ちいさい自由   第二章     あかね的観点





「ここが、おれたちのアジトだ。」
「・・・・・・。」

 決して広いとは言えないし、きれいでもない。
盗品で部屋を飾りたて、派手で悪趣味とも言える装飾を想像していたわたしは、拍子抜けした。
金品を強奪している盗賊なのに、誰一人として、格好つけたり、贅沢をしたりする者はいない。
それどころか、少しばかりの食物を仲良く分け合い、弱者には施しを与えていた。


「ちょっと、ここで待ってろ。すぐ戻るから。」

 そう言って、乱馬は、比較的広く、薄暗い部屋にわたしを通した。

「いいな? 勝手にうろうろすんじゃねぇぞ。」
「うん。」

 乱馬は部屋を出ていく。

 外から鍵のかかる音?

 少しずつ、暗いところに慣れていく目を凝らして見ると、
この部屋には、わたしと同じくらいの女の子が、たくさん・・・いた。
どの子も、皆、一様に涙を流し、悲しみにくれている。
ひとりの少女が、わたしに近づいてきた。

「あなたも、盗賊たちにさらわれてきたの?」
「え・・・。」

 どう言ったらいいんだろう・・・返事に困る。

「わたしは、海を越えた国の王女だったの。先月、突然、馬車がこの盗賊団に襲われて、
 気がついたら連れ去られて・・・・・・。」
「そうなの・・・。」

 他の女の子たちも、次々に自分の身の上を話し始める。

「わたしは、二ヶ月前に、屋敷から・・・。」
「舞踏会の席で、突然にさらわれて・・・。」

 話し終わると、次々に泣いていく。
わたしはそれが、不思議でたまらない。

「どうして、みんな泣いているの?」
「無理矢理連れて来られたのよ! ここでどんな目に遭うと思ってるのよ!!」
「あなたはまだ、知らないから、平気な顔していられるんだわ!」
「・・・・・・。」

 どんな目に遭うのかは、皆の態度からして、容易に想像はつく。
だけど、わたしは、あの伯爵と交わすくらいなら・・・・・・。

 鍵の開く音。

 乱馬が戻ってきたのかしら?

 明るい光が開いていく扉から、部屋に差し込んでくる。


「今日、お頭、直々に連れて来た王女って言うのは・・・。」

 わたしを見る、数人の男。

「おまえが今日、お頭に連れて来られた王女か?」
「・・・・・・。」

 黙って頷くわたしの顔を、まじまじっと見ている。

「なかなか、かわいいじゃん。」
「確かに。だけどよ、俺、お頭は女に興味ないって思ってぜ。」
「だよな。今まで一度だって、頭は女を盗んだこと、なかったもんな。」
「同じ身分で、同じくらい器量のいい王女はいくらだっているだろうに。」
「どっか、なんか違うのか?」

 男たちは、わたしに近づく。

「こっちに明りくれよ。」

 ひとりの男が、顔にランプを近づける。

「・・・こうして見ると。」
「うん。かわいいな。」
「お頭、相当、目が肥えてるよ。」
「そりゃそうだろ。いたる所の、美女がここにいるわけだし。」
「それに、お頭の周りには、美人の取り巻きも大勢いるしよ。」
「で? この娘、どうするんだ?」
「ここにいるってことは、いいんだろ?」
「そうか。だったら、俺が。」

 ランプを持つ男が、わたしの腕に触れようとした時、扉の方から強い声が響いた。

「てめぇら、そこで何してる!?」

 男たち全員が、その場にきをつけをし、固まった。
逆らえない権威と威厳が、空気中に伝わる。

 張り詰めた空気。

 その声の主に視線を向ける・・・・・・やっぱり、乱馬だった。
足早にこちらに近づき、わたしの腕を掴み、その場に立たせる。


「・・・待たせたな。」
「ううん。」
「なんか・・・されなかったか?」
「ううん。」
「本当にか?」
「うん。」

 乱馬は安心した様子を見せる。
そして、視線を男たちに向けた。

「こいつにだけは、触んな。今後、一切だ。わかったな。」
「へい!」
「他の者にも伝えておけ。あかねには、勝手に近づくなと。」
「へいっ!」

 威圧的な強い口調に男たちは一斉に返事をし、乱馬に従う態度を示す。
わたしは、乱馬に腕を捕まれたまま、部屋の外に連れ出された。


「・・・・・・悪かったな。」
「え・・・。」

 乱馬は、ばつが悪そうに、わたしを見ていた。

「怖かっただろ?」
「ううん、大丈夫。」

 それどころか、乱馬のこと、ちょっとだけ、わかったし、
わたしだけ・・・って、その言葉が嬉しかったから。
どうして、嬉しく思うのか、それはまだよくわかんないけど。

「な、あかね。」
「なに?」
「腹、減らないか?」

 そう言われると、お腹すいてる・・・よく考えたら、ここ最近、
憂鬱で、まともに食事などしていなかった。

「減ってる。」
「じゃあ、めし、食おう。」
「うん。」

 そう言って、乱馬は手を引き、歩く。

 食堂らしき場所の前を素通りした・・・・・・あれ? ここじゃないのかな?
ざわざわと騒然としているその場所を抜けたとき、意を決して、乱馬に訊ねることにした。


「あの・・・乱馬。」
「ん? なんだ?」
「どこに行くの?」
「え・・・おれの部屋だけど。」
「・・・・・・。」

 さっきの部屋で、さらわれてきた娘たちの話していたことが思い出された。
どんな目に遭うか・・・・・・。

 乱馬は、急に黙ったわたしの顔を覗き込んできた。

「どうか、した?」
「ううん。何でもない。」
「そう?」
「うん。」


 だけど、わたしは思ったの。
乱馬とだったら、乱馬になら・・・どんな目であっても構わないって。


 階段を上って、部屋に通される。やっぱり、質素で飾り気はない。
目の前すぐに、テーブルがひとつ。
そのすぐ側にソファーがあって、少し奥まったところに大きめのベッドがあった。

「そこ、座ってて。」

 テーブルに備え付けられている椅子に腰掛けた。
すぐに、乱馬はスープを出してくれた。

「ちょっと冷めちゃったけど・・・。」
「いただきます。」

 スプーンですくって、口に入れる。
そのスープはとても暖かくておいしい。
心配そうにわたしを見ている、乱馬の顔を見て、わたしは素直な気持ちを伝えた。

「・・・おいしい。」
「本当か? 本当は口に合わないんじゃねぇのか? 無理して食う必要はねぇぞ?」
「ううん。無理なんかしてない。本当に、おいしい。」
「そう?」
「うん。だけど、どうして? もっと贅沢な暮らし、出来るんじゃないの?」
「確かにな。だけどな、必要以上は盗まない。貧しい奴らからは盗まない・・・。
 こんなことやってるくせに、かっこうつけてるみたいだけど。
 こんなんでもな、一応、おれたちなりのやり方っていうのがあるんだ。
 こういうやり方に共感し、従う者が、こうやって集って、
 おれを頭にこの盗賊団は出来上がっている。
 そりゃあ、盗人だし、偉そうなこと言えやしねぇけど。
 けど、好き放題贅沢して、ぶくぶく私腹を肥やすやつらを、おれは許せねぇ。
 貧しい者はどんなに一生懸命働いたって、ろくな食事すらできねぇんだから。」

 乱馬の話に、わたしの胸は締め付けられる。
知らなかったとは言え、毎食、感謝し、好き嫌いせず、食べただろうか。
時には食べきれず、捨てていた食事・・・。
そのひとかけらさえ、食べれない人がいるというのに・・・。

「わたし・・・。」

 謝ったってどうにもならないけど、怒りに震える乱馬に、謝らずにはいられなくなった。
だけど、乱馬はわたしの気持ちを察して、話題を摩り替えてくれた。

「あかねは、あの時、どうしておれの手を掴んだんだ?」
「・・・・・・。」

 わたしは、自分の身の上を、死のうとしたその理由を話す。
望まない、結婚をさせられることになっていたことを。

「あかねがいいなら、ここにいていいんだからな。」

 その言葉が、本当に嬉しかった。

 今まで感じたことなどなかった、生きてる感覚。
わたしの気持ちが大切にされてる喜び。
ここには、自由がある。
小さいけど、わたしの望む自由が。







                            =つづく=






呟 事
話が進んでいるのかよくわからない第二章。
くどいよって、もうやだなぁって・・・そんな感じなんでしょうなぁ。      
とりあえず、年の暮れ。ここまでが限界でした。
出来たら、ここに、小話を書きますので、
「めっちゃ、続きが気になるわ。」と言ってくださる方は、
ここの隠し場所を覚えていてくだされば、嬉しいです。
                            *ひょう*

て、これを書き直すという行為自体がさむいので・・・これはあえてそのままです。

>>>第三章読む? >>>読まないです。