ちいさい自由   第二章     乱馬的観点





「ここが、おれたちのアジトだ。」
「・・・・・・。」

 あかねを馬から降ろし、案内する。
あかねは、こういう場所は初めてらしく、きょろきょろと物珍しそうにあちこちを眺める。

 とにかく、あかねを守らなければ・・・。

「ちょっと、ここで待ってろ。すぐ戻るから。」

 とりあえず、手下どもが連れ去ってきた女たちのいる部屋にあかねを入れる。
ここなら、もし今すぐに追手が来ても、あかねの姿は紛れ、探すのは困難だろうから。

「いいな? 勝手にうろうろすんじゃねぇぞ。」
「うん。」

 部屋を出て、外側から鍵をかける。急ぎ足で、自室に戻った。
手っ取り早く、ベッドのシーツを新しい物に取り替え、目に付く物を片付けてから、食堂に降りた。


「あ、お頭、お戻りになりましたの?」
「食事でしょう? いつものように、部屋の方にお持ちしますわ。」
「いや、いい。ただ、早く用意してくれ。」

 食堂にいた、女どもを急かす。

「どうか、されましたの? お頭がここにご自分で足を運ぶなんて。」
「珍しいですわね。」
「ふたり分、頼む。」
「お客さまですか?」
「まぁ、そんなもんだ。」

 残してきたあかねのことが心配で、いらいらしながら待っていると、ようやく食事が用意された。
お盆を手に、部屋にそれらを置き、あかねのいる部屋に舞い戻る。

 かけていた鍵が開いている・・・慌てて、扉を開けた。
薄暗いはずの部屋の真ん中に、灯りがあり、あかねの姿が映し出されていた。
手下どもがあかねの周りを囲んでいる。

 胸の中が、かっと熱くなる。

「てめぇら、そこで何してる!?」

 あかねの顔が見えて、その表情は、強張ってるように感じられ、
少しでも、あかねをひとり、ここに残してしまったことを後悔し、自分を責めた。

 即座にあかねの側に行き、腕を掴んで立たせる。

「待たせたな。」
「ううん。」
「なんか・・・されなかったか?」
「ううん。」
「本当にか?」
「うん。」

 ちょっとだけど、ほっとした。
あかねの振る舞いも、不自然さや、ぎこちなさがなく、どうやら、本当のようだったから。
とにかく、もう二度と、こんな目に遭わせちゃならない。

「こいつにだけは、触んな。今後、一切だ。わかったな。」
「へい!」
「他の者にも伝えておけ。あかねには、勝手に近づくなと。」
「へいっ!」

 その場にいる、ひとりひとりを睨みつけ、そして、あかねを連れ出した。


「・・・・・・悪かったな。」
「え・・・。」

 徐に口を開き、謝るおれを、あかねはきょとんとした瞳で見る。

「怖かっただろ?」
「ううん、大丈夫。」

 怯えのない微笑みが、自責の念に駆られていた気持ちを和ませる。

 何事もなくて、よかった。

「な、あかね。」
「なに?」
「腹、減らないか?」
「・・・・・・。」

 あかねは考えている様子だったけど、静かに頷く。

「減ってる。」
「じゃあ、めし、食おう。」
「うん。」

 その返事を確認し、あかねの手を引いて部屋に向かうことにした。


 食堂を通り過ぎるとき、女どもの声が耳に入ってくる。

「あ、お頭だわ。」
「ねぇ、あの女なんなの?」
「あれが、さっき言ってた客なわけ?」
「ちょっと馴れ馴れしくない?」

 姦しい者たちを横目で睨みつけ、黙るように目配せすると、女どもはそそくさと奥に引っ込んだ。

あいつらにも、ちゃんと言っとかねぇとな・・・。


「あの・・・乱馬。」
「ん? なんだ?」

 今の話が、あかねの耳に届いてないことだけを祈る。

「どこに行くの?」

 よかった。聞こえてなかったようだ。

「え・・・おれの部屋だけど。」
「・・・・・・。」

 ほっとしたのも束の間。あかねの表情は強張った。
どうしてだろうか? 不思議に思う。

「どうか、した?」

 あかねの顔を覗き込む。

「ううん。何でもない。」
「そう?」
「うん。」


 あかねを部屋に通す。

「そこ、座ってて。」

 そう言ったら、あかねは椅子にちょこんと座る。
その様がやたらとかわいく感じて、いつまでも、その姿をここに留めておきたい気持ちに駆られた。

 奥に置いていたスープを、あかねの目の前に差し出す。

「ちょっと冷めちゃったけど・・・。」

 こんな質素な食事、今までしたことなんかないんだろうなって、予想はついてた。
口に合うかどうか・・・本当に心配でたまらない。

「いただきます。」

 あかねはスプーンですくい、口に運んだ。一口食べて、おれを見る。

「・・・おいしい。」
「本当か? 本当は口に合わないんじゃねぇのか? 無理して食う必要はねぇぞ?」
「ううん。無理なんかしてない。本当に、おいしい。」
「そう?」
「うん。」

 そう言って、スープを飲む姿に安心した。

「だけど、どうして? もっと贅沢な暮らし、出来るんじゃないの?」
「確かにな。だけどな、必要以上は盗まない。貧しい奴らからは盗まない・・・。
 こんなことやってるくせに、かっこうつけてるみたいだけど、
 一応、おれたちなりのやり方っていうのがあるんだ。」

 こんなこと、仲間以外と話したことなんかなかったのに、
あかねには、すごくおしゃべりになって、おれのこと、何でも知ってほしい・・・そういう気持ちになった。

 あかねは黙って、真剣に、おれのくだらない話を聞いてくれた。
ひと息ついて、あかねを見る。

「わたし・・・。」

 金持ちを毛嫌いする、おれの話を、あかねは気にしたらしく、
そんなつもりじゃないだけに、傷つけてしまったんじゃないかって、慌てた。
話を素早く、さり気なく、摩り替える。

「あかねは、あの時、どうしておれの手を掴んだんだ?」
「・・・・・・わたし、本当は、今日・・・結婚することになってたの。
 相手はね、二十も年上の人で、顔だってよく知らない。
 ううん、知ってても、わたしはその人を好きにならないと思う。
 そんな人と結婚するくらいなら、わたしは・・・。
 この命の代わりに、自由が手に入るのなら、惜しくなんかなかった。
 わたしは自由がほしかった。」

 時折、涙声が混じりながらも、あかねはちゃんと話してくれた。

「あかねがいいなら、ここにいていいんだからな。」

 本当は肩を引き寄せて、抱きしめたかったけど、
涙を流さないように堪えてる、あかねの姿に、
その姿勢を尊重させたかったから、そうひとことだけ言った。







                        =つづく=



呟 事
話、進んだんだか何なんだかの第二章。
すでに嫌な気持ち、めいっぱいな方だらけでしょうなぁ。
      
とりあえず、年の暮れ。ここまでが限界でした。
出来たら、ここに、小話書きますので・・・
「いやん、続き気になるわ。」と言ってくださる方は、
ここの隠し場所を覚えていてくだされば、嬉しいです。
                      *ひょう*

て、これを書き直すという行為自体がさむいので・・・これはあえてそのままです。

>>>第三章読む? >>>読まないです。