携帯電話を買ったので (前編)






「あ、あのさぁ。」
「ん?どうかした、乱馬?」

 乱馬は拳法を教えるために外へ働きに出ている。
道場は相変わらず、さっぱり流行らず。
それでも、高校を卒業してあかねと結婚した乱馬は、
あかねと生活していくため、ちゃんと働く道を選んだ。
あかねが家を守り、そのあかねを乱馬が守る。

 そんなある日のこと。

「おれさぁ、携帯電話を買ったんだ。ほら、便利だろ、こういうのあると。」
「ふ〜ん、どうせ、教えてる生徒さんたちにそそのかされたんでしょ?
 乱馬先生、いまどき携帯も持ってないの〜、おやじくさ〜いって。」
「な、なんでばれたんだ?」
「・・・・・冗談のつもりだったんだけど・・・そうなの?」

 あかねはくすくすと笑い出した。
乱馬は頬をぽりぽりとかきながら、ポケットから携帯電話を取り出した。

「い、いや、だから、とにかくー・・・これ」
「え?」
「おまえの。」
「ええっ!! わたしに? わたし、ほとんど家にいるし、そんな、いらないよ。」
「おれだけってのも、おかしいだろ。それに、家にいるったって、買い物いったりするし、
 これがあれば、おれも少しは安心して仕事にいけるし。」
「乱馬・・・ありがとう、嬉しい!」
「メ、メールとかもできるんだって。」
「そうなんだー、大事にするね。あ、私、お風呂入ってくる。」
「お、おう。」

 あかねは部屋の方へかけていった。


もっと早く携帯渡しときゃー、おれも毎日毎日あかねの心配しなくて済んでたのに。
本当おれってこういうもんに疎いよなー。
これでちったぁ、あかねが他のヤローの所へ行ったりする危険が減ったってもんだ。


♪るるるるる〜

 乱馬の携帯が鳴った。

「ん? メールか。誰からだ?」

     [乱馬へ  ありがとうv 大好きよv あかね]

 乱馬の胸が鳴る。

「こういうのも・・・いいな」

 乱馬は慌ててあかねの後を追ったのだった。





 幾日か過ぎたころ、あかねは乱馬の仕事場の近くにいた。
携帯電話のお礼をするため、おしゃれをして乱馬が仕事が終わるのを待っていた。

「もう少ししたら、乱馬に電話して、いつものように、家からかけてるみたいに装って、
 それで、乱馬がいつものように今日のご飯なに?って聞いたら、
 わたしって言って・・・目の前にでていっちゃおう! 驚くよね、乱馬。」

 そうこうしてると時間がきて、乱馬が仕事場の玄関から出てきた。
あかねは乱馬の姿を確認し、電話をかけながら乱馬の背後に近づいて行く。

「もしもし、乱馬? あかねだけど。」
「あ、あかね、あのさぁ、今日仕事遅くなりそうなんだよ、わりーけど、飯いらねぇや。」
「えっ?」
「ごめんな、急に決まってさぁ、本当すまねぇ。あ、そんじゃ、まだ仕事中だから、もう切るな。
 ちゃんと戸締りしとけよ、じゃぁな。」
「ちょ、ちょっと・・・・・・。」

 つーつーつー・・・・・・。

「何よ、今そこ、歩いてたじゃない、仕事中って。」

 あかねが電話機から前方へと視線をずらすと、
綺麗な女の人が立っていて、乱馬に向かって手を振っていた。
あかねは近づくと物陰から二人の様子をうかがう。

「わりー、待たせちゃったな。」
「ううん、そんなことないわ。こっちこそ、急に呼び出してごめんねぇ。」
「いや、別に構わねぇよ。」
「でも、奥さんいいの?」
「ちゃんと謝ったからいいの。」
「そう、じゃあ、行きましょ。」
「ああ。」
「ねぇ、私、いってみたいとこあるんだけどな〜?」
「いいよ、どこでも付き合うよ。」
「きゃぁ〜嬉しいっ! 乱馬、最高!大好きー。」
「わかったから、ほら、早くいこうぜ。」
「うん。」

 二人は仲良さそうに腕を組むと、人ごみのなかへ入っていった。

まるで恋人同士みたい。

 あかねは悲しくなってしまった。

堂々と浮気をするために、携帯電話を持ったんだ。
ごまかすために、わたしにも携帯電話を買ってくれたんだ。
いつでも、どこでも、私とつながっていたいからじゃなかったんだ。
わたしだけ、嬉しかったの・・・。

ばかみたいだね、わたし。

 泣かないように、泣かないように、あかねはこぶしを握りしめ、足早にその場を立ち去った。






 十二時を回って日付が次の日に変わっても、乱馬は帰ってこなかった。

     [先に寝ます  おやすみなさい 仕事、おつかれさま あかね]

 一時間前にメールを打ったけど、返事はまだ返ってこない。
メールの通り、寝ようとベッドに入ったけど、眠れるはずがない。

そういえば、一週間に一回はこんな日があった。
前日に明日は仕事が遅くなるからとか、
仕事仲間とご飯を食べるからとか言われて、そのままその言葉を信じていた。
でも、全部嘘だった。
知らないところで女の人と会っていた。
私の知らない乱馬・・・。
今頃はあの人と・・・もう、帰ってこないかも。
ううん、帰ってこないほうがいい。
明日から笑って乱馬を送りだすことなんかできない・・・。

 泣かないように・・・気を張っていたあかねだったが、暗い部屋に1人ぼっち。
愛する人に裏切られたという思いに知らず知らず頬を熱い涙がつたう。


  ピンポーン!

 突然チャイムが鳴った。
あかねは飛び起き、パジャマの袖で涙を拭った。
そして、慌てて玄関へ向かう。

「はーい。」

 涙声だとわからないように、できるだけ大きな声で返事をした。

乱馬が帰ってきたんだ・・・・・瞳、見れないかも・・・。

 あかねは無理に作った笑顔をひきつらせながら玄関に行くと、
そこには夕方、乱馬と会っていた女の人が乱馬を抱えて立っていた。
乱馬は酔っ払っていて女の人の肩に手を回し、もたれかかっている。
あかねは2人の姿を見て足がすくんだ。

どうして・・・どうして、こんなことができるの? 
乱馬・・・わたしと・・・別れたいんだね?

 瞳はみるみる潤んでいく。



 女の人はあかねに気づき、明るい声で話しかけた。

「こんばんわ〜、夜分遅くにすみません〜。」

 その声のあまりの明るさにあかねもつい彼女のペースにのせられてしまった。

「え、あ、こんばんわ。」
「あなたが、あかねさんですね。」
「は、はい、乱馬の妻です、一応・・・。」

 言葉に力が無くなる。

本当、一応、妻なんだ。それも、きっと、長くは続かないんだろうけど・・・

 あかねの重い気持ちとは裏腹に、彼女の明るい声が響き渡る。

「いやぁ〜、乱馬・・・あっと、乱馬さん、飲みすぎちゃったみたいで、
 何かいつもはこんなんじゃないんですけど、今日は何か異常にテンション高くって〜、
 あ、すみません〜、私も酔っ払ってるもんだから、それじゃあ、
 私は送ってきただけなんで、これで・・・。」
「あ、あの、よかったら、お茶でも飲んで行きませんか?
 少し酔い覚ましていったほうが・・・足元ふらついてるみたいだし、危ないから。」
「え? いいんですかぁ、嬉しいな〜、じゃあお言葉に甘えて〜。」

 乱馬を2人でかつぎあげ、居間に乱馬をひとまず寝かせる。

 あかねはお茶と梅干を用意して彼女のもとへ持ってきた。

「ごめんなさいね、簡単なものしかなくって。梅干、自家製なんだけど・・・お口に合うかどうか。」
「きゃぁ〜! これが乱馬さんところの家庭の味ね。ありがたくいただきます。」

 無邪気に振舞う彼女に、あかねは心のもやもやしたものが少し晴れていくような気がした。

女らしいしぐさ、きれいで長い髪、美人だし色っぽいし・・・それに、
こんなかわいい性格の子だったら、乱馬が好きになるのもしょうがないか。
わたしなんかより、ずっと乱馬にはお似合いね・・・

 眠っている乱馬の顔を見つめながら、ぼんやりと考えていた。

                                       =つづく=





呟 言 1
第2作目にして前・後編!! いっぺんに乗っけたらバイト数が・・・
な、長いっ、しかもよくわからないっ、ごめんです。
読んでくれた方、ショートカットしときますんで
読んであげてもよくってよ(小太刀風)と言ってくださる方、
後編へどうぞ、お気に召すまま・・・。
ここまで読んで挫折した方、下から戻ってください。                ひょう


よくってよ。
挫折した。