力を取られれば、おれはただの非力な人間になってしまう。 そうなっては、今までみたいにあかねを守れない。 「・・・それでもあの女のこと、気にしておるのか?」 「・・・・・・。」 「出来るだけ早く忘れた方がよい。」 「別に覚えていたくて覚えてるわけじゃねぇ。」 「気に入らん言い方かもしれんが、お前が振り回され、かき乱されるほどの、 それほどの女とは到底思えぬ。 なにゆえ、魔法に支障が出るほど、こころに影響を受ける?」 「自分でも、訳がわかんねぇんだ。あかねのこと考えると苛々して、 気持ち悪くて、どうにもならなくなる。 出来ることなら、あかねのことなんか全部忘れて・・・。」 「ならば、これを使うがよい。」 王女が握った手を広げると、持ち手に装飾の施された金の鍵が現れた。 「この城にある書庫の鍵だ。今のお前に役立つ魔法が載っていることだろう。」 「・・・すまねぇ。」 「お前には学んでもらうべき魔法が山ほどあるからな。」 記憶操作の魔法・・・こんな形で学ぶことになるとは思わなかったけど。 おれは王女の部屋を後にし、その足で書庫へ向かった。 「乱馬。」 廊下を歩いていると、急に呼び止められた。 見ると、そこには親父が立っていた。 「なんだよ・・・ああ、王女とのことか? うまくやってるよ。」 「そうではない。」 「だったら、なんだよ。」 「あかねちゃんがな。」 「あかねのことは、もういいよ。」 「まあ待て。これをおまえにと。」 親父は、かわいらしい布に包まれた、両手に載るくらいの包みを差し出す。 「なんだよ、これ?」 「なんでも、あかねちゃんのありがとうの気持ちらしい。」 「は?」 「こころして、受け取るのだぞ。」 「・・・・・・。」 手に取って、包みを広げると、そこには・・・。 「なんなのだ? それは・・・。」 「・・・・・・。」 いつか、一緒に食べた、あのふわふわした甘いお菓子だった。 形は相変わらず少し歪んではいたが、いい匂いがしている。 「あかねちゃんが作り出したのか?」 「そうだろうな。」 「そうか。なんだ、あかねちゃん、料理魔法上達してたのだな。」 「なんだ、親父、食ってねぇのかよ。」 「い・・・いや、最初のひと口は味見のために食べるんだが、 その後こっそり、魔法で・・・・・・。」 「で?」 「それで、ここ最近は、その・・・怖くて最初っから魔法を使ってて・・・。」 「・・・ったく、役に立たねぇ監視役だな。」 「わしはおまえとは違うからな。」 「なんだよ、それ。」 「まあいい。ちゃんとお礼を言いにいくのだぞ。」 「ああ・・・。」 約束覚えててくれてたのか。あんなどうでもいい約束を。 今までもやもやしていた胸の中が、晴れていくのを感じる。 お礼を言いに行ったら、あかねはおれに微笑んでくれるだろうか。 もし、微笑んでくれたなら、そんときは・・・。 どきどきを抑えながら、手に取って、それを口にしようとした時、 小さなメモのような物を包みの中から発見した。 「ん?」 折られた紙を広げた途端、あかねの声が聞こえてくる。 「乱馬・・・あの・・・えっと。」 「・・・・・・。」 耳に馴染んでる音がすぅっと頭の中に入ってきて心地いい。 「元気にしてますか? 乱馬、急にそっちに帰っちゃって、お礼、言えずにいたから・・・。」 そんなこと気にしなくていいのに。 「今まで、本当にありがと。そのお菓子は、乱馬はもう忘れてしまってるかもしれない けど、いつか作ると約束した・・・物です。一応。 相変わらず、見かけは悪いけど、でも・・・おいしいと思うので、食べてね。 それから・・・・・・。」 それから? 「王女さまとお幸せにね。それじゃあ・・・またいつか会えたらいいね。あかね。」 声はそこで終わっていた。 「・・・なるほどな。」 すべての謎がようやく解けた。 あの日、あかねは親父に聞いて、おれが王女の教育係になることと、 いずれは一緒になることを知った。 おれが側を離れれば、もう二度と顔見なくて済むから、 嬉しくて幸せで・・・それで、朝食はおいしかったのだ。 あの料理を食べて感じた、あかねの幸せはそれだったんだ。 まるで裏切られたような想いが襲ってくる。 勝手に期待したのはおれなのに。 馬鹿みたいに幸せなことを考えてしまった自分の姿がひどく滑稽に思えて、ふっと笑いが出た。 いい加減、学べよ。 何度、こういう想いをしたら、覚える? おれは、馬鹿か。 手にしたそれを口にすることなく、もう一度包みに戻し、 そのままおれは、二度と行くまいと決めていたあかねの元に降り立った。 >>>>> はち へつづく 呟 事 どうしようもないわよね。 本当にね。 いやいや、なになに、わっはっは(最近の管理人の口癖) そんなわけで、年跨ぎましたな・・・この話(汗) しかもどんどん展開してって終わんのか? 実際ちゃんと終わんのか? って、自問自答の繰り返し中です。 こんな感じで新年迎えてよかったかな・・・とは思いますが、 新たな気持ちで頑張って行こうと思ってますので、 めでたい年の始まりですし大目に見ててもらえれば嬉しいです。 まだまだも少しつづきます。 ひょう