いちばん





「・・・・・好きな女子ランキング?」
「学校全体でやるんだけどさ、一位から十位まで十人・・・。」

 帰り際に呼び止められ、乱馬はまだ教室にいた。

「くっだらねーな。」
「くだらなくていいから、これに女子の名前書いてくれよ、なっ!」

 罫線の引かれた投票用紙を手渡される。

「女子は男子の方、選ぶことになっててさ。」
「へー。」
「ほんっとに興味なさげだな。」
「ないな。」

 そうは言いながらも、さらさらと書き込んだ。

「書いたか?」
「ん。」

 用紙を渡すと、動きが止まった。

「・・・・・・。」




一位 天道 あかね

       以下なし。




「なんだよ、これっ!」
「おれ、あかね以外全く興味ねーもん。」
「い、いや、おまえの気持ちはわかる、そりゃあわかるけど、十位まで、な?
 他のとこ、書いてもらわないと。」
「嫌だ。」
「どうしても?」
「どうしても。」
「かーっ! だったら早乙女は天道あかね以外だっ!!
 おまえの答えは認められん!! 適当でいいから十人書けっ!
 じゃないと、これ、天道に見せるからなっ!!」


それは困る。
こんな恥ずかしいもん、あかねに見せられっかよ。

「・・・・・・わーったよ。ったく」

 その場では結局書けず、乱馬はその投票用紙を家に持ち帰ってきた。
帰り道でも、ずっとずっと考えてはいたが、思い浮かぶのはあかねの姿だけ。

 自分の部屋で机にむかったが、一向に筆は進まない。

「駄目だ。」

 その場に身体を投げ出し寝そべった。


あかねしか思いつかねー。


「あっ! そういえば、この辺に名簿があったような・・・。」

 机の中をごそごそとあさる。

「あった、あったっと。」

 机の上に名簿を広げると、手にしていた鉛筆を転がした。
たまたま止まったところにある名前を、次々とその用紙に記入していく。

「よぉしっ! おれってあったまいいー。」







「あかねちゃん、ご飯出来たから、乱馬くん呼んで来てくれる?」
「はーい。」

 帰ってきてからというもの、
部屋に閉じこもったきりの乱馬が気になっていたあかねは、急いで呼びに行く。

話すきっかけを探していたから嬉しい。

「乱馬ー、ごはんよ。」

 部屋に入ると、乱馬は机に突っ伏して眠っていた。

「あれ? 寝てるの?」

 乱馬の顔を立ったまま覗き込む。

寝顔かわいい。

 もっと近くで見たくて、その場にしゃがみこみ、顔を近づけた。

キス、しちゃおうかな?


 乱馬の寝息を確かめながら、静かに・・・・・っと、机の上に広げられた名簿、
それに・・・・・投票用紙が視界に入った。

「あっ。」

 思わず大きな声が出てしまった。慌てて口を塞ぎ、乱馬を見る。

大丈夫、眠ってる。

これって、今、学校でやってるランキングの投票用紙だよね。
・・・・・・誰、書いたんだろ?

見たいけど、見たくない。
知りたいけど、知りたくない。
でも、やっぱり気になる、乱馬の好きな女の子。
好みのタイプ、わかるかもしれない・・・・・なんていうのは、建前。
本音はひょっとしたらわたしの名前、書いてくれてるかもしれない。
それを確かめたい。
乱馬が一位のところに「天道あかね」って書いててくれたら・・・。

書いててほしい。

書いててくれてるよね?

 想像が膨らむと同時に期待に胸が高鳴っていく。
十位から二位まで目を通し、自分の名前がないのを確認したあかねは、一度大きく深呼吸。

同じクラスの子ばっかり。タイプもみんな、ばらばらだし・・・乱馬の趣味ってわかんないな。

 それから、乱馬の腕でちょうど隠れている一位を見るため、用紙の端を持つと、ゆっくりと引っ張った。

やっぱり、やめよっかな。

揺れるこころ。

 だけど、きっと見ない方が気になってしまうから、えいっと覚悟を決めて、そこを見た。
書いてあったのは、よく知る人物の名前。



 一位  早乙女 乱馬(女)



ずきっと、胸が軋んだ。

そりゃあ、乱馬に敵うわけないことくらいわかってる。
自分がいちばんって、思ってることだって。

だけど、十人に入ってなかった、自分の存在が悲しかった。

こんなに近くにいて、同じ時間を過ごしてるのに、乱馬のこころに、わたしはいない。
乱馬にわたしは 見えてない。

わたしは乱馬がいちばんなんだけどな。


 うぬぼれてた分、期待した分、大きく膨らんだ想いの分、余計に辛くなった。


「ん・・・・・。」


乱馬が起きそうっ!

 あかねは急いで用紙を机に置くと、逃げるように部屋の外へ出た。






 少しして、乱馬は居間にやって来た。
能天気な声。

「あ、飯、出来てたんだ。」
「あら? あかねちゃん呼んで来なかったの?」
「・・・・・ごちそうさま。」
「もういいの?」
「うん。」
「なんだよ、あかね。ダイエットか? んなことしたって、かわいくなんかなんねーぞ?」

 乱馬は返ってくるであろう、返事に備えて身構える。

「そだね。」
「へ?」

あかねは、ぱたぱたと走り去った。

「乱馬くん、喧嘩でもしたの?」
「うーん・・・。」

 構えた拳を腕組みに変えながら、思い当たる節のない乱馬は困惑する。

おれ、あかねを怒らせるようなこと、なんかしたかな。
まずいこと・・・言ったっけ?


 気になる乱馬は、廊下にいたあかねに声をかける。

「あかね。」
「何?」

 俯いたままの返事は、なんだかよそよそしい感じがした。

「あのさぁ、なんか・・・怒ってねーか?」
「ううん、そんなことないよ。どうして私が怒るの?」
「ならいいけどさ、おめー、おれのことさっきから全然見ねぇし、
 飯 食うとき、逃げてるみたいだったし、おれのこと避けてんのかって思って。」
「わたし、お風呂に入るから。」

 話が全く噛み合わない。
やっぱり俯いたまま、一度も顔を上げないし、目を合わせない。

 その態度にむっとした。

なんだよ、こっちが下手に出てりゃー、いい気になりやがって!

 あかねは乱馬から逃れるように洗面所のドアを開ける。
乱馬はその手を阻止し、きつく引き戻した。
そのまま、あかねの身体を壁に押し付ける。

「痛い!」
「やっぱ怒ってんじゃねーか。何だよ? おれが何したんだ?」
「・・・・・・。」

それでもあかねは、俯いたまま。

「はっきり言えよ。」
「・・・・・・。」

黙り込む。

「あーもう、そういう態度、嫌いだって知ってるだろっ!」

びくっと震える身体。
怯えた瞳で、ようやく顔を上げた。

「嫌い?」

な、なんだよ、なんでそんな瞳でおれを見るんだ?

「うじうじしてるの、嫌いだよ。」
「・・・・・・。」
「おい、何とか言えよ。」
「嫌いだよね、わたしのこと。」

瞳の中に暗い翳りが見えた。

「な、なに言ってんだよっ!」

おたおたしてしまう。

「うん、わかってた。わたしのこと興味ないみたいだし。」

話がずれてってるって。

「好かれてはいないって思ってたけど、嫌われてたんだ。」
「いや、だ、だからだな。」
「わたしのことは ほっといてね、乱馬が嫌うことするから。
 じゃないと、わたしはここにいれなくなるもん。」

 どうにもこうにも気持ちを言葉に出来なくて、
今にも泣き出しそうなあかねをほうっては置けなかったから・・・・・・抱き締めた。

「なんで急にそんなこと言い出すんだよ。」
「・・・・・・投票用紙、見た。」
「へ?」

 思わず、ふきだしてしまった。

あんな物に翻弄されてる自分たちの姿が、ひどく滑稽に思えたから。

「な、なによっ!!」
「あかね、あんなの気にしてたんだ。」
「わ、悪かったわね。」
「い、いや、ごめん。そーか、そーか。」

 そう言ってからも、しばらく笑いは止まらない。
あかねは心外って顔で見ていた。

「まぁ、おれも、あかねがおれの名前書いてなかったら、やっぱり同じ反応してたんだろうな。」

ポケットから用紙を取り出す。

「これが一番最初に書いたやつ。」

 あかねはそれを受け取ると、おそるおそる中を見る。

そこには名前がひとつだけ。

「こんなの、本当は恥ずかしすぎて見せらんねーよ。」

 ふたりで一緒に耳まで赤くなる。

「おれはそれしかねぇって、そう言ったんだけど、駄目だって。
 あかね以外を書けって言われて仕方なく・・・。」
「そうだったんだ。」
「だ、だいたいよー、おれがおめー以外に興味ねぇってことくらい、わかってっだろ?」
「・・・・・・わかんなかったんだもん。」
「だったら、もう、わかったな?」

「うん。」


 あかねは その用紙を大切そうに胸に抱く。
その穏やかな表情がすべてを物語っていた。








                              =おしまい=



呟 言
乱馬くん、素直すぎー! あかねちゃん、かわいすぎー! (阿呆)

私が学生時代に作った物・・・どう考えたってそうだわねってくらいの
お気楽、極楽小説じゃ。
何故にこういう物が思い浮かんだのか、今となってはわかりませんです(^^ゞ
すでに、乱馬くん攻め、あかねちゃん受けが出来上がっとりました。

これがうちのサイト色なんですね、きっと・・・・・・。
ああ、もう。もっと頑張らなきゃっ!と思っとります。   ひょう

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