理由はいらない  あかね的視点





「夫婦は一緒にいなきゃだめよ。」

 そう言われて、わたしの部屋で過ごすことにした。

 乱馬がそこにいる。
わたしは背を向けて座った。

・・・恥ずかしいから。

 ぎこちなく、重い空気が漂う。息苦しい。

何か話さなきゃっ!
でも、何を話せばいいの?
あ、今度の日曜日、どこに行くかまだ決めてなかったから・・・。

 乱馬の方を向く。

「ね、ねぇ。乱・・・。」

 薄目を開けて唇を突き出してる乱馬の顔が、目前に迫っていた。

え、えっ!? 何?

 びっくりして、反射的に手が出る。

ばちーん!!

 目の前にある頬に、平手打ち。

「いってーっ! 何すんだよっ!」
「こ、こっちが聞きたいわよ! 何してんのよ!!」
「え、キスだけど?」
「それは、わかってるわよっ! どうしてかって聞いてんのよ!」
「夫婦がキスしちゃ駄目なのか?」
「そんなこと、言ってないでしょ、急に、急にしようとするから。」
「んなことに、急もゆっくりもあっかよ。おれがしたいから、する・・・どこが悪いんだよ。」
「!!」

 乱馬の態度に、顔が引きつるのがわかる。

「なに、その自分勝手な言い方! わたしの気持ちは無視な訳?」
「したくねーのか、おめーは。」
「こんな風にはしたくなんかないわよ。」
「なんで?」
「なんでって・・・。」

 言葉に詰まる。

「だったら、いつ、おめーはおれとキスしたくなんだよ?」
「・・・・・・。」
「おれがしたいから、しちゃ駄目か?」
「駄目。」
「・・・・・だったら、もういいよ。
 おめーみてーな色気もねぇ女と、誰が好き好んでキスなんかするかよ。」

!!

「そんな風にしか、わたしのこと、見てくれてないんだ・・・。」

 目の前に映る顔が歪んだ。頬に熱いものが通る。

「あー、もう、何でわかんねーかなっ!」

どうしてわたしが怒鳴られなきゃいけないのよ!
乱馬が悪いんじゃない!!

「わかんないわよっ!!」

 乱馬を部屋から追い出す。

 止めどなく流れる熱い涙が感情を揺さぶる。

どうして乱馬はわたしを選んだの?
なんで結婚なんかしたのよ。

わたしじゃ、駄目なんだ。
わたしとじゃ・・・・・。





 晩御飯になる。
乱馬は先にご飯を食べていた。
いつもより少し距離を置いて隣に座る。
横目でその姿を見るけど、顔は見れない。

 何も言わず黙々と食事をする乱馬。

怒ってるんだ。
こんな乱馬、きらい・・・・・・そう思う、胸が苦しい。

ご飯、食べられないよ。


 普段通りの乱馬の様子に、こころが痛む。

わたしのことなんか、気にならない?

「ごちそうさま。」
「あら、あかねちゃん、もういいの?」
「うん。」

ここにはいたくない。
乱馬の顔なんかみたくない。
このままじゃ、乱馬のこと、嫌いになる。
だから、ちゃんと決着つけなきゃ。




 痛む胸を押えながら乱馬の部屋で、戻るのを待つ。

どう思うかな?
何て言うかな・・・。

 反応を考えていると、乱馬が部屋に入ってきた。


 わたしがここにいるからよね、驚いた顔。
だけど、乱馬のこと、ちらっとしか見れない。
すぐに顔を伏せる。

きっと、乱馬はいやな表情してるから・・・。
おめーの顔なんか見たくねぇって、そう思ってるに違いないから。

「ら、乱馬。」

 俯いたまま、一枚の紙切れを差し出す。

「何だよ。」

 不機嫌な声。

わかってた・・・けど、やっぱり、胸、きりきりする。
もう、後戻りはできない。

「・・・・・名前、書いて。」
「何だ?これ?」
「いいから、書いて。」

 持っていた紙切れを取られる。

   離 婚 届

 その紙の中身を確認した乱馬の声色が変わる。

「り、離婚? おめー、一体いつの間にこんなもん!」
「・・・・・婚姻届、出した時に・・・こっそりもらってたの。」
「なんで!」
「だって乱馬、いつだってわたしに優しくなんかないし、
 好きだなんて言ってくれないし、愛してるなんてもっての他だしっ。」
「・・・あのなー・・・だからって、なんでこんなもん、籍入れた日にもらってくんだよ!」
「それは・・・。」

いつ、こういう日がやってくるかは、わからないから。
乱馬の気持ちが見えなくなるときがあるから。
わたしのこと、きらいになる日がくると思うから。

理由なんてたくさんある。

 だけど、乱馬を目の前にすると・・・言葉に詰まってしまう。

 躊躇しているうちに、乱馬にそれを破られる。

「あっ!」

どうして?

「何が、気にいらねぇんだよ。ちゃんと言ってくれねーと、おれにはわかんねぇよ。」

わたしだって、ちゃんと言ってくれないとわかんない。

「・・・乱馬はどうして、わたしと結婚したの? やっぱり、この道場のため?」
「こんなぼろ道場のために、んなことすっかよ。」
「な、なによ、その言い方!」
「そんなもんのために、人生決めっか。」
「じゃあ、何よ。」

お父さんたちのため?
それとも体裁?
色気も感じない女と結婚する理由って何なのよ?

 揺らぐ気持ちとは裏腹に、感じる・・・わたしを見つめる真剣な視線。
乱馬の瞳に魅入られる。

 乱馬の強い、でも優しい声が聞こえてきた。

「あかね、選ぶのに理由、いるのか? おれはおめーといたいから、一緒になったんだ。」


・・・わかってた。

乱馬のこころが見えないんじゃなくて、
わたしが嫌われるのが怖いから見ないようにしてただけ。

理由はいらない。
後から何とでも言える、理由なんかいらない。

「・・・・・・乱馬。」

 こころにかかってた靄が晴れる。

「・・・悪かったよ。」
「え?」
「あかねの気持ち、無視するようなことしようとして。」
「ううん、わたしも、素直じゃなかった。」
「・・・え?」

 乱馬を見つめかえす。

「キス、しよ?」
「・・・うん。」

 わたしはそっと、唇を重ねた。







                                =おしまい=
呟 言 あかね的

にーぼーさまから受けましたキリリク小説。
「けんか」というリクエストに・・・けんかしてるかなと思いつつ(汗)
差し上げたのは視点設定ではなく、乱馬的とあかね的がひとつになっている物です。

私がそのままのっけても芸がないと思い、視点設定に書き換えました。
ちなみに差し上げた小説、最初はのせないつもりだったのですが・・・
自分とこに置けんもんを送るなー!と言われそうなので、隠しております・・・
意味のない隠し物(汗汗) お暇な方はご捜索くださいませ。←いないって!
                              ひょう


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