そらをとべたら じゅういち 「この魔法世界を、魔力を捨て、人間になるというのか? なんのちからも持たない、人間に。」 「・・・うん。」 「正気かよ。大体、なんで。」 「人間の男の人がね、わたしのこと気に入ってくれて、一緒にいたいって言ってくれてるの。」 「もしかして、こないだの男か?」 「うん。」 「けど、あいつは。」 「あれからね、謝りに来てくれたの。」 「・・・・・・。」 「もう二度と、あんなことしないって約束してくれて、わたしのこと、困らせたり、 泣かせたりしないって、言ってくれた。」 「そか。」 「わたし、人間のこと嫌いじゃないし。それに、魔法・・・いつまで経っても、 料理魔法、出来そうもないし。」 「・・・・・・。」 「いいよね?」 「いいもなにも。おめーが決めることだろ。」 「・・・そうだよね。」 「わかってんなら、聞くな。」 「ごめんなさい。」 「もう、いいだろ。おめーは、とっとと、あっち帰れ。」 「あ、乱馬。待って、まだ・・・。」 まだ、なにか言おうとしていたようだったが、おれは後ろを振り返ることなく、 あかねから離れ、再び、王女の隣に黙って立った。 翌朝、気配を感じ、まだ眠く重たい目をうっすら開けると、そこに見覚えのある後姿があった。 「・・・ん? 誰・・・だ?」 「あ。起きた? おはよう、乱馬。」 「ああ・・・おはよ。」 そう返事はしたが、再び目は閉じていく。 昨日はあの後、遅くまで挨拶につき合わされていて、ここに戻ってきた頃には翌日になっていた。 その上、あかねとあんな別れ方したもんだから、床に着いたところですぐには眠りにつけず、 ついさっき、うとうとしかけていたところだったから、眠たくてたまらない。 「・・・・・・。」 あれ? なんかいい匂い・・・朝ごはんの匂い。 もう一度、目を開けると、そこにはあかねの顔があった。 「わあっ。」 びっくりして、飛び起きる。 「なっ。」 「だって、乱馬、起きないから。」 なにしようとしてた? 「ね、朝ごはん作ったの。一緒に食べよ?」 「・・・・・・。」 まだ、夢見てんのかな・・・それとも、ひどく寝ぼけてて、親父があかねに見えてるとか・・・。 「はい、どうぞ。」 「・・・いただきます。」 顔は洗ったけど、ちっともさっぱりしないまま、おれは出された料理に箸をつけた。 「おいしい?」 「・・・ああ。」 「本当?」 「本当。」 目覚ましにちょうどいい、そんなすっきりした味付けで、 寝起きだというのに、出されたものすべて、すんなりたいらげた。 「よかった。 ね、これならわたし、こっちに戻って来れるかな?」 「え・・・おめー、人間界に残るんじゃなかったのか?」 「そんなわけ、ないじゃない。」 「大体、なんでまだこっちにいるんだ? 帰えんなくていいのかよ? 学校あんだろ。」 「だって、わたし・・・。」 おれの隣に、あかねはやって来る。 「な、なんだよ。」 なにかを感じ、椅子から立ち上がったおれの身体に、あかねは腕を回してきた。 「乱馬。」 「えっ? ちょっ、ちょっと、あかね?」 腰が引ける。 「・・・わたし。」 「こ、こら、やめろっ、離れろっ。」 けれど、あかねは抱きついてくる腕の力を緩めない。 「乱馬のこと、好き。」 「なっ、なにを言い出すっ。は、離れろって!」 拒絶しようと言葉を発しても、拒絶できないおれの腕が、あかねを抱きしめる。 「乱馬。」 顔をあげたあかねの瞳は閉じられていて・・・長い睫が、薔薇色の頬が、 それに淡く輝いた唇が、おれの視覚を混乱させ、理性を麻痺させる。 そんなあかねの表情を見てしまったおれは近づいてくるあかねの顔に、 ふらふらと近づいていき、回した腕に力がこもった。 「・・・・・・。」 やわらかな感触が一瞬だけ唇をかすめた途端、 あかねの姿は・・・かつてあかねが操る練習をしていた人形に変わった。 正確には魔法が解けたのだった。 どうやらあかねは、魔法を使い、人形に自らの感情を入れ、姿も変化させていたらしい。 「・・・・・・。」 おれは人形を掴み、指を弾いた。 「・・・・・・。」 あかねの前に人形を差し出す。 「魔法・・・解けちゃったんだ。」 そう言って、はにかんだ笑顔をあかねは見せる。 その表情はとても嬉しそうで・・・つまり、それはおれがあかねを受け入れたということを 理解したということだろう。 「そのまんま帰ってくるって思ってたから、びっくりしちゃった。」 「・・・そか。」 「だって、乱馬、わたしのこと嫌ってるって思ってたから。」 「べ、別におれは嫌いなんかじゃねぇ。 おめーの方こそ、おれのこと嫌ってるとばっかり思ってたから。」 「えっ・・・そうだったの?」 「・・・・・・。」 「じゃあ、好き?」 「これ見れば、わかっだろ。」 赤くなっていく顔を必死にそらし、手に持った人形をあかねに手渡した。 「・・・最上級魔法、出来るようになったんだな。」 「うん。 昨日、あの後・・・おじさまに教わったの。 乱馬にどうしても、気持ち、伝えたかったから。それで諦めがつくからって・・・。」 「・・・ちゃんと、出来てた。」 「本当? よかった。 後は、料理魔法さえちゃんと出来れば・・・。」 おれはあかねを見つめ、その身体を抱きしめる。 「え・・・あ、あの・・・乱馬?」 「・・・じっとしてな。」 回した掌を使い、背中をすっと、ひと撫でした。 「え?」 あかねの背中に白い翼が生える。 「帰るぞ。」 「帰るって、どこに?」 「魔法世界に決まってっだろ。」 「で、でも、料理は?」 「おれが、合格点を出す。」 「え。」 「ただし、おれでなきゃだめだ。」 防御魔法をかけていたとき、おれには触れることが出来たことに、 もっと早く気付いていれば、こんなに遠回りせずに済んだのに。 「それって・・・。」 「おれしか、おめーの料理、食えねぇからな。」 おいしい・・・という言葉は、ここにきても、口には出せない。 だけど、それでも・・・あかねは優しく笑ってみせる。 「いいの? わたし、乱馬といても。」 「あかねがそれを望むんなら。」 「嬉しい。」 「けど。」 「・・・けど?」 「おれと帰ると言うんなら、追放されるぞ。」 「・・・うん。」 「それでも、いいのか?」 「乱馬と一緒なら。」 「ま、魔法、使えなくなんだぞ?」 「うん。」 「人間になんだぞ?」 「平気。」 「おれから魔法取ったら、なんもねぇぞ?」 「そんなこと、ない。」 「いいや。おれは、魔法でしか、あかねのこと守れねぇ。魔法が使えなくなったら、 あかねを守れなくなるかもしれねぇ。」 「ううん。乱馬は、どんなことになっても、わたしのこと、ちゃんと守ってくれる。 それに、わたしだって、乱馬のこと・・・ちゃんと守りたい。」 「けど。」 「わたし、そばにいれるだけで、幸せだから。」 「・・・・・・。」 「だから、わたしを連れて帰って。」 「・・・後悔しないな?」 「後悔なんかするわけない。」 抱きついてきた、あかねと・・・しっかり抱き合い、さっきは叶わなかったくちづけを交わす。 今度は魔法が解けることなく、あかねの熱と感触を、唇が感じていた。 「そんじゃ、行くぞ。」 「・・・うん。」 あかねの手をとり、窓から部屋を出る。 「・・・やっと、そら、とべた。」 せっかく、翼を得たというのに・・・大好きな空がこんなに近くにあるというのに。 おれのせいで、あかねは翼をもがれる。 それだけは、阻止したい。 あかねだけは、なんとしてでも守りたい。 「自分で飛ぶの、難しいね。」 ふわふわと浮かんでいく身体に、あかねは少し翻弄されている。 「そのうち、慣れるさ。」 「手、離したりしないでよ。」 「んなことするか。」 本当は抱きしめたいくらいだ。 「また、夜空に連れてってね?」 「仕方ねぇな。」 「え・・・いいの?」 「・・・早く、ひとりで飛べるようになれよ。」 「うん。わたし、頑張る。」 無邪気なあかねの様子に、おれは覚悟を決めた。 >>>>> じゅうに(最終話) へつづく 呟 事 朗報です! 多分、次回が最終回です! どうも、おつかれさまでしたー(いやまだ早いか)。 書き終わったら、ようやくハリポタ第一巻を読み始めようと思います。 ていうか、遅いですな。今更ですか。い、いや・・・まーねー。 ようやく、借りられたの。ハリポタ。 先に原作読んでから、映画の方、見たいし。 タイムリーには見れない・・・まだまだな私。 ひょう