理由はいらない 乱馬的視点 「夫婦は一緒にいなきゃだめよ。」 そう言われてあかねの部屋で過ごすことになった。 あかねの部屋。 ここにいるだけで緊張するのに、その上あかねが側に座ってる。 背を向ける。 赤い顔見られたくないから。 間がもたない。ドキドキしすぎてくらくらする。 何か言わなきゃっ! でも、何を話せばいいんだ? 今、ふたりっきりなんだよな・・・ふたりっきり・・・・・・。 呪文のように繰り返すうち、乱馬のこころに魔法がかかる。 いいよな? さりげなく、ごくごく自然に近づいていく。 あかねは気がついてない様子。 よしっ。 唇を少し突き出して、あかねに顔を近づけていく。 もう少し近づいたら、肩を抱き寄せて・・・。 「ね、ねぇ。乱・・・。」 急にあかねが振り向いた。 だからって、行動は止まらない・・・が、 ばちーん!! 頬を叩かれた。 「いってーっ! 何すんだよっ!」 「こ、こっちが聞きたいわよ! 何してんのよ!!」 あかねは顔を真っ赤にしてわなわなと震えている。 おれ、なんか、悪いことしたか? 「え、キスだけど?」 「それは、わかってるわよっ! どうしてかって聞いてんのよ!」 「夫婦がキスしちゃ駄目なのか?」 「そんなこと、言ってないでしょ、急に、急にしようとするから。」 「んなことに、急もゆっくりもあっかよ。おれがしたいから、する・・・どこが悪いんだよ。」 「!!」 あかねの顔はみるみる引きつっていく。 「なに、その自分勝手な言い方! わたしの気持ちは無視な訳?」 「したくねーのか、おめーは。」 「こんな風にはしたくなんかないわよ。」 「なんで?」 「なんでって・・・。」 言葉に詰まるあかね。 「だったら、いつ、おめーはおれとキスしたくなんだよ?」 「・・・・・・。」 「おれがしたいから、しちゃ駄目か?」 「駄目。」 「・・・・・だったら、もういいよ。 おめーみてーな色気もねぇ女と、誰が好き好んでキスなんかするかよ。」 そこまで言ってはっとした。 しまった!! つい、いつもの、調子で・・・ あかねの瞳に映った自分の顔が歪む。 「そんな風にしか、わたしのこと、見てくれてないんだ・・・。」 頬をひとすじ・・・涙がつたう。 罪悪感から逃れたくて、あかねを怒鳴りつけた。 「あー、もう、何でわかんねーかなっ!」 「わかんないわよっ!!」 結局、あかねに部屋を追い出された。 しばし廊下にたたずんだまま、あかねの部屋のドアを見つめる。 どうしろって言うんだよ? 愛してるなんていいながら、しなきゃ駄目なのか? おれはそんな冷静な人間じゃねぇ! あかねがそういう男が好きだったら おれは・・・・・・おれは、変われねーよ。 晩御飯になる。 あかねは後からやって来た。 頬にまだ残る、涙の跡に胸は締め付けられる。 隣にあかねは座った。気になるけど、瞳は見れない。 ほんの少しして・・・。 「ごちそうさま。」 全くといっていい程、食べていないあかねの様子に、気持ちは落ち着かない。 んだよ、飯食わねーのは・・・おれ、責めてんのかよ。 「あら、あかねちゃん、もういいの?」 「うん。」 元気のない返事をしたあかねは、部屋を出て行った。 どうしろって言うんだよ? あかねはおれに何を望んでるんだ? 自分が招いた事態。 なのに、あかねの態度にいらいらしてしまう。 当然、そのこころは罪の意識に苛まれていく。 食事を済ませ、部屋に戻ると、あかねがそこにいた。 後ろめたかったから、ちょっとびびる。 「ら、乱馬。」 俯いたまま、一枚の紙切れを差し出された。 「何だよ。」 出てきた声のあまりの低さと重さ・・・あかねはびくっと肩を震わせた。 ひょっとして、怯えてんのか? どんどん自分に嫌悪感が募る。 「・・・名前、書いて。」 「何だ?これ?」 「いいから、書いて。」 あかねの手からその紙切れを奪う。 離 婚 届 そう書かれた紙。 激しく動揺してしまう。 どういうことなんだ? あかねはおれと別れたいのか? おれのこと、きらいになったのか? 「り、離婚? おめー、一体いつの間にこんなもん。」 「・・・・・婚姻届、出した時に・・・こっそりもらってたの。」 「なんで!」 「だって乱馬、いつだってわたしに優しくなんかないし、 好きだなんて言ってくれないし、愛してるなんてもっての他だしっ。」 「・・・あのなー・・・だからって、なんでこんなもん、籍入れた日にもらってくんだよ!」 「それは・・・。」 別れを予測されたみたいで、すごくむかついた。 でも、ここまであかねを追い詰めた自分自身に、もっと腹が立った。 びりびりと力任せに、それを破る。 「あっ!」 「何が、気にいらねぇんだよ。ちゃんと言ってくれねーと、おれにはわかんねぇよ。」 「・・・乱馬はどうして、わたしと結婚したの? やっぱり、この道場のため?」 「こんなぼろ道場のために、んなことすっかよ。」 「な、なによ、その言い方!」 「そんなもんのために、人生決めっか。」 「じゃあ、何よ。」 あかねを見つめた。 「あかね、選ぶのに理由、いるのか? おれはおめーといたいから、一緒になったんだ。」 「・・・・・乱馬。」 お互い、鈍いからな。 あかねの考えてることわかんなくなることあるけど、 気持ち、見えねえって思うことあるけど、出来る限りはわかりあいたい。 「・・・悪かったよ。」 「え?」 「あかねの気持ち、無視するようなことしようとして。」 「ううん、わたしも、素直じゃなかった。」 「・・・え?」 それってどういう・・・。 あかねの瞳に魅入られる。 「キス、しよ?」 「・・・うん。」 照れながら、そっと唇を重ねた。 =おしまい= 呟 言 乱馬的 にーぼーさまから受けましたキリリク小説。 あかね的に事の経緯は書いとります。 そういや、あかねちゃんの最後の言葉、「キス、しよ?」は、 当初「キス、していいよ」だったんですが、それではあかねちゃんが受身すぎで 乱馬くん任せな感じがして、かえました。が、この言葉、相当悩みましたっ。 何度もどっちにしようかと・・・。 こっちはこっちで積極的かなーとか。 ひょう