其の六 たかい たかい 向こうの方にひとだかり。 ・・・なんだろ? 通り過ぎようとする乱馬の腕をぐいっと引いて立ち止まらせる。 「なんだよ。」 「だって、気になるじゃない。」 仕方ないなって顔をして、乱馬はひとだかりの中を見つめた。 わたしは、出来る限り爪先立ちして背伸びをする。 ・・・見えないっ! 「なにが、見えるの?」 そう言って、乱馬の顔を見上げるけど、真直ぐ前を向いたまま、黙ってる。 「前の方、行って見てくる。」 目の前の人ごみをかき分けようと手を伸ばした途端、その腕を掴まれる。 「え。」 「・・・ったく、仕方ねぇな。」 そのまま、わたしの身体は引き寄せられて、脇の下辺りに乱馬は両手を宛がった。 「な、なにするの、乱馬。」 「暴れんなよ。」 「やだ、くすぐったい。」 がしっと掴まれて・・・わたしの足が宙に浮く。 え・・・。 「ら、乱馬っ。」 「いいから、前、見ろよ。」 「だって。」 乱馬の腕は伸ばされて、わたしの身体は高く持ち上げられる。 ・・・まるで掲げるみたいに。 「やだ、恥ずかしい、降ろして。」 「見えたか?」 「降ろして。」 ふわりとつま先が地面についた。 「なにが楽しいんだか。」 「・・・・・・。」 結局、なにがあったのか、わからなかった。 だけど、頭の中が、ぼーっとしてしまって・・・そんなのどうだってよくなって・・・ ただ、乱馬の掌の感触だけが、じんじん残っていて、それがちょっとだけ痛かった。 【解説】 高い高い・・・。 これ、フェミなんですか? と、フェミニシズムを研究する方からは 間違いなくつっこまれるであろうけれども・・・ こういうカップル見かけたら、バカップルって言っちゃうだろうけれども、 それでも、私はこのふたりならばと・・・そう思う訳でありました。 乱馬くんなら、あかねちゃん抱きかかえて、近くにある建物の屋根だとかに飛び移り、 そこから見下ろす・・・という手段に出るよな、そんな気もしなきゃないですが、 それはフェミではないと・・・思うので(どういう判断基準かは曖昧すぎてわからない) >>>もどる >>>其の七を見てみる。 ********************************************** 其の七 ひょいっと ようやく夕立が上がって、雨宿りしていた軒先を出る。 せっかく浴衣まで着たのに、雨で中止になるなんて嫌だなって思ってたから、ほっとしていた。 街灯がほのかな光を放ちはじめ、あたりが暗くなったことを知らせてくれる。 隣をゆっくり歩く乱馬をわたしは急かした。 「早く行かないと、いいところ、取られちゃうよ。」 「別にいいだろ。何処で見たって、上見上げれば見えるんだから。」 「・・・・・・。」 背が高い乱馬はそうかもしれないし、 夜空に高く打ちあがるものは、案外ちゃんと見えるからいいけど、 だけど、少しでもあがる高度が低いと、前にいる人の頭が邪魔で綺麗に見えないんだから。 言ったってわかんないだろうけど。 「・・・待て、あかね。」 「え?」 それでも急ごうとするわたしの腕を乱馬は少し強引に引き、自分の方へ戻す。 「い、痛い。」 「このまま進んでいってたら、ずぶ濡れだぞ。」 そう言われて足元に視線を落とせば、大きな水溜り。 「さっきの雨のせい?」 「だろうな。」 ここをまっすぐ突き抜けて行った方が近道なんだけどな。 「回り道、するしかないよね。」 「ああ。」 ふぅっと溜息をついて、身体の向きを変えて、進もうとするわたしの背中を、乱馬は掴む。 「乱馬?」 ・・・正確には背中ではなくて・・・帯の結び目を、乱馬の手がぎゅうっと掴んでいた。 「ちょ、ちょっと?」 「動くと危ねぇから、じっとしてな。」 「ええっ!」 そのまま、わたしの身体は宙に浮く。 まるで、首の後ろをつかまれた猫みたいな格好。 ばたばたしそうになる両手足。 だけど、そうならないように、できるだけ力を抜いていた。 少し後ろに戻り、助走をつけた乱馬は、水溜りの前で大きく飛び上がる。 わたしは怖くて目を閉じた。 すたん・・・。 地面に足のつく音。 わたしの足も、地についた。 「早く、行くぞ。」 「あ・・・うんっ。」 歩き出す乱馬を急いでわたしは追いかけた。 【解 説】 ひょいって担いでるのに、フェミを感じてしまうのです。 軽々しく・・・しかも、さりげなく。 って時期物なのに、秋口にあげる辺りが、 フェミニスト好きには季節関係ないって話ですな。あはは。 こんな場面、どっかで見たよな・・・どこだったかな・・・ごそごそ。 >>>もどる >>>其の八を見てみる。 ********************************************** 其の八 見せるもんか 「先、行けよ。」 「え?」 今までずっと前を歩いていた乱馬が急に立ち止まる。 いきなりで、わたしは鼻先をその広い背中にぶつけそうになった。 「急に止まらないでよ、危ないな。」 「いいから、早く。」 「・・・・・・。」 目の前には上りのエスカレーター。 「どうして?」 と、聞いてる間に、乱馬は背中を押す。 「人、来てるだろ。早く。」 腑に落ちない気持ちで、わたしは足を段々に乗せた。 すぐ後ろに乱馬が立つ。 ・・・レディファーストのつもりかしら? にしては、ぎこちないし・・・。 前にいるカップルは周りの迷惑顧みず、並んでいちゃいちゃしてるっていうのに・・・。 ほんのちょっとくらいいいじゃない。あんな風に並んでたって。 なんでこんなとこ、律儀なんだろ。 わたしは後ろに振り返り、乱馬を見た。 「・・・んだよ。」 「・・・・・・。」 あれれ・・・乱馬と視線が合う。 いつもは見上げることしか出来ないのに。 ・・・ひょっとしてこれ? ・・・キスしようとしてるとか? や、やだどうしよう・・・こんなことなら、さっきこっそり、 昨日買った、オレンジ味のリップ塗っとくんだった。 「前、向いてねぇと、転ぶぞ。」 「えっ。」 ドキドキしてるわたしの胸に冷静な言葉が突き刺さる。 ・・・違ったみたい。 なーんだって、思いながら、前を向く。 でも気になって横目でちらり。 乱馬は後ろを向いていた。 「乱馬だって、前、向いとかないと、転ぶよ?」 「おれはいいんだよ。いいから、前、ちゃんと向いてろ。」 「・・・・・・。」 「動くなよ。」 「・・・・・・。」 上について、たんっと足を踏み出したら、後ろにいた乱馬もすぐに降りる。 そして、また、わたしを追い抜き前を歩き出した。 「え。」 「んなとこ、つったってっと、邪魔だぞ。」 「う、うん・・・。」 慌てて、乱馬の後を追った。 なんだったんだろう? 乱馬、後ろでなにしてたんだろう? と、気になりながら。 その答えは、それから三日後。女友達と乗った、エスカレーター。 「男って、ほんっとやらしいわよね。」 「え?」 後ろを振り返ると、わたしの後ろに乗っていた友達が下の方をしきりに見ている。 「どうかしたの?」 「ああやってね、スカートの中・・・。」 視線を落とした先に、靴の紐を結びながら、上を見上げる男の人がいた。 わたしと目が合った途端、あわてて立ち上がり、目をそらす。 ・・・乱馬が一緒じゃないときは、なるだけこれには乗らないようにしよう・・・と思った。 【解説】 生足ガード(笑) 自意識過剰な女の人とかいるけれども、そうかもしれないけれども、 意外と見られていたりする、スカートの中。 が、ひざくらいの丈で普通立ってるくらいじゃ、見えないものらしいです。 私は女なので、覗く殿方の気持ちは全くわからないのでありますが、 割と見たいものらしい・・・見たとこ、聞いたとこ。 そんときわからんのが本当の意味でのフェミかもしれん・・・いや、 そんなことはないか、そうだね、あはは。 >>>もどる