乱馬免許を取りに行く 「おれが取りに行くのが妥当だろう。」 「どうして?」 「そりゃーおめーは不器用だからな。」 「やってみなきゃ、わかんないでしょ!!」 「第一、範囲内で終わらねーと、金かかって迷惑かかっぞ。」 「う・・・。」 「おめーの挑戦よりも、やっぱり確実なおれがやんないとな。」 こうして乱馬が免許を取りに教習所へ通うことになった。 あかねは乱馬のことが気になってるのもあったが、やっぱり車の運転に興味があった。 乱馬に もし素質がなかったら、自分が代わりに・・・などという淡い期待ももっていたし、 友達が通っていたということもあって、教習所にやって来た。 乱馬、乱馬・・・無意識に、目は探す。 いた。 乱馬と、その友達が数人。 声が聞こえるところまで近づく。 「早乙女、いいよなぁ、美人な先生で!」 「別に興味ねーよ。」 「おまえって、女運いいよなぁ。」 「はぁ?」 「可愛い許婚はいるし、シャンプーだろ、右京に、小太刀・・・。」 「・・・いいのか? それって?」 「いいだろー!美人ばっかりじゃねーか。」 「そーかなぁ。」 「気がついてないだけだよ、羨ましいなぁ。」 乱馬の先生って美人なんだ・・・ちょっと不安。 それに、今の会話・・・私は大勢の中の1人なんだなって、そういう想い。 そりゃそうなんだろうけど・・・せめて、あかねはかわいくないくらい言ってくれたら、 わたしだけは別って気がしたのにな・・・言われたら、怒るけど。 そうしていると先生らしき女の人が乱馬に近づく。 「乱馬くん、さ、車に乗ってぇ。」 美人。色っぽい。 女の私が見ても思う。 綺麗な大人の女性って感じ。 胸も大きいし、スカートも短くて、スタイルいいなぁ・・・。 乱馬は車に乗り込む。 隣に先生。 ずきっとした。 助手席に女の人。 乱馬は何か話してて笑ってる。 先生も一緒に笑ってて・・・こんなの見たくない。 先生と目が合う。 はっとして慌てて目をそらし、友達の所に向かう。 乱馬に、ばれてないよね? 何となくわたしがここにいることを知られたくない。 友達の後部座席に座ると、教習が始まった。 コースをぐるぐる運転して回るらしい。 このくらいなら、わたしにだって出来そうなのにな。 乱馬の代わりにわたしがやりたい。 乱馬にあの先生と一緒にいてほしくない。 いつの間にか、乱馬の車を探している自分に気付く。 見たくないけど、でも・・・。 ふいに、後ろに乱馬の車がいた。 つい、振り返って、乱馬を見る。 乱馬は真剣な眼差しで運転していて、わたしには気がついていないみたい。 ・・・隣の先生の強い視線に気がつく。 わたしが見ると、先生は、にやりと不敵な笑い・・・? な、なんなのよ。 次の瞬間、乱馬の顔が先生の後ろ姿で隠された。 乱馬の肩に手を置いて、覆い被さって・・・・・・。 な、なにしてるの?! ひょっとして、キス? 見えないからわからないけど、でも、そういう風に見えた。 ほんの一瞬のことだった。 乱馬の顔はすぐに見えた。だけど、慌てて前を向く。 胸に突き刺さる鋭い痛み。 こんなことなら知らない方がよかった。見ない方がよかった。 乱馬の目、見れないよ。乱馬を見て、微笑めない。 友達の教習が終わり、車から降りる。 「あかね!」 聞きなれた大好きな声。だけど、今は聞きたくなんかない。 「なんだよ、おめー来てたのか。」 「・・・・・・。」 「な、おれ次の時間も運転すっから、おめーさ、」 「帰る。」 「・・・んだよ、かわいくねーな! おれが。」 「そのとおりよ!わたしはかわいくなんかない! 色気だってないし、全然、乱馬のタイプなんかじゃない!」 そこまでいうと目の奥が熱くなる。 さっきの光景がちらちらと頭の中をかすめていく。 今、ここで泣いちゃだめ、逃げなきゃ。 わたしは慌てて外へ向かう階段を登った。 「ったく、なんなんだ、あかねのやつ。」 ひとり残された乱馬はその場にたたずむ。 乱馬に背を向けた瞬間から流れ出した涙。 一緒に来ている友達に心配かけてはいけないから、化粧室に逃げ込む。 個室に入り、声をあげずに涙を流す。 「なかなかおちないのよね〜。」 外からの急な声にびっくりした。慌てて息を潜める。 「えー、珍しいのね。いつもは初日に即でしょ?」 「そうなのよ、だけどあの早乙女乱馬って子、まだ私におちないのよ。」 「ふーん、じゃあ逆に闘争心あおられてるって訳ね。」 「そうなのよ、絶対おとしてやるって気になるわ。」 「さっすがねー。」 「ふふん、当然よ。」 「入校してくる男の子たち吟味してるもんねぇ。」 「んふふvv今回の早乙女乱馬・・・めちゃめちゃいけてるわ。 しかも私の50人目のターゲットなのよ。絶対におとす!」 「あはははは、大概にしとかないと痛い目みるわよー?」 「こっちはボランティアでやってあげてるようなものよ、感謝されてもいいくらいだわ。」 「の割にはその後、貢がせてんじゃないの。」 「当然でしょ?私が相手してあげてるんだもの。まぁ、貢ぐのは向こうの勝手ね。」 さっきの・・・先生? お、おとすって・・・乱馬を? そ、そんなの嫌。 「どうしよう・・・。」 そのままいろいろ考えながらあかねは家へ戻る。 一時間したら乱馬が帰ってきた。 ほっとした。 まだ、おちてない・・・よね? だけど、この後どんなことになるかわからない。 意を決して、乱馬に話すことにした。 さっき見たことは忘れてない。 だけど、キス以上のことを、乱馬にしてほしくなかった・・・。 「乱馬。」 「ん、なんだよ、急に帰ったりして・・・なんかあったのか?」 「・・・ね、免許、やっぱりわたしが取りたいな。」 「はぁ?今更、何言ってんだよ。おれもうちょっとで仮免試験受けられんだぜ?」 「だって・・・。」 「だって、何だよ。」 「あ、あのね、今日・・・。」 本当は告げ口みたいで嫌だった。 でも、言わなかったら、わたし、傷つく。 言って傷ついた方がまだいい。 だけど、乱馬があの先生が好みで、それでもいいなら構わない・・・けど・・・。 乱馬に化粧室で自分が聞いたことを話す。 「ふーん・・・ま、確かにそういう感じだったかもな。」 「・・・・・・。」 キスのことも聞きたいけど、聞けないよね・・・。 「ま、おれはおちねーから大丈夫だろ。」 「!!」 何だか余裕の乱馬に腹が立つ。 「そんなのわかんないじゃない。急に、キスとかされてるんでしょ。」 ・・・言っちゃった。 何で知ってんだ? いつ見てたんだ!? あれは勝手にあの先生が・・・ 乱馬がする言い訳を先に予測してしまう。 真実なんかいらない。嘘でいい。 知らなければ、わたしは笑っていられるから・・・。 「はぁ?」 間の抜けた返事。 あれ? 「何言い出すかと思えば、おめー大丈夫か?さっきからわけわかんねーことばっかりで。」 「だって、わたし、見ちゃったよ?」 わたしが見たことを乱馬に伝える。 そういう風に見えただけかもしれないけど、わたしにはそう見えたんだもの。 「うーん・・・。」 乱馬は必死にさっきの教習を思い出そうとしていた。 腕を組んで、頭を傾けて・・・考え込んでる。 「・・・わりーんだけど思い出せねー。」 「い、いいの、そう見えただけなのよ、きっと・・・。」 「確実に言えることは、キスなんかしてねーってことくらいだな。」 「え。」 「ったく、んなこと気にしておめー・・・。」 「ち、違う。」 「まぁいいけど・・・そんなに気になんなら・・・おれが運転するとき、後ろに乗れよ。」 え・・・な、何よ偉そうにって思ったけど、心配だから従おう。 「いいの?」 「いいさ。」 「・・・うん。」 よかった。これで、乱馬、守れる。 次の日、乱馬とあかねは教習所にいた。 あかねは乱馬にドアを開けてもらい、後部座席に座る。 お嬢様みたいで気持ちいい・・・のも、束の間。 乱馬が運転席に座ると、先生がやってきた。 わたしに気がつき・・・顔が引きつってる? そうよね、せっかくの乱馬との時間、わたしが邪魔しちゃうんだもん。 でも、わたしからしたら、乱馬に近づかないでって言いたいんだけどな。 「あら、乱馬くん・・・こちら彼女?」 あ・・・いや、そんなんじゃないって言おうとしてたら、 「そうです。」 え?! 「おれの許婚で、あかねって言います。」 えぇっ! ど、どうしたのよ、乱馬ったら。 顔が、熱い・・・。 「ふ〜〜〜〜〜〜ん」 先生の視線が痛い・・・でも、すぐにわたしを見てまた余裕の笑み。 「ごめんなさいねぇ、あかねさん。 私が乱馬くんの『助手席に 初めて 座った女』で。」 やけに強調された 初めて って言葉。 優越感と劣等感。 「いえ、そんな・・・。」 わたしが少しうつむくと、乱馬の声が聞こえてきた。 「そんなの関係ないです。おれが女として見てるのってあかねだけだから。 あかねがおれの隣に、助手席に座ったら、初めて助手席に座った女になるから、 だからそんなこと気にしないで下さい、先生。」 どうして? どうしてそんなこといってくれるの? くらくらしする。 わたし、もっともっと乱馬のこと好きになっちゃうよ? いいの? わたしが顔を赤らめているうちに教習は始まる。 動き出す車。 「乱馬くん、センスあるわ〜、教えがいあるから先生嬉しい。」 やたらと乱馬の手や肩に触ってる・・・ように見える。 必要ないじゃない、そんなに触らないで! 「あ、このコース得意よねぇ、いつもみたいにすればいいのよ。」 なんだか私だけ・・・疎外されてるみたい。 わたしはいつもの乱馬を知らない。 ふいに車が止まる。 きょろきょろすると、どうやら縦列駐車の練習らしい。 乱馬が後ろを向いた。 つい、見つめてしまう。 かっこいいな。頑張ってる乱馬って、すごく好き。 真剣な眼差しが・・・わたしを見てる? 違うよね? コースを見てるんだよね? 「ごめん。」 え? 乱馬の顔が近づいて、唇に甘い感触。 「な・・・なに!?」 慌てちゃう! き、キス?キスだよね、今のって? 「後ろ見たらあかねがいたから、つい・・・な?」 やだ。人前だよ? それなのに・・・ って、助手席の先生唖然としてる。 わたしからよく見える先生の様子。 だけどそんなこと気にならなくなる。 乱馬から目を離せない。 他の人が入り込めない空気が、乱馬とわたしを包み込む。 暖かくて・・・甘くて・・・心地好くて・・・。 「うぅん、嬉しい。」 そういうと、また乱馬の顔が近づく。 その後も、先生は乱馬の手を触ってみたりしてたけど、 わたしはもう、そんなことどうでもよかった・・・。 乱馬の愛に触れられたから。 乱馬の助手席に座れるその日まで、わたしはちゃんと待っていられる。 だから、わたしは今日も後部座席で乱馬を見守る。 早くわたしを隣に座らせて、ドライブに連れて行ってね、乱馬。 =おしまい= 呟 言 この話を、現在に置くか、未来に置くかと悩んだのですが、 乱馬くんがやけに素直だったので(笑)未来に置くことにしました。 私は免許持ってますが、ぶきっちょなので運転してませんなぁ。 無駄にゴールドカード(優良ドライバー)です。 自覚してます、向いてないのを。 ここに書いているあかねちゃんほどひどくもないんですけど(笑) ひょう ここまで読みました。ひょうからお疲れ様です。そして自分自身にもお疲れ。 実はあかねちゃんの方、読んでなくて読みたいなって方 >>>あかね免許を取りに行く