少年よ珍話になれ

第弐話

ひとりでできるもん!!

Made by 幻都





ザザアアアン…

あたりには波の音それ以外の音はなにも聞こえない。

果てしない静寂と時を刻む波のリズム。

照りつく太陽が海を青く輝かせていた。

海と言うのは不思議なものだ。

深い海の底を泳ぎながら彼はそう思った。

セカンドインパクトによって多くの陸地は海に沈んだ、それによってどれほどの生あるもの達が海に沈んだのだろうか?

この海が呑み込んだ生命達は海で生きていく事が出来なかった。

だが、すべての生き物は海から生まれたのもまた事実。

それは使徒である自分も変わらない。

母なる海に抱かれる事の出来ない人類達か…、哀れな…

ズガアアアアン!!

突然、彼ガギエルは体に大きな衝撃を食らった。

魚雷だ。

並みの戦艦なら一撃だろうが、ATフィールドを操る自分には通じない。

ガギエルは嘲笑の笑みを浮かべながらそのまま近くの船を破壊した。

無駄だ俗物どもめ、大人しく道をあけろ!

破壊の海王ガギエル、彼の暴走を止められるものはこの海にはいない。

だから海兵さんは当然どうしようもない、すでに四発撃ち込んだ魚雷はATフィールドの前で散っている。

その時だった。

破壊した戦艦からなにかが飛び出した。

そいつは別の戦艦の上で布をマントのように翻しながら四つの瞳でこっちを睨みつけた。

肩からかけた布を捨てると船を蹴り別の船に飛び移る。

なんだあの赤いのは…?使徒?いや少し違うな…一体何者だ?

シャキン…!

赤い奴はナイフを取りだし身構えた。

なるほど、リリンの人形か、愚かな。

ガギエルはフッと口元を歪ませると赤い奴に向かって突っ込んだ。

相手がなんだろうが所詮はATフィールドを持たないものに自分を傷つけられるはずがない。

だが、ガギエルが次に見たものは海に映った腹を大きく裂かれた自分の姿だった。



「太平洋艦隊の力を借りたとはいえ出撃より三十六秒、内部電源が切れる前に使徒殲滅、危機回避判断能力、操縦テクニック、どれをとっても完璧、噂以上ねセカンドチルドレンの実力は」

白衣を着た三十歳ほどの女性は冷静な口ぶりでフィルムに映った赤い戦闘兵器の奮闘振りを解析した。

近くにいた中学生くらいの男の子と小学生くらいの女の子はほおっと感嘆の息を漏らす。

「でも何故使徒があんなところに…」

黒髪の女性が首をかしげた。

「輸送中の弐号機を狙った…とも考えられるわね」

リツコは冷淡にそう言うとネルフ印のマグカップにはいったコーヒーを一口した。

「その弐号機は」

「第五ケージに冷却保管中よ、アスカは今日から日本の学校に通う事になったらしいわ」

「すごいなあ、なんて見事な戦闘振り、惚れなおしたよ、もう僕の心は君のものさ、マイハニー」

シンジはうっとりしながらフィルムに映る赤い弐号機を見つめた。

この中には僕の
僕のアスカさんが…、

数日前からずっとこの調子だ。

「ああ、アスカさん、君の戦う姿はなんて美しくてセクシー(?)で素敵なんだ、やっぱりアスカさんって素敵な人なんだろうな」

シンジの瞳の先はすでに妄想LAS世界へと向けられている。

ミサトは黙って二人を見つめた。

片方は妄想少年、片方はの〜てんき少女。

どっちも真人間とは言いがたかった。

「まあ、あんたらの中じゃ一番まともじゃないかしら」

「どう言う意味ですか?それ」

ミサトのセリフにシンジは少しむっとした。

「僕はただ真実の愛を語ってるだけなのに」

それが変だと言うのよ。

ミサトはシンジに少し同情した。

ここに誘拐…いや連れてきた時はそれはそれは良い子ちゃんだったのに、おかしな大人(特に碇司令)に害されちゃったのね…

「ミサトさん、ミサトさん、なに泣いてるんですか?おーい」

ミサトは何も答えない。

弁慶の様に突っ立ちながらはらはらと涙を流していた。



「ねえ、ねえ、お兄ちゃん、さっきの話しなんだけどさ」

帰る途中レイはシンジのズボンの裾を引っ張った。

「えっ?
僕のアスカさんがど〜かしたの?」

「お兄ちゃん…そんな事誰も聞いてないよ、あのね、今日学校でさ」

レイの通う第三東京市立第壱小学校はシンジ達が住むマンションから歩いて三十分ぐらいのところにあった。

「今日さ、転校生が来たの」

「へえ、転校生がね」

シンジもこないだ新しい中学校に転校した。

もともと内気な性格なので友達が出来るか心配したがなんとか友達もできた。

「その子がどうかしたのか?」

「それがね」

レイは思いっきり空気を吸い込むと近所迷惑にも関らずに大声で叫んだ。

すっごく変な子なの!!

「ああ…、アスカさん、結婚してくれ〜」

いくら変な子でもお兄ちゃんには負けるわね。

レイは目の前でよだれをたらしながらへらへら笑ってる少年を見て素直にそう思った。



「みんな!今日はこのクラスの新しい仲間を紹介するぞ」

青葉シゲル、もとネルフの職員だった男であるが、親友のはずだった同僚、日向マコトに上司の下着を盗んだと言う濡れ衣を着せられネルフをクビになり職を転々としているところを親戚である第壱小の校長に拾われて現在三年二組の担任をしていた。

大学の頃、教師としての免許は取得してあり元来子供好きの性格で今やネルフ時代の影の薄い生活よりもこっちの方に彼なりに生きがいを感じていた。

「さあて、転校生はどこのどいつのドイツ人!?と言うわけでご入場オオオオ!!」

ジャカジャカジャカ…!!

青葉先生はギターを鳴らした。

いつの間にか青葉先生の手にはマイクが握られている。

「ウェルカム!3年2組へ、転校生!!惣流=アスカ=ラングレーちゃん!!」

ドアが勢いよく開かれ一人の少女がツカツカと入ってきた。

赤毛に見える蜜色の金髪をした活発そうな雰囲気の少女が入ってくる。

キリッと引きしまった顔と勝気な青い瞳が子供らしからぬ印象を与え、可愛いとも美人とも言える美少女だ。

少女は教壇に立つとに立つと自分の名前を筆記体で黒板に書いた。

そして振りかえると睨みつけるように周囲を見まわした。

「あたしはアスカ、惣流=アスカ=ラングレー」

負けん気溢れる口調で続けた。

「このクラスのbPは誰?」

「bP?」

「このクラスの大食いbPはトウジだよなあ?」

「変態bPはケンスケ君だよ?」

「なに言うとんねん、お前ら」

後ろの席に座っていた黒いジャージを着ているやんちゃっぽい男の子が立ち上がった。

「このクラスのbPゆーたらイインチョやないけ」

「そうか、洞木さんだ」

「あの…私が学級委員の洞木ヒカリだけど」

「そうあんたがbPね」

びしっ!!アスカはヒカリと言う少女に人差し指を突きつけた。

「悪いけど今日からあたしがこのクラスのトップに立つわ!」

「へ?」

「だから今日からこのあたしがbPなのよ〜」

すげ〜転校生がきたもんだぜ〜

クラスからどよめきが走る。

なんか知らないが眼鏡をかけた少年がパシャパシャと二人の顔を写真に撮っていた。

「残念だけど学級委員はみんなから任されているの、だからただで譲るわけにはいかないわ」

別にただみんなから押し付けられただけなのだが…

しかしここは3年2組のウルトラの母。

そう簡単に譲れるはずがない。

「そう、どうしても譲れないって言うのね」

アスカはゆらりと構えを取った。

「ええ、たとえ私の命に代えたとしても」

ヒカリは掃除用ロッカーからほうきを取り出した。

アスカは幼少の頃よりエヴァパイロットになるために世界各国の格闘技を体得してきた。

だがヒカリはトウジを始めとするこのクラスの荒くれどもをほうき一本で仕切ってきた実力を持っている。

こいつは血を見る事になるぜ…

ケンスケは震える手でカメラを構えた。

シャッターチャンスは見逃さない主義なのだ。

「ちょっとまったぜ、レディ達」

割って入ったのが我ら青葉先生だった。

何故か眼帯をしてピンク色のジャケットを着ている。

「先生、しかし…!」

「洞木君、このクラスのルールに従いたまえ」

「ルール?」

「さあて皆さんお待ちかね…」

青葉先生はジャケットと眼帯に手をやった。

「次の時間は家庭科と言う事で、『マヤちゃん、俺にずっと味噌汁を作っておくれ、美味いもん食いたい学級委員長リコールファイト』!!レディー…」

一気に眼帯とジャケットを引っぺがす。

「GO!!」

ネーミングの意味が不可解だが用は料理勝負である。

「ふん、望むところよ」

アスカは拳を握り締めた。

「あんたらにあたしの実力、みせてあげるわ!!」

にやり。

ヒカリちゃんは心の中で冷やかに笑った。



「で、どうなったの?その子」

「負けちゃった、アスカちゃんの作る味噌汁ったらもうしょっぱいったらもう」

レイはうえ〜と舌を出した。

食い意地張って審査員なんかになるんじゃなかった、先に食べたヒカリの味噌汁はともかくアスカのはもう健康にも舌にも悪い味をしていた。

「まあ、ヒカリちゃんに料理で勝とうなんて無理な話しなんだけどね〜、毎日家族のご飯作ってんだもん」

「世の中には似たような環境の人っているもんだな」

葛城家に来てからというものシンジは毎日のようにたたき起こされ、朝ごはんから弁当、夕飯を作らされていた。

さすがに初めの頃は卵を破裂させたり、ご飯を洗剤で洗ったりと問題はあったが、なんとか人並みに料理が作れる段階へと進むことに成功した。

しかし、それには血のにじむような苦労があったのである。

その苦労を小学三年生がしているとなると…

「苦労したんだね、苦労したんだね」

「なに泣いてんの?でも彼女、すっごく負けず嫌いなんだよ、こんな材料で料理なんか作れるわけないじゃない、明日に勝負は預けとくって」

「なんかすげーいい訳だな」

「落ち込んでたから元気出してって声をかけたら彼女喜んで、今度秘密であたしの愛機に一緒に乗せてあげるわだって、変な子だよねえ」

「う〜む、そう言えば、アスカってセカンドチルドレンのアスカさんと同じ名前だよね」

「あ、そうだったけ」

レイはぽんっと手を打つ。

「どう言う事だろう…あっそうか」

「何かわかったの?」

「いや、べつに同じ名前の人なんて星の数ほどいるわな」

「…答えになってないよ、全然」

アッポンタンな会話をしているうちに部屋の前までたどり着いた。

「あれ、カギが開いてる」

「ミサトお姉ちゃんが帰ったんじゃないの」

ガチャリ…

ドアが開かれた。

「やっと帰ってきたわね!!ファーストにサード!!」

「……?」

シンジはキョロキョロとあたりを見まわしたした。

声だけがして肝心の姿が見当たらない。

「あたしの名前はアスカ、セカンドチルドレンよ」

強気な声がどこからともなく聞こえてくる。

「あ…アスカさん!?どこですか?」

愛しのアスカと聞いて歓喜するシンジ。

だが、視野には依然として該当者の姿が見当たらない。

「どこ見てんのよ、馬鹿!!あたしはここよ!」

足元を見ると小学三年生くらいの少女と目があった。

シンジはニッコリと微笑むと何事も見なかったように視線を元に戻した。

「どこにいるんだ〜、アスカさ〜ん」

「だからあたしはここだってばぁ」

無視されたアスカは足元で必死に叫ぶ。

声にはさっきまでの余裕がなくなっていた。

「だから…あたしを…見てぇ」

アスカちゃんのお目目にうじゅ〜っと涙が溜まる。

洪水警報発生!!

うわあああああああああんん!!

足元のお子様は大声で泣き出した。

「アスカちゃん!」

レイちゃんは慌てて泣いているアスカちゃんに駆け寄った。

「うわ〜ん、レイ、あたしいじめられちゃったよぉ…」

「ちょっと、お兄ちゃん!!」

レイはキッと赤い瞳でシンジをにらみつけた。

その冷たいまなざしにシンジはビクッとする。

「ちょっと!今のは酷いんじゃないの?アスカちゃんを無視するなんて」

「うぐ、えっぐ、ママ〜」

アスカはレイのぺったんこの胸にすがりつく。

「もう大丈夫よアスカちゃん」

レイは微笑みながらアスカの髪を優しく撫でつける。

シンジは素直に頭を下げた。

「ご…ごめん」

「まったく、アスカちゃんはいつもは強気に振舞ってるけどほんとはすっごく繊細なんだから気をつけてよね」

「で…、でも、セカンドチルドレンのアスカさんはどこに」

「あたしの事だってばあ〜」

アスカは涙を溜めながらぷーっと膨れる。

「あら、お帰り、シンちゃん、レイちゃん」

「ミサトさん」

一応この家の主になっている女性が寝癖がついた頭をかきながらのそりと玄関にやって来た。

「夜勤明けでさっきまで寝てたのよぉ…ふぁ〜あ、寝みゅい、寝みゅい…」

「へえ、ミサトさんって働いてたんですね」

すっごく感心した口調で頷くシンジ。

そんなシンジをミサトはジト目で睨んだ。

「それは一体どう言う意味かしら!?」

「ご…ごめんなさい」

あまりの気迫にシンジは縮こまった。

「まったく」

ミサトはふうっと息をつくと再びいつもの笑顔に戻った。

そしてアスカの肩をつかむとシンジとレイの方を向いて紹介した。

「紹介するわ、惣流=アスカ=ラングレーさん、今日から弐号機で参戦してくれます、ここで一緒に暮らす事になるから仲良くしてあげてね」

「わぁ、アスカちゃんもエヴァに乗るんだ〜」

「レイこそ、ファーストチルドレンだって何で言ってくれなかったのよ〜」

二人のお子様はわいわいと語り出す。

とっても仲良しな二人の中で一人の少年は口をあんぐりと空けた。

「ど…どしたのシンちゃん」

ミサトは心配そうに声をかける。

「あ…アスカって子供だったの?」

「そりゃチルドレンだもん、当然でしょ?」

「そうじゃなくて、何で筒型のお子様なんだよ!!」

シンジはウワッと泣き出した。

「僕は僕は僕は…
僕は!!



『シンジ、お・ま・た・せ、上がったわよん(
はあと)』

『わあ〜っ!!』

シンジが驚くのは無理はない。

何故なら風呂上りでバスタオル一枚のアスカが目の前にいるのである。

『なんなんだよその格好は!?』

慌てるシンジにアスカはウフッと小悪魔的な笑みを浮かべた。

『どお?あたしのボディ』

『さっきは散々覗くなって言ってたじゃないか〜!』

『興味ないみたいな事いわれると結構傷つくのよね』

『興味ないなんて…そんな』

『あたし、けっこう胸大きいんだヨ、どお?ナマも見てみる?』

アスカはシンジに胸を見せつけるようなポーズを取った。

『あ…アスカっ!!』

たまらずシンジはアスカをベットに押し倒す。

『ちょ…ちょっとシンジっ!!』

『アスカが悪いんだからな!アスカが僕に見せつけるから…』

『シンジ…、もうっ!明日だって早いのに、あんたのせいで寝過ごしたら思いっきり馬鹿にしてやるんだからね!』

二人の唇がゆっくりと重なる。

そして二人は神話になった。



「ってな展開は一体どこにいったんだ!!」

「シンジ君って…」

この世の終わりの様に叫ぶシンジをミサトはあきれ果てたように見つめた。

「ミサトさん」

シンジは拳を握りしめた。

目からは滝のような涙を流していた。

その様子は言うならば
修羅

バックには炎が燃え盛ってそうな光景だった。

「僕は、僕は、
アスカに乗るためにエヴァパイロットになったんですよ!それをそれをあんまりだよ…」

シンジはその場で膝をついた。

このままではL(ロリコン)A(アスカ)S(シンジ)になっても神聖なL(ラブ)A(アスカ)S(シンジ)にはならなかった。

「シンジ君って大人しそうな顔して意外とはっきりしてるのね、そうゆうこと」

「いやあああん!!不潔よおおおおおお!!」

その時、玄関からこの世のものとは思えぬ絶叫が響いた。

「あの声は」

見ればそこにはあのおさげの女の子とそのお供二名がいた。

絶叫を上げているアレは宿命のライバル洞木ヒカリ、アスカの眉がピンッと釣り上がった。

「ちょっと、何しに来たのよ、あんた、はっ、もしかして偵察!?」

「ふっ、私はそんなちゃちな真似はしないわ、先週配り損ねたレイのプリントを届けに来ただけよ、まあ、なんであなたがここにいるかは知らないけど」

「…へえ、取り巻きのジャージと変態連れてきて白を切るつもり?」

「いや、ワイら関係あらへんから気にせんといてや」

トウジは苦笑いしながら手を振った。

そんなトウジにケンスケが泣きながら抱きついてきた。

「トウジ〜、あのアカゲザルが僕の事変態って呼んだよ〜!慰めてぇ」

「そりゃほんとの事やろが!離さんかい!!」

トウジの鍛えぬかれた裏拳でケンスケは床に沈む。

床で悶えながらニヤニヤしているケンスケにミサトはぞっと来るものを感じた。

「……この子ちょっと怖い」

「じゃあ…私はこれで」

「待って!」

帰ろうとしていたヒカリをレイが呼びとめた。

「レイ?」

「実はねアスカちゃんが料理してくれるんだ、食べていってよ」

「レイ、何を?」

慌てるアスカの唇をレイは人差し指で塞いだ。

大丈夫、お兄ちゃんが教えてくれるからきっとうまくいくよ

レイはウインクした。

もともと負けず嫌いなアスカだ。

ここで退き下がれるわけがない。

「…そうよ!本番前だけど…せっかくだから食べさせてあげるわ!」

精一杯強気に見せたが内心震えてた。

ここで負けたら、きっと泣き出しちゃう。

特にヒカリの前ではそんな無様な姿見せたくなかった。

「そうね、せっかくだから、食べていくわ惣流さん」

バチバチ!!

二人の間に火花が散った。



ここは葛城家のキッチン。

普段は、拉致され父に裏切られた挙句、飲んだくれの上司に日夜酷使されているというとても気の毒な少年しか使わないキッチンに今日は珍しく女の子が立っていた。

その手にはよく研ぎ澄まされた刃が握られている。

そして目の前には…斬らねばならぬモノがいた。

少女は黙って刃を振り上げる。

そいつはちび○○子ちゃんに出てくる奴によく似てたと後に目撃者は語る。

「アスカいくわよ!!」

振り上げる瞬間アスカは目をつぶった。

ザシュ!!

長○君は真っ二つに両断された。

「どって事ない敵だったわね」

つかの間の勝利に酔いしれるアスカ、だが戦いに代償は付き物だった。

「な…なにこれ…涙がでる…ハッもしかして精神攻撃!?」

「タマネギ切ったらそりゃ目にしみるって」

後ろにいた少年はタオルで優しくアスカの涙をぬぐった。

「なによあんた、手だし無用よ、邪魔しないで」

「そう言うわけにはいかないよ、危なっかしくて見てらんないって」

「子供扱いしないでよ!!」

「タマネギ切るのにこんなに苦労している人を大人扱いできないよ」

シンジはそう言うとアスカの手を取ってタマネギを刻んだ。

見事な包丁捌きである。

「あっ…」

アスカの顔は真っ赤だった。

シンジに手をにぎられている。

それだけで心臓が高鳴っていた。

こんな事初めてだ。

「こ…、こんなことくらい簡単よ」

「そう?じゃあ、一人でやってみようか?こんどはニンジンで」

シンジはアスカの手を離した。

「こうするんでしょ?」

「おっ、結構筋がいいじゃん」

「当然でしょ?あたしは天才だもん、こんな事くらい…」

ブシ…

やな沈黙だった。

「痛いよおお〜」

手の甲を浅く切ってアスカは泣き出した。

「はあ」

シンジはため息をつくとこんな事もあろうかと用意してた救急箱から熊さんのバンソウコウと消毒液を取り出した。



「今度はご飯を洗って」

「よ〜し、洗うわよ」

「…なにこれ」

シンジはアスカの持ってきたモノを見つめた。

エビチュビール。

「なにこれ」

「ミサトがね、これいれてご飯を洗うとおいしくなるから是非いれちゃいなさいってくれたのよ」

「嘘だよ、未成年が六人もいるのに入れる訳ないだろ?」

「ミサト〜、あたしを騙したわね〜」

ギロリ!

アスカは冷蔵庫の陰で密かに見守る女軍人を睨みつけた。



「さてと次はいよいよお肉ね」

アスカは腕をまくった。

「いいか?切る時はくれぐれも気をつけろよ」

「もう、シンジったら心配性なんだから、ちゃんとひとりでできるんだからごちゃごちゃ言わないでよ」

アスカは口を尖らせると冷蔵庫から肉を取り出した。

「今日はチキンカレーね、ドイツで食べたボ○カレーの味を思い出す…ちょっとあんた食材の癖に暴れないでよ」

「アスカ!!」

「何?ちょっと手伝ってよ、このチキン暴れるのよ、この!カーネルおじさんに言いつけるわよ!!」

「クエエエエエ!!」

チキン(?)は悲鳴を上げ必死に抵抗した。

「駄目だ、アスカ夕飯のチキンはこっちだ」

シンジは鶏肉のパックを渡した。

当然パックに入った鶏肉が暴れるわけがない。

「え〜、これ食料じゃないの?」

まな板の上のペンギンを持ち上げながらアスカは頬を膨らました。

ペンギンはいい迷惑とばかりにアスカを睨みつけた。

「いや食料なんだろうけど、ミサトさんが言うにはそれは非常食だから食べちゃ駄目なんだってさ」

「へえ、そうなんだ」

「クエエエエエエエ!?」

それじゃあ僕はみなさまのお腹を満たすための食料に過ぎないの?

影の主役ペンペンはあまりの扱いの悪さに涙を流した。



テーブルにカレーが並べられた。

「うまそ〜なにおいやな」

トウジはよだれをたらした。

学習能力などないに等しい彼の頭には今日食べた味噌汁の味などとうにデリートされていた。

ただ目の前の美味そうな現実を受け入れるだけである。

「ほんとだ、けど、君のにおいの方がも〜っとおいしそうさ」

「気色悪い事ぬかすなや!ボケっ!」

トウジに殴られてケンスケは床に叩き付けられるが何事もなかったかのようにトウジによじ登ってきた。

「げへへへへ、と〜じィ」

「うわ!登ってくんなやこの変態」

「…男同士で不潔」

「ま…まあ、仕方ないよ、あの二人は幼稚園からこうだし」

「さ…最近の小学校は進んでるのね」

「はあはあ…、トウジィ(
はあと)」

「いややっ!ワイはまだいけない世界の住人にはなりとうないんや〜!」

いつもにまして騒がしい葛城家の食卓。

だがその混沌の世界を制すべく一人の少女が立ちあがったのだ。

バン!!

「静かにしなさい!!」

アスカは机を叩き周囲を黙らせた。

そして腰に手を当てゆっくりヒカリを睨みつけるとこう呟いた。

「さあ、食べてみなさい」

「う…うん」

ヒカリはスプーンでカレーをすくう。

ドキドキ…

これで不味いなんて言われたらどうしよう〜、明日から学校に行けないよぉ。

アスカは内心不安だった。

だが…

近くにいるシンジの顔を見るたびに自信を取り戻していくのだった。

そうだよね、シンジが教えてくれたんだもん、不味いわけないよね…、自信を持つのよアスカ!!

「あっ…」

ヒカリはスプーンを落した。

アスカに緊張が走る。

「どうしたの?」

レイがヒカリに尋ねた。

ヒカリは嗚咽しながらこう言った。

「しくしく…シンジさんの…髪の毛が…」

確かにカレー皿にはシンジの髪が一本入っていた。

「…かわいそうに」

「委員長〜!!そんなに僕の髪が嫌か〜!?」

シンジは自分のカレーとヒカリのカレーを交換した。

「これで文句ないだろ?」

「く…口つけてませんよね?」

「つけてないよ!」

シンジは怒鳴った。

いいなあ…ヒカリ。

アスカは少しだけシンジの髪の毛いりカレーが食べたかった。

「そうですか…じゃあいただきます」

ヒカリはゆっくりとカレーを口に運んだ。

「ど…どう?」

「おいしい」

ヒカリは微笑んだ。

「おいしいよ、アスカ」

「や…やった」

アスカは涙がぽろっと出るのをこらえるとまだ無い胸を張って自慢げに叫んだ。

「えっへん!どう?これがあたしの真の実力よ、あしたの試合せいぜい楽しみにしてる事ね」

ヒカリは首を振った。

「もう、いいのよ、委員長、あなたに譲るわ」

「えっ、どうして!?」

「だって」

ヒカリはアスカの手に貼られているバンソウコウを指差した。

「だって、惣流さんはがんばったんだもん、あなたには十分資格があるわ」

アスカはヒカリの頭をぺちんと叩いた。

「あんただけ良いカッコしないでよね、あたし今思い出したんでけど実はいろいろと忙しいの、だからクラスのガキンチョどもにかまってる暇なんてないわ、だから、ヒカリ、三年二組の学級委員はあなたが適任よ、ま、もちろんあたしがbPだけどね」

「惣流さん」

二人は手を取り合った。

「これからずっと仲良しだよ」

「あ…あんたがそこまで言うなら友達になってあげても良いわよ、けど、惣流なんて呼ばないでアスカって呼んでよね、あたしは友達とはなんでも平等にいきたいのよ」

ヒカリはニッコリと笑うと少しはにかむような素振りを見せながら

「アスカ」

「なあに、ヒカリ」

二人はふふっと笑いあった。

さっきまで仲が悪かった二人が手を取り合う光景。

「ええ話しやな、ええ話しやな、これからは仲ようしていこうなぁ、うんうん」

レイは涙を流しながらその光景を見守っていた。

何故か大阪弁である。



「美味いなあ、このカレー」

「フ、キャンプでならしている僕ならもっと美味いものが作れるよ、今度食べにこないかい?」

「それはいいけど…、まさかカレーに睡眠薬を盛るとか言うんちゃうやろな?」

そんなわけあらへんかとトウジは笑った。

だがケンスケは…

眼鏡を光らせながらにやにやと危ない笑みを浮かべているだけだった。



「まったく、シンちゃん」

「なんですか?ミサトさん」

「なんだじゃないでしょう?なんで私にも手伝わせてくれなかったの?カレーは私の得意料理なのよん?」

「っていうか、ミサトさんって料理できたんですか?」

シンジはミサトに思いっきり頬をつねられた。

「ひい〜!ごめんなさ〜い」

「ふんだ、いいわ、今度私の奥義『ミサトカレー』をとくと食らわせたげるから、言っとくけど目玉がぶっ飛ぶくらいおいしいわよん」

自信まんまんにいうミサト。

「へえ、楽しみだなあ」

シンジはうれしそうに顔をほころばせた。

年増と言えど独身女性の美女に美味いカレーを作ってもらえる。

それだけで彼はうれしかった。

「お兄ちゃん」

舌なめずりをしている最中にレイが珍しく暗い顔しながらシンジの肩を叩いた。

「どうした?レイ」

「ちょっと、お話があるの…とお〜っても大切な…葛城流奥義ミサトカレーの基礎知識についてよ、知らなきゃ…大惨事は避けられないわ」

レイはごくりと固唾を飲んだ。

そこから伝えられる情報は門外不出…

だが一つ言える事は奥義を食らわされて五体満足で生きていたのは彼女の師である東方腐敗だけだった。



おまけ

「波乱に満ちた船旅でしたよ」

男はアタッシュケースをゆっくりと開けた。

あたりは趣味が悪い…薄暗い部屋だ。

特に目の前の男、碇ゲンドウは男もイケると言う噂がある変態。

気を抜けば…俺もいけない世界の住人だ。

実は噂の変態機関ネルフを調べにきたスパイである彼は背中に強張るものを感じていた。

「まさか海の上で使徒に出くわすとはね、やはり…これのせいですか?」

俺が恐怖を感じるとはな…

俺はこの男、碇ゲンドウを恐れているというのか?

馬鹿な…、この男じゃない、この…運んできたものに恐怖を感じているのだ。

「……計画の要ですね?」

「そうだ」

ゲンドウはにやりと笑うとそれを受け取った。

それはドイツ制の非常にイケナイビデオだった。

加持は手が震えるのを感じた。

こいつはマジ…レアもんだぜ…ゴクリっ

「長旅ご苦労だった、しばらく滞在していきたまえ」

「ちょ…ちょっと待ってください」

「なんだね、もしかして、見たいのかね?」

「は…ハイッす」

加持と言う漢の血が騒いだ。

ゲンドウはにやりと笑った。

「ただではやらん」

「なら…給料前借で」

「金など欲しくない、君がスパイだと言う事ももう周知の事実だ、本来ならリツコ君の実験室行きになるところだが、どうだネルフのスパイとしてゼーレを調べる気にならんか?退きうけてくれたら…このビデオをダビングして…十万で売ってやる」

「おうせのままに」

加持リョウジ…諜報部のジゴロ。

ネルフの偵察未然のうちに失敗。

そしてイケナイビデオにつられ…碇ゲンドウの犬となった。



後書き

幻都:またまたまたやってしまいました〜!

しかも今回で変態が増えたし。(色物ばかり増やさないってきめたばかりなのに)

けど、なんか加持さんってーのは私のなかではこ〜ゆ〜キャラだし、ケンスケは…見たまんまの変態です(この小説では若干ホモが入ったけど)

けど何より変なのはシンジですかね、このシンジはきっと宇宙人かリツコさんに改造されたのかもしれません(笑)

このシンジ君は原作のアスカ様だろうが

EVACHANGEのアスカちゃんだろうが…

死ぬ気で張り倒して愛を語っちゃいます。

特にエヴァ学なんて両親が許しているだけにもう…、マナが転校してくる前に子供がいるかもしれませんね(笑)

こんなシンジ君に気をつけましょう。

最後にシンジ君どうぞ。

シンジ:アスカに乗せてくれないなんて一体なんのためのネルフだ!?責任者呼んで来い!!


 幻都さんからSSを頂きました(^▽^)ありがとうございます〜
 
 華麗にガギエルを殲滅したアスカちゃんのフィルムを見たシンジ君はもうアスカちゃんにラヴです(まだアスカちゃんが小さい事をしらない^^)

 そしてレイちゃんの通う小学校に転校してきたのがアスカちゃんですね、早速No1を宣言するアスカちゃん、しかしクラスのNo1?は委員長のヒカリちゃん、何故か担任のマコトによって勝負は料理対決、結果は・・・料理の鉄人ヒカリちゃんの圧勝でしたね。

 アスカちゃんと会ったシンジ君、またもや裏切られましたね(笑)夢であってくれと想像したアスカちゃんを探すシンジ君にアスカちゃん泣き出してしまいましたね。そんなアスカちゃんをなぐさめるレイちゃん仲良しですね。

 リベンジ料理対決の前のアスカちゃんのカレー、上手にできましたね(ペンペン危なかった〜〜^^:)そしてヒカリちゃんとも仲良くなって良かったですね。

 加持が運んでいたものは・・・ひげは何を考えているのでしょうね(流石司令)

 格キャラ個性が出ていてまともなのはレイちゃんとアスカちゃんくらいでしょうね(笑)

 LASの意味は一つではなかったんですねと感想を送りましょうね。

 とっても素敵なSSをくださった
幻都さんに皆さん感想を送りましょう。

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 第壱話 初号機妄想!? 第参話 お正月なの

投稿:少年よ珍話になれ 第弐話 ひとりでできるもん!!