そらをとべたら はち 「なんのつもりだ?」 「きゃっ! びっくりした・・・乱馬! 久しぶりね。元気だった?」 「なんのつもりだと、聞いてるんだ。」 手に持った包みをあかねの前に差し出す。 「あ、やっぱりおいしくなかった? おかしいな。ちゃんとね、味、見たのよ。 何度も、納得いくまでやり直して、食感だって確かめて・・・。」 「食ってねぇ。」 「え?」 「こういう意味わかんねぇことされると困るんだ。」 「・・・おじさまから、聞いてない?」 「ありがとうの気持ちとか、なんとか言ってたな。」 「うん。だからね、乱馬にお礼、ちゃんと言ってなかったから、それで。」 「で? これが、おめーのお礼か?」 「・・・気に入らなかった?」 「だから、さっきから言ってるだろ。意味がわからねぇって。」 「え。」 「おれは、おめーに、お礼を言われる筋合いもなければ、 おれのこと・・・王女とどうなろうが、とやかく言われる筋合いもねぇ。」 「そんな、とやかくだなんて。わたしはただ、乱馬が魔法世界の後継者になって、 王女さまと一緒になるって聞いたから、だから、わたし、 乱馬と仲良くしてもらってたから、お祝いしたくて、それで。」 「おめーの気持ちなんか、いらねぇ。」 あかねに包みを突っ返す。 「食べないなら、消してくれて構わない。」 「いらねぇ。」 出来るだけ、冷たく、言い放ち、包みから手を離す。 しっかり受け取られていなかったそれは、そのまま床に落ちた。 「あ。」 慌ててあかねはしゃがみ、包みを拾い上げ中身を確かめる。 「どうせ消す物、どうなったっていいだろ。」 「ひどい。一生懸命、頑張ったのに。」 「だったら、なにか? ありがとうとでも、言えばいいのか?」 こんな風にされたら、折角の決心が揺らいでしまう。 もう、おれには構わないでほしいから。 もう二度と顔も見たくないと、そう思ってほしいから。 ぎりぎりと締め付け痛む、胸の激痛を必死に堪えながら、 表情を変えぬよう、声色を変えぬよう、冷酷に冷淡に、言葉を続けた。 「違う、わたしはただ、乱馬にお礼を。」 「なにが違う? 結局はおめーの自己満足だろうが。 人の幸せよりも、自分の腕磨け。 人間なんかと、べたべたしてる暇があるんなら、もっと真剣に学べ。」 「そんな言い方。」 「優しくしてほしいんだったら、おれに関わるな。」 「乱馬。」 「迷惑なんだ。こんなことされっと。」 「どうして、そんな風に言うの? わたしのこと傷つけて楽しい?」 「傷つける? こんなことでおめーは傷つくのか? 知らなかったな。」 「・・・そんなに、わたしのこと、嫌いなの。」 「・・・・・・。」 んなわけ、ねぇだろ。 本当は心臓が抉られるほどに痛んでいた。 それでも、これ以上、あかねと会うわけにはいかない。 あの王女のことだ。このままだと、おれではなく、あかねの魔力を取り上げかねない。 そうなったら、本当に二度とあかねには会えなくなる。話も出来なくなってしまう。 なによりも・・・父親が悲しむ。それだけは、避けてやりたい。 だから・・・。 「だったら、わざわざ返しに来なくったってよかったのに。」 「またこんなことされたら嫌だからだ。」 「・・・・・・。」 「いいな、もう二度とおれには関わるな。」 「・・・もしかして、わたしのこと、王女さまに?」 「・・・・・・。」 「そうなのね? 乱馬とわたしのこと、王女さまが誤解したのね。」 「ああ、そうだ。だから、困るんだ。おめーがおれの周りにいられっと。」 「・・・ごめんなさい。」 「謝られても困る。」 「わたし、乱馬の邪魔ばっかりしてるね。」 「親父に余計なこと、言うんじゃねぇぞ。」 「ごめんなさい・・・。」 泣いて謝るあかねの姿に戸惑いながらも、何も出来ないまま、その場に立ち尽くしていた。 しばらくして、ようやく泣き止んだあかねの・・・いまだ乾かぬその頬に残る涙を そっと拭ってやりたかったが、当然、そんなことできるはずもなく・・・。 「じゃあ・・・。」 「・・・もう、会えない?」 「ああ。もう二度と。」 「そう・・・。」 「・・・・・・。」 一旦俯いたあかねは、次の瞬間には、にっこりと微笑をみせた。 「元気でね。」 「ああ。おめーも・・・な。」 「乱馬。」 「ん?」 「・・・ううん。じゃあ、ね。」 「ああ・・・。」 なにか言いかけた様子のあかねが気になりながらも、おれは窓から外に出た。 「乱馬っ!!」 翌朝、寝ているおれの元に親父が駆け込んで来た。 「なんだよ、朝っぱらからうるせぇな。」 「おまえ、あかねちゃんになにをしたっ!」 「なにって、なんだよ。」 「今日、気分がすぐれんからと、人間の学校を休むと言っておるのだ。」 「あかねだって、そういう日くらいあっだろ。」 「いいや。あかねちゃんは真面目な子。よっぽどなにかない限り、こういうことはありえない。」 「じゃあ、よっぽどなにかあったんだろ。」 「昨日、おまえ、あかねちゃんに会ったんだろ?」 「ああ。」 「なにをした?」 「別になにもしちゃいねぇよ。」 「本当か?」 「ああ。」 「それが、ひどく落ち込んでおるようでな・・・。」 「・・・・・・。」 おれが原因? そんなことあるはずがない。 おおかた、人間との付き合いのことで悩んでるんだろう。 だから、あんなに好きな、人間の学校を休むって言い出したんだ。 そうだ。そうに違いない。おれは、なにもしちゃいない。 「料理の腕も、急にまた悪化したようだし。」 「え。」 親父はおれの前に、あかねの作り出した朝食を出す。 「・・・なんなんだ? これ・・・。」 「昨日まではそんなに酷くはなかったんだが。」 見ただけでは、なにを作り出したのか、判断できない。 「味も酷いのか?」 「食ってみればわかる。」 仕方なく、それを口に運び入れる。 「・・・・・・。」 これまで幾度となくあかねの料理を食べてきたけど、こんなに酷い物を食べたのは初めてだった。 「一体、どうしたというのか・・・突然のことで、なにがなにやら、わしもさっぱり。」 こんなに影響されるほど、どんな辛いことがあかねの身におこったというのだろう。 あかねのこころをここまで苦しめる、そんなすごいなにかがあったというのか? ・・・それほどまでに、あかねは人間のことを気にしているのか。 「乱馬。」 「なんだよ。」 「あかねちゃんから目を離すなよ。」 「は? おれはもう、あかねの監視は。」 「気になるんなら、ちゃんと側にいて見ててやらんと・・・。」 親父は水晶にかけていた黒い布を取り去る。 「おまえ、暇を見てはこれであかねちゃんのこと、ちゃんと見守ってくれてるんだろ?」 「んなわけねぇだろ。」 「だったらどうして、わざわざ布を被せる? 見たくなくとも見えてしまうからじゃないのか?」 「違う。」 「なにも、隠すことはない。ほれ、覗いてみろ。」 「いいよ。」 「いいから。」 しぶしぶ、それを覗くと、そこには当然、あかねの姿が映し出された。 「な? こんな遠くにいたら、いざという時、すぐに助けられんぞ?」 「今、あかねのこと話してるから、映ってるだけだ。」 「よいな? わしは・・・今日は少し休む。」 「お、おい。」 「あかねちゃんに元気がないと、こっちまで調子が悪くなる。後は任せたぞ。」 そう言って、親父は奥の部屋へ行ってしまった。 ったく、どーすんだよ。 昨日の今日で会いにいけるわけねぇだろ。 そう思いながらも、おれは黙って水晶を見つめ続けた。 あかねは朝からなにも食べず、なにもせず、ただ黙って窓の外に広がる空を見つめていた。 ぼんやりした表情もやっぱりかわいかったけど、くるくるよく動く瞳がたった一点だけを 見つめる姿は・・・まるで生きていない人形のようで、寂しかった。 それに時折、涙を見せていて・・・昨日のことが思い出され、何度もおれの胸をえぐる。 おれのせいではないとわかっていても、そう考えずにはいられなかった。 夕方近くになって、あかねの部屋を誰かが訪ねてくるまで、あかねはずっとそのままだった。 >>>>> く へつづく 呟 事 なにを言いたいんだ? そんな展開になってきてます・・・ね。 なんか言いたいことは確かだし、違いないんですけどね。 そうなんですけどね。 ひょう