その瞳のなかに





 いつも通りの他愛無いけんか。嫌いだからするわけじゃない。
ただ、そこに乱馬がいるから。話すきっかけ、ほしいから。

 気がつくと、言い合いになってて、知らず知らずに、手が出てて、
いつの間にか、怒らせてて・・・けんかになるのに、さしたる理由などない。

 どちらからともなく、ただなんとなく。
いつの間にか、仲直りするのに謝る順番も、交代交代って決まっていた。


 この間は、わたしが謝ったんだから、今度は、乱馬が折れて謝る番。







おかしいなぁ

 昨日のけんか以降、ひと言も話し掛けてこない。
朝ごはん食べてる、今だって、いつもは並んで座るのに、向かい側にいる。
お茶碗から顔、あげないし。

 第一、わたしの顔、一度も見てない。

なんなのよ、その態度!
謝るまで、口 聞いてあげないんだから!


 ご飯を済ませて、玄関で靴を履いていると、乱馬がやって来た。
何も言わないまま、目の前を通り過ぎ、外へ。

 やっぱり、こっち、見ようとしない。
そんな乱馬の態度を気にしてる自分が、焦ってるみたいで格好悪い。

 外に出ると、乱馬は黙って立っていた。出てくるのを、待っててくれたらしい。

あ、そうか。
家じゃ謝るの、恥ずかしいから・・・もう、相変わらず、格好つけなんだから。
でも、そういう、強がってる乱馬も好きよ。

 だけど、乱馬は視線を感じると、ぷいっと横を向き、すたすたと歩きだした。

「・・・・・・。」

気に入らない。

どういうつもり? なに考えてるの? わけわかんないっ! 

 どうしていいかわからなくて、その場に立ち尽くしていると、乱馬は足を止めて、振り返る。
が、その瞳に、わたしを映さない。

素直じゃない・・・一緒に行きたいなら、そういう態度をとってくれたらいいのに。
こんなんじゃ、わかんないよ。

 仕方なく、乱馬のところまで走る。乱馬はそれを確認すると、背中を向けて歩き出した。
後ろをついて歩く。

こんななら、一緒に行かない方が、どんなに気が楽だろう。
無理されてるみたいで、苦しい。

・・・話し掛けようかな?
ううん、やっぱり それは すっごく、しゃく。
勝ち負けじゃないけど、今、わたしが話しかけたら、
その時点でわたしの方が、想う気持ち 大きいみたいで・・・。

きっと、そうなんだろうけど、
乱馬よりわたしの方が 好きな気持ち 大きいんだろうけど、

でも、いや。

乱馬の方がわたしより、ほんのちょこっとでいいから、たくさん、好きでいてほしい。





 言葉も交わさないまま、教室に入る。
授業が始まったら、話すチャンスあるかもしれない。いつも、くだらないおしゃべり、するから。
そう思ったけど、隣に座る乱馬が発する、ピリピリした 気 みたいなのを感じた。
今は 近くにいるのさえも辛い。


そんなに今度のけんかって、乱馬を怒らせるようなことだったかな・・・?

 けんかの内容を思い出そうとしてみたけど、いつもやってることだから、全然思い出せなかった。


 授業なんか耳に入らぬまま、お昼休みになる。

「あかね、今日どうしたの?」
「え?」
「ぼーっとしてる。」
「そ、そんなことないよ。」
「だったらいいけど。」
「ね、ジュース買いにいこうよ。」
「うん。」

 ぞろぞろと廊下に出ると、乱馬が他の男子たちとそこにいた。
視線は無意識に乱馬をとらえる。

 ・・・・・・だけど、乱馬は視線に気付かない。

 通り過ぎるまで、ずっと見てたけど、乱馬は瞳を合わせてはくれなかった。


気付かないだけ、かな?  そう、思いたかった。
そう思わないと、傷ついてしまうから。




 午後の授業も、結局、記憶に残らなかった。

「はぁ。」

 知らず知らず溜息。

今日は一日が早かった気がする。

 教科書を鞄に入れながら、隣を見る。
乱馬は鞄を手に持ち、足早に廊下に出て行った。

ちょっとだけ、ほっとした。
一緒に帰らないといけないのかなって、思ってたから。
今のままでは、ふたりで帰るなんて出来ないから。


 上履きを下履きに変え、校庭に出た。

こんなに長引いたけんかって、はじめてかもしれない。
こんなに揺れたのも、はじめてじゃないかな。

仲直り、したいんだけど・・・・・・。



 校門をくぐると、乱馬がそこにいた。

「!!」

 あっと、思わず 声を出しそうになって、慌てて口を手で押える。

 相変わらずに、乱馬は視線だけを感じとると、家の方に向かって歩き出した。

今度こそ、仲直りする・・・つもりよね?

 そう思い思い、隣を歩く。

 横目で、乱馬の表情を窺う。
反対方向を向いている瞳。絶対に合わない視線。

こっち、見てくれないの?
どうして?

わたしと、仲直りしたくないの・・・?


 気持ち同様、どんどん視線は下がる・・・・・・黙って俯く。

わたしの存在、ここにない。

隣にいても、いないのと同じ。

なにも、手をつないでとか、抱きしめてほしいなんて言ってない。
ただ、瞳を合わせてくれるだけでいい。
こっちを向いて、顔を見て、その瞳の中にわたしを映してくれたら、それだけでいい。

それだけで、救われるから。



 家の玄関の前で、堪え切れず、口を開いた。

「乱馬。」

 顔を上げる。
乱馬は、視線だけ横にしたまま、こっちを向く。


お願い、瞳を見て。

わたしの瞳を、見て。

「乱馬、あのね。」
「・・・・・・早く、謝れよ。」
「えっ?」

 乱馬の瞳が動いた。

 わたしを捕らえる。

「早く、謝れって言ってんだよ。」

な、なによっ!!
怒りたいのは こっちなのにっ!

「どうしてよっ!」
「次、おめーが謝る番だろー。」
「違う!」
「・・・・・・え?」
「乱馬の番!」
「あ・・・れ? そうだっけ・・・?」
「そうよっ!」

わたしをこんなに不安にさせて、簡単には許さないんだからっ!

 乱馬は、照れて横を向いた。

「わ、悪かったな。」

だめ、そんなんじゃ許さない。

「ちゃんと、わたしの瞳、見て言って。」
「・・・・・・。」
「ちゃんと、言って。」

見つめると、見つめかえされて、その中に、わたしがいた。
わたしだけが、映ってた。

乱馬は頬を赤らめる。

「・・・・・ごめん。」
「・・・いいわ、許してあげる。」


けんかして、謝る順番まで決めて、仲直りするくらいなら、
始めっから けんかなんかしなきゃいいって、そう思うけど、

だけど、これがふたりの愛情表現の仕方なんだから、


しかた、ないね。







                                =おしまい=

呟 言
しかたないねー・・・。駄洒落かよ。

それはそうと、ぷらとにっくーな感じ出てるかな。
乱馬くんとあかねちゃんの歳くらいって、
こんな感じの恋愛をしてるよなーっと、過去を振り返りながら。
目が合う、合わないってだけで一喜一憂みたいな。そんな感じ。
いや、どうかな。どうだろう・・・。           ひょう

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