温み 寒いなぁ・・・。 外はひどく暑い。 ただ立っているだけでも、むっとした熱気が身体を包んで、汗が滲む。 だけどそのぶん、お店なんかに入ると、がんがんに聞いた冷房が一気に身体を冷やし、 寒気すらするくらい、寒い。 二時間・・・大丈夫かな。 だだっぴろい空間。 そんなに混んでいなくて、人も疎ら。 それに映画館ならではの照明の暗さが冷たい印象を与えていて、 他の店と比べても、冷房が効きすぎている感じを受ける。 先を行く乱馬の後ろで、腕を摩りながら歩き、少し後ろの方の中央辺りの席に辿り着く。 すぐに乱馬は どかっと椅子に腰を降ろした。 「・・・おれ、炭酸じゃないやつな。」 隣に座りかけたわたしに、乱馬はそう言ってお金を渡そうとする。 「え?」 一旦、動いた身体を引き戻すことは出来ず、わたしは椅子に深々と身体を沈めた。 「・・・わたしが買ってくるの?」 そうは言いながらも、背もたれから身体を起こし、差し出された手からお金を受け取る。 「後、なんか、食い物。なんでもいいや。」 「・・・・・・。」 周りにいる、同じようなカップルを見ても、女の子の方が座っていて、彼氏の方が席を立っている。 なにか腑に落ちない感情を抱えたまま、席を立ち、売店に向かった。 いつもは・・・といえるほど、一緒に来たことはないけど、これまでは、乱馬が買ってきてくれていた。 飲み物、なにがいいかって聞いてくれて、わたしが食べそうなのを買ってきてくれて、 そういう、ちょっとした優しさというか、わたしのこと考えてくれてるっていうのが、すごく嬉しかった。 だから、いつもと違う乱馬の態度は、わたしを不安にさせる。 特に、優しくされないと、嫌いになられたんじゃないかって思うから。 売店は、来ている人のほとんどが同じように飲み物だとかを買おうとしていて、混み合っていた。 席に戻りづらかったから、この状況に少しほっとする。 それでも、上映時間が近づくにつれて、客足は減り、ついには誰もいなくなった。 わたしは仕方なく、ふたり分の飲み物と、乱馬が好きそうなお菓子を買い、席に戻ることにした。 戻ると、乱馬は立ち上がり、わたしの手から買ってきた物を受け取る。 「遅かったな。」 「う、うん。混んでたの。」 「そうか。」 ストローに口をつけながら、なぜか乱馬はそれまで座っていた席の隣に座った。 「え?」 最初、どうして乱馬がそんなことするのか意味がわからなくて、ちょっと考えた。 けど・・・すぐに答えは見つかる。 わざと、わたしが座る席との間をひとつ空けたのは、隣には座りたくないってこと。 つまりは、わたしの側にいたくないってことだった。 「・・・・・・。」 そんなに、あからさまに嫌だと思う気持ちを見せなくったっていいじゃない。 泣きたいくらい悲しかったけど、仕方ない。 映画に行こうって、無理に誘ったのはわたしだから。 ちょっと切なそうな恋愛映画だったから、乱馬と一緒に見れたらって。 勝手に期待したのはわたしなのだから、期待通りに動いてくれないからといって、 乱馬を憎いと思うのは筋違い。 「・・・・・・。」 そんなことはわかってるけど、そう簡単には割り切れない。 乱馬の顔も見れないまま、わたしはさっき座った椅子に腰を降ろす。 手に持っている容器はすごく冷たくて、指先がじんじんしてくる。 外側についている水滴が手から零れて腕をつたいながら、床に落ちていた。 早く、始まらないかな・・・。 間がもたなくて、一口、口に含んだ途端、頭に きーんっと刺激が走った。 「なに、やってんだよ。」 いきなり、不機嫌そうな声が聞こえてきた。 「え?」 乱馬を見れば、肘をついて、こっちをじっと見ている。 「なんで、そこに座るんだよ。」 「・・・なんでって・・・。」 なにがなんだか、訳がわからない。 大体、どうして、乱馬にそんな風に言われなきゃならないのよ。 「ここに、座れよ。」 元々自分が座っていた椅子を、ぽんぽんと叩く。 「いいよ、ここで。」 「いいから、座れ。」 「いいってば。」 頑なに席を移ろうとしないわたしの腕を、半ば無理矢理に引っ張り、 席を立たせて、そこに座らせられた。 「なんの、つもり?」 「・・・・・・。」 背もたれに背中をつけながら座ってみて、ようやく、乱馬の真意を理解する。 「乱馬?」 「さ、寒いんだろ。」 「ううん、暖かい。」 冷えた身体を乱馬の残してくれた熱が温めてくれていた。 「まだ、寒い?」 「ううん。」 「服、貸そうか?」 「大丈夫。」 そう返事して、手を きゅっ って握ったところで、照明がおちた。 手先から伝わってくる、乱馬の熱が指先からじわじわ伝わり、 やがて、その温もりは身体全体に広がる。 少ししたら、乱馬は指を絡め、強く握っていてくれた。 =おしまい= 呟 言 なんなんだ なんなんだ、これは。 こういうことってないですか・・・ないですよね、そうですよね。 夏の冷房化における、人肌の暖かさ度合って、 冬の比じゃないような気がするということを言いたかったんです。 ただこれを暑い時に読むと、べったべた暑いです・・・迷惑ですな。 ひょう