素直じゃないから解ること 「あかね、おれと結婚しよう。」 道場でひとり、壁に向かって話し掛けている乱馬の姿。 今日、晴れて高校を卒業したふたり。 今後、どう考えても、あかねと夫婦になるだろう・・・そう思い、乱馬は意を決したのだ。 思い返せば、出逢った頃こそ、嫌々許婚を名乗ってはいたが、 今となれば、ふたりでいることが当たり前。 あかねはおれのこと、好きかも・・・ほのかな自信。 さっき、道場に来るように、と、あかねに呼び出しをかけていた。 「乱馬ー、話しって何?」 あかねが明るい声で道場へやって来た。 乱馬は何も言わず、正座したまま床を掌で叩く。 「そこに、座れってこと?」 あかねの問いにただ頷く。 「何なのよ。」 乱馬の前に同じように正座して座るあかね。 「・・・・・・。」 心の中で繰り返す伝えたい言葉。 『あかね、おれと結婚しよう。』 「あかね。」 「うん。」 「・・・あかね・・・みてーなガサツな女、どう考えても、今後、嫁の貰い手ねーだろうから、 仕方ねぇ、おれが貰ってやる。」 「・・・・・・。」 「・・・・・・。」 すっごく偉そうなセリフ。 「それって、プロポーズな、訳?」 「・・・・・・。」 ここで、うん と言ったら・・・おれの負けだ。 「おめーが、泣いて頼むんだったら、嫁に貰ってやるって言ってんだよ。」 「・・・・・・。」 しばし沈黙がふたりを包む。 「・・・ごめん、ちょっと考えさせて。」 「・・・・・え?」 走り去るあかね。 乱馬はひとり、ぽつんと正座をしたまま取り残される。 「な、何なんだよ、あかねのやつ! 人がせっかく勇気を出して・・・ このおれが、下手にでてりゃーいいきになりやがって!! あー、そうかいそうかい、もういい、 あんな色気のねー女なんか、こっちから願い下げでいっ!」 虚しく響きわたる声・・・無性に不安が過ぎっていく。 せめて「なんなのよ、その言い草!こっちだってねー、 あんたみたいな無神経な男のところに 嫁にいってやろうっていってんだから、有難く受け取りなさいよね!」 くらいの反応が欲しかったな・・・。 なんか、冗談受け流しって感じがして、胸がもやもやする。 ひょっとして、おれの思い過ごし? あかねはおれのこと好きじゃない? 結婚なんか、したくないのかな? 落ち着かない心で、かすみとなびきに相談しに向かう。 「あかねちゃん、もてるから他の男の子からも言い寄られているのよ。」 「え。」 「第一、乱馬くん、どんなプロポーズしたの?」 さっき道場であかねに言ったとおりのことを伝える。 「・・・・・・どんなプロポーズなのよ。」 「乱馬くん、それじゃ駄目ね。」 「・・・やっぱり?」 素直に言っときゃよかったのかな・・・。 でも、おれにそんなセリフ言えるわけねーじゃん。 翌朝、いろいろ考え過ぎて一睡も出来なかった乱馬。 眠い目を擦り擦り、道場へ。 あかねが、いた。 目が合う。 何だか、顔、合わせ辛かったり・・・ 「乱馬・・・。」 「・・・・・・。」 「あのね、わたし、色々と考えたんだけど。」 やっぱり駄目かな。 「・・・もう少しだけ待っててほしいの。」 はぁ? なんじゃそりゃ。 「せめて、お料理がもう少し上手くなるまでは・・・。」 「・・・だったらずーっと、おめー、独身のまんまだぜ?」 「そんなこと、ないもん。」 「いや、だってそうだろ? おめーの不器用治るの待ってたら、一生結婚できねーよ。」 「ひどい!どうにかするもん!!」 「・・・いいよ、別に。おれが死ぬ気で食えばいいことだろ?」 「え?」 「・・・おめーみてーな女を嫁に貰うんだ、そのくらいの覚悟はできてっさ。」 「なによぅ、わたしだって、あんたみたいな男のところに貰われてあげるんだから、 覚悟しなさいよね!」 いつもの言い合い。お互い、気持ちの確かめ合い。 解かっているから出来ること。 解かり合っているから許されること。 足りない言葉のプロポーズ。 素直じゃないように見えても、聞こえても、 ふたりにだけ、理解し合える想いがあったなら、 足りないままで、一緒に生きてゆける。 これからも ずっと。 =おしまい= にーぼーさまへ差し上げたきり番リクエスト小説。 「結婚前の、素直じゃないふたり」ということで・・・ もうめちゃくちゃ苦労したです。素直じゃないってところが。 私の書くふたりってめっちゃ素直すぎて(笑)・・・本当原作の設定全く無視ですな。 これを書くのに昔のノートとか引っ張りだしてたら、 今も汚いですがさらに汚い絵に・・・酔いましたなぁ(汗) だけど、昔描いてたふたりの話はこんな感じが多かったです。 素直じゃなくって、けんかばっかりしてて・・・ 原作の話をいじって楽しんでました。 そういえば、思い悩んでいたらその夜乱あの夢を見て、それでこれが出来上がってたりです。 久しぶりに乱あの夢見ました。潜在意識、無意識世界に感謝。 というわけで素直じゃなさが伝わってるかな・・・。