きみをしりたい  第2章





 あかねに手を引かれ、城内を案内されることになった。
まずは、王座の間に向かい、母である王妃と謁見する。

 王は今、隣国へ赴いているため留守だったが、
王妃はらんまを身近に置くことを快諾してくれた。

「お母さま、許してくれる?」
「もちろんよ。あかねが考えて決めたことならば、何も言わないわ。」
「ありがとうございます、王妃様。」
「いいえ、お礼を言いたいのならば、あかねにお言いなさいね。」
「は、はい。」

 お礼を言おうと、あかねを見る。

「なあに?」

 首を傾げて微笑む。
話は聞こえているに違いない。
なのに、お礼を言う間を与えない、その態度が堪らなくかわいい。

「・・・・・・。」

 お礼どころか、抱きしめそうになる手を押さえる。
理性を取り戻すため、話を戻すことにした。

「でも、王様がご不在の時に決めてしまわれてもよかったのですか?」
「いいのよ。あの人は私には逆らえないから、ね、あかね。」
「うん、大丈夫よ、らんま。」
「そ、そう。」

 この母の性格が、あかねの飾らないこころをつくっているに違いない。
分け隔てのない愛情を注ぐように、育てられているんだろう。


 その後、伴って台所へ向かう。
下仕えはほとんど皆、ここにいた。

「あかね姫様、どうかされたのですか?」

 近づく存在に気付いた一人が慌ててあかねに歩み寄る。
周りにいた者たちもそれに気がつき、わらわらとあかねの元へ集まってきた。

「えっと、今日からわたしの側仕えをしてもらうことになった、らんまです。
 みんな、よろしくお願いします。」
「・・・らんま といいます。よろしくお願いします。」
「よろしく。」
「こちらこそ、よろしくね。」

 皆、気さくで明るい性格らしく、すぐに打ち解ける。
あかねや王妃の気取らない性格からして、それは当然と言えば当然だ。
あかねは誰にでも優しいんだ。別におれだからってわけじゃない。
そう、無理に思おうとしてた。

 あまりにも急激に惹かれていくこころに、歯止めをかけたかったから。



 一通り城を巡り、あかねに部屋へと通される。
側仕えのいない割りに、いや、いないのに、きれいに片付いたその部屋。
しっかりとした性格をうかがわせた。
 
「そのへんに、座っててね。」

 そう言うと、あかねは部屋の奥へ消える。
ちょうどそこにある長いすに腰掛けた。
息を吸うと、部屋に漂う甘い花の香り。
あかねが身に纏っている、その匂いが鼻腔を擽る。

 しばらくすると、両手にお盆を持ってやって来た。

「お茶、飲む?」

 慌てて立ち上がる。

「あかね、そういうことは、おれが。」
「ううん、らんまはお客さまよ?」
「でもっ。」
「いいから、座って。」

 黙って従い、再び座った。
あかねは隣に腰掛けると、ふたつのカップに紅茶を注ぐ。

「お砂糖は、いくつ?」

 自分でやるから・・・って、そう跳ね除けられない、優しい強さがあかねにはあった。

「・・・ふたつ。」
「ミルク、入れる?」
「うん。」

「・・・はい。」

 手渡された紅茶より、自分のこころが熱をもって熱くなってる。

「わたしね、嬉しいの。」
「え?」
「今までこういう風に話せる友達いなかったから。」
「そうなのか。」
「らんまがいいって時まで、ここにいてね。」
「う・・・うん。」
「本当? 一緒にいてくれるの?」
「うん・・・・・・。」

 そう、返事をしたものの、あかねを裏切っているという自分への罪悪感と、
友達という言葉への失望感に、しばらくの間、苛まれていくことになる。

 本当のことを言わなければ・・・・・それが、らんまのこころを激しく責め立てていた。







 らんまの本当の姿は男。
呪いを受け、女の姿をしていた。
らんまは乱馬という名で、大国の子息。
王子である。

 男の姿の乱馬を知る、世の姫君や貴族の令嬢などは
その容姿の美しさと、身分の高さに惹かれて結婚しようと群がった。
しかし、姿形や権力が目当ての女どもに興味などもてない。

わかってるさ。
現実を見て生きなきゃならないってことくらい。
自分は一国の王子。
いずれはこの国を治めていかなければならない身。
我儘が罷り通るのも、そろそろ限界だろう。
だけど、きっとどこかに本当の自分を受け入れてくれる、
たったひとり がいるはずだと、そう思って生きてきた。
何もない、何ももたない、ありのままの自分を。

だから今まで、諸国を巡リ歩いた。
わざと、女の姿で。
下仕えとして仕えれば、真実がみえるから。
本当がみたいから。

だけど実際に、ここまで近づけたのは、はじめてだった。
今までは、出逢った瞬間に答えは見えていたから。
それは受け入れ難い真実ばかりで・・・。

男の姿の自分を恭しく慕う女が、女の姿の自分には敵意と悪意を持ち接する・・・。
どこにいっても、だれであっても、いつも同じ。

正直、うんざりしていた。
何度試したって、駄目なんだろう。
こんな風に、女を試している自分の行動にも嫌気がさしていたし、ここまで、どうして拘る?
おれは何を求める? 望むものは何なんだ?
何度も自問自答を繰り返えしてた。

ただ、大切にしたいって、そう想える、たったひとりをみつけたいだけなんだ。

おれはそいつと一緒に生きていきたい。
隣に座るそいつは、飾りたてた偽りなんかなくて、本当の姿であってほしい。
おれは、そいつに本当の姿をしってほしいし、そいつの本当をしりたいんだ。



 気がつけば、幾つも山を越えた、知らない土地にいた。
時間がないから焦っていたのも事実だった。

 だけど、あかねに出逢えた。男のおれを知らない、あかねに・・・・・・。




 あかねを見つめる。

「あかねが、いやじゃないなら、別におれは。」
「嬉しい。」

 眩い笑顔が、偽りの姿に追い討ちをかけた。









                         =続*第3章=


呟 事
更に続いていくらしい(らしいって)
やっぱりどう書いていってもだらだらっと長いです。
なんか説明ちっくな第2章。
何が言いたいのか・・・それは最後にきっとわかる・・・といいな。
精神との関連が微妙にあったりなかったり(どっちやねん)
いや、それもきっとこれが書き終わる頃に答えが・・・。
と、ちっとだけトンネル抜け出せてよかった。
って自分的時事を書くとあとで読むとおかしいのね。     ひょう

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