きみをしりたい  第1章





 らんまは城の前に立っていた。
左手には大きな鞄。
もう片方の手に、身にまとったドレスの裾を持つ。

「今度はどうかな・・・。」

 溜息交じりにひと言呟くと、規則的に並んだ石畳の床を歩き、中へと入る。
編み上げ靴の踵が床を叩き、コツコツと軽快な音を奏で出した。

 外の日差しを避けている石造りの廊下はひんやりとしていて、汗ばんだ身体を冷やす。
身震いしながらも、更に奥へと進んでいく。

 石柱の間から中庭が見えていた。
きちんと手入れされているその庭は、季節の花が咲き誇り、
撒かれた水を受けた葉が光を反射し輝く。

 それら自然の美しさを受け止めた、ひとりの少女がその輝きの先にいた。

 頭には小さな銀の冠。

 この城の王女だ。
 ・・・・・確か、名前は、あかね。

 遠目で見た限り、その姿はあどけなく、愛くるしい感を受けた。
手にもった如雨露を近くの草木に傾けていて、こちらの気配には気がついていない。

 らんまは足音を立てないように、土の上を歩き、あかねに近づいた。
そっと木陰から姿を現し、声をかける。

「ごきげんうるわしく、あかね姫様。」
「!!」

 突然話し掛けられたあかねは驚き、表情を強張らせる・・・。
が、それは一瞬のこと。

 すぐに微笑みが零れた。

「こんにちわ。よいお天気でなによりですね。えーっと・・・。」

 あまりにも小気味いい返事にらんまは驚く。

 普通こういう状況で、想定される対応は、無視する、怒る、罵る、最悪は平手打ち。
だいたい、初めて、しかもよくわからない素性の者などとは、こんなに軽々しく口は聞かぬはず。
よほど性格がいいのか、はたまた あけっぴろげな性格なのか・・・。

「あの。」
「え?」

 そんなことを考えていたらんまは、あかねの声で我に返る。

「お名前は?」
「は?」
「えっと、あなたのお名前、教えてくださいませんか?」
「ああ、失礼いたしました。  らんま と申します。」
「お歳は?」
「十六になりますが。」
「そうなんだ、同じ!」
「あ・・・そうなんですか。」
「だったら・・・ね、口調、普通にして?」
「でも。」
「ね?」
「・・・・・口悪いし、男っぽいし。」
「構わないから。」
「・・・・・・。」
「わたし、堅苦しいの苦手なの・・・。」

 目の前に、がっかりした表情。

 何故だかわからないけど、このお姫様を喜ばせたい気持ちに駆られる。

「い、いいんだな? 口、本当に悪いぞ。こんなだぞ。」
「うん。わかってくれるんだ。嬉しい。」
  
 そう言って、口もとを綻ばせるあかねのあどけない笑顔がらんまのこころの中にすんなりと這入ってくる。

 たった今、出逢ったばかりなのに。

 
「ねぇ、らんま、あれは?」
 
 あかねは廊下に置いてきた大きな鞄を指差した。

「実は・・・。」
 
 らんまは身上を語リ出す。
 
「おれは身寄りがなくて、あちこち転々と旅してるんだ。
 お金がなくなったら、働いて、そしてまた旅に出て・・・。」
「うん。」

 あかねは真剣にらんまの話に耳を傾けた。

 やっぱり、性格がいいのかな。
こんなにちゃんと、おれみたいな人間の話を聞いてくれた女はいままでいなかった。

  
 知らず知らずに声は弾みだす。

「・・・・・そういえば、あかね。」

 さりげなく呼び捨て。


 流石に怒るかな?

 ちょっとどきどきしながら反応を待った。
 
 だけど、あかねは気がついていないのか、それとも気にしていないのか。

「なあに?」

 首を傾げてこっちを見る。

 やっぱり嬉しい気持ちになって、更に話を進めた。

「側仕えっていないのか?」
「あ、うん、そうなの。自分のこと、自分で出来るから、だからいらないって言ってるの。」
「・・・・・だったら、あかね。」
「うん。」
「おれを、ここに置いてはくれないか?」
「え?」
「あかねの側仕え、させてほしい。」

 あかねは、しばらく考える。


 やっぱり無理かな?

「駄目、かな?」
「・・・お願いして、いいの?」
「え。」
「お願い、します。」

 そう言って、お辞儀をする。
慌ててあかねに倣った。

「こちらこそっ。」

 顔を上げる。

「よろしくね、らんま。」
「い、いいのか?」
「うん。わたし、らんまに近くにいてほしいの。」
「な、なんでだよ。」
「なんでかな?」

 答えは はぐらかされたけど、かわいい顔に満面の笑みを浮かべた表情に、
らんまのこころは激しく揺れ出した。

 今度こそ・・・・・・。
何度そう思い、何度裏切られたか知れない、その想い。
だけど、今回はいままでと違う気がする。
いや、絶対違う。

 おれは、あかねのこと・・・・・・。










                           =続*第2章=



呟 事
果たして前後編くらいで終われるのか・・・
はたまた3、4話いってしまうのかは相当に謎だったりで(汗)
男乱馬くんではなくて、女らんまくんです、今回。
いや、最初の妄想は、男乱馬くんに女装させてたりして(笑)
そんな無理無理なっ!て感じ←本当本当(阿呆)

気にならない程度の続物、書いております。
この後も、こんな感じで、だらだらっと長いですので(汗汗)
相変わらずの、中世時代・・・ということで。      ひょう



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