少年よ珍話になれ

エンド・オブ・葛城家

〜DEATH編〜

Made by 幻都





赤…

少年の目の前に赤い色をした液体が広がっていた。

人間が生きていくことに欠かす事が出来ない成分が全て含まれている血液によく似たその液体を少年は生命のスープと呼んでいた。

少年はマグカップに入ったスープをしばらくマジマジと見詰めるとゆっくりと口に運んだ。

口に広がるのは塩辛い鉄分の味。

臭いも味もまさに血液そのもので当然美味くない。

思わずむせ返るくらい気持ち悪い食感だった。

しかし食べ物が潰えたここにはこれを飲むしか栄養を摂取する手段はない。

少年は鼻を摘んで再びスープに口をつけた。

今日で何日目だろう。

こうやって空腹を満たすのは…

シンジはため息をついた。





「ウエ〜、こんなもん人間が食べるもんじゃないわよ!!」

ドン!!

アスカはLCLの入ったマグカップをテーブルに叩きつけた。

朝の平和な葛城家。

いつもは主夫が作った朝食が並んでいるいるはずのテーブルにはLCLと呼ばれる液体が入ったマグカップが人数分並んでいた。

「そ〜よ、これは人間が飲むもんじゃないわ、人間様はビールを飲まなきゃね」

妙な事をいうとミサトは冷蔵庫に手をかけた。

「ありませんよ」

シンジは厳しい口調で言った。

「誰のせいでこんなことになったと思ってるんですか!?」

「さあ〜、誰のせ〜だったかしらねえ」

鼻歌を歌いながらあくまですっとぼけるミサトに

シンジは本気で怒りを覚えた。

プルプルと握り締めた拳が震える。

「忘れたとは言わせませんよ!あれは三日前!」



そう…

それはさかのぼる事三日間前のこと…

シンジはいつもの様に台所でニラを刻んでいた。

今日はアスカが好きなハンバーグである。

だがレイは肉が食べられないので変わりに餃子も作らなければならない。

レイとアスカは食べ物の趣味が正反対だから葛城家の主夫はその事も頭にいれてなければ勤まらないのだ。

レイはなんで肉が嫌いなんだろうな〜、ハンバーグなら食べてくれると思ったんだけどなあ。

何故かレイは肉と言う肉を絶対食べようとしない。

その点ミサトは何でもよく食べるので問題はないが彼女は味オンチなので何を食わせても美味いと言う。

だから賞味期限が危ないものは全てミサトに食べさせている。

こないだなんて冷蔵庫の裏で四、五年前の卵が発掘されたがミサトはそれを見るなりそのままご飯にかけて食べてしまった。

もちろん彼女はぴんぴんしている。

彼女の腹は恐らくATフィールドで守られているのだろう。

シンジはその時初めて上司の偉大さがわかった気がした。

「シンジ君」

噂をすればなんとやらだ。

後ろからミサトの声をかけてきた。

その声は心なしか元気がない様な気がした。

「ミサトさん?帰ってたんですか?今日は早いですね」

「シンジ君、実はね、言いたい事があるの」

「どうしたんですか改まって」

シンジはミサトのほうに振りかえった。

ミサトはうつむきながら何やらもじもじしていた。

「ど〜したんですか?ミサトさん?」

「驚かない?」

「へ?」

「いいから驚かないかって聞いてるの!」

「……」

ミサトの口調は強かった。

眼光もいつものらりんとしている同居人とは違う光を放っている。

ただ事じゃなさそうだ。

シンジは内心不安を抱えながらも男らしく胸を叩いた。

「大丈夫です、父さんの顔を初めて見たときから何があっても驚かないって決めてましたから」

「…そう」

ミサトはふうっとため息をついた。

シンジはゴクリと唾を飲み込む。

これから何が起きても慌てずに逃げ道だけは確保しておこうと心に誓った。

「実はね…」

突然ミサトは笑い出した。

「ハハハハハ〜!競馬で負けちゃったのよう」

「ははは、な〜んだそんな事、ミサトサンらしいや」

シンジも笑った。

とても和やか時間だった。

「しかもお笑いよ〜、全財産すられちゃったったの、これが笑わずにいられますかって」

「アハハハハハ、マヌケ〜、これで僕らは一文無しって…」

シンジは頬を引きつらせながら包丁を握り締めた。

「今なんと?」

その表情は恐ろしく百戦錬磨のミサトが反射的に土下座をするくらいだった。

「ひい〜、ごめんなさい、ダービーの悪魔が私を唆したのよ〜」

その次の朝から葛城家で極貧生活が始まった。

食事は全てLCL。

ジオフロントでは無料で手に入るので四人は吐き気をこらえながら朝昼晩とコップ一杯のLCLを飲み干してきた。

給料日まであと半ヶ月、その間彼等は絶えねばならなかったのだ。



「うう…まずいよお」

アスカは一口、口にする度に涙がにじんできた。

だがそれはレイも同じである。

「え〜ん、私、生臭いものだいっ嫌いなのにィ〜」

これは幼い二人には耐えがたい仕打ちである。

そしてそれを我慢をできるほど彼女達は大人じゃなかった。

二人はマグカップを置くとお行儀悪くテーブルの上に立ちあがった。

「ハンバーグが食べたいよォ!」

「ニンニクライスが食べた〜い」

二人は一家の主であるシンジ相手にデモを起こした。

だが今日ばかりはシンジも引き下がってない。

「馬鹿言うな!うちにそんなお金ありません!」

「でもこんなの食べ物じゃないじゃない!」

「そんなこと言ってたらEOE後の世界で生きていけないよ!?」

「意味わかんないわよ!」

アスカは地団を踏みながら怒鳴った。

やれやれ我侭だな。

シンジは首を振った。

こうなったら年長者らしく手本を見せるか。

「まあ、お兄ちゃんをよく見ておいて」

シンジはマグカップを掴むとためらわずにそのまま一気にLCLを口に流し込んだ。

実に男らしい飲みっぷりである。

「おお〜」

三人は拍手した。

「ふっ」

つかの間の勝利を味わったシンジだったが…やせ我慢の付けが回るのは残酷なまでに早かった。

「うぷっ!」

シンジは口を押さえながらトイレに駆け込んだ。

ジャ〜!

シンジは青い顔をしながらトイレから出てきた。

「生きるって言うのは戦いなんだ」

「……こんなもの人が飲むもんじゃないわ」

レイは鼻を摘まみながらながらLCLの味を堪能した。

いつもながら思うがこんなものが充満しているエントリープラグでよく我慢しているものである。

私って偉いかも…

レイは自分を誉めてやりたかった。

「うう…気持ち悪い…」

アスカも辛そうだ。

「ほら、グイッと飲めアスカ!」

シンジは今日ばかりは地獄に急き立てる鬼だった。

何故ならばアスカとレイは学校では人間様の飯にありつけるからである。

その事でシンジは彼女達に羨望を抱いたのだ。

「そりゃお前達は良いよな!小学校じゃ給食が出るんだからな、けど僕とミサトさんは昼ご飯もこれ飲み続けなきゃいけないんだぞ」

「そ〜よそ〜よ」

二人とも涙を流した。

「ああ、ここにカレールーとお米さえあればカレーを作ってあげられるのに」

ミサトは残念そうにため息をついた。

レイは思った。

そんなもの食わされるくらいなら一生LCLを飲んでいたほうがまだマシである。

誰だって命は惜しいから。

「そうだわ!」

ミサトはポンッと手を叩いた。

「あんたたちそういえばリツコから一人十万ずつお年玉をもらったわね、今こそ使うときよ」

レイは首を振った。

「私、お母さんに貯金してもらったの」

「リツコに?う〜ん」

しっかり者のリツコの事だ、ちゃんとした理由が無ければお金をおろしてはくれないだろう。

ならば今の現状を正直言えばいいのか?

いや駄目だ、今の状況がリツコの耳に入ればどうなるかと言う事ぐらいアルコールで擦り減ってきたミサトの脳みそでもわかった。

レイと科学に命をかける狂科学者だ。

この失態が知れれば、リツコが自分の×××に○○○して終いに△△△されてしまうかもしれない。

そう言う女だ。

ミサトは顔を青ざめた。

「レイも貯金したのね、実はあたしも加持さんに貯金してもらってるのよ、大人って感じだね」

アスカは胸を張って言う。

二度とそのお金は戻っては来ないわね。

ミサトは確信を持ってそう思った。

加持は今ごろその十万を持ってパチンコに精を出しているだろう。

「じゃあシンちゃんは?」

ドキッ!

シンジの心臓が跳ね上がった。

「シンちゃん」

「そ…そんなんすでに食費とかに投入しました、この家には大飯食らいがいるんですからね」

「なにそれ〜、しつれーしちゃうわね」

「ははははは、すいません、ははは」

シンジはごまかし笑いをした。

だが、その時レイが取り出したそれを見ておもわず声を上げた。

「あっ!?」

「これ、さっきペンペンがくわえていたんだけど、なんだろう?」

それはビデオテープだった。

シンジは焦った。

たしかベットの下に隠しておいたはずなのに…

「なになに…?<
ゲルマン妖精狩り>なんかパッケージからして凄い内容みたいね…」

ミサトはふふんと鼻で笑った。

「何々ドイツ製?吹き替えじゃないわね…、まあシンちゃんもオトコッて事かしらん」

「な…なにを」

「シンちゃんの…なんでしょう?」

「ごめんなさい!」

シンジは土下座をした。

「か…加持さんから進められたんですぅ!ドイツ製のすっごいビデオあるから十万で買わないかって…最初は買う気じゃなかったんですけど話を聞いているうちについつい魔が囁いて」

「十万円でこんなの買っちゃうなんて…あんた馬鹿ぁ?」

「シンジお兄ちゃんのえっちィ〜!」

「まあまあそう言わないの、シンジ君だって男の子なんだから」

ミサトはビデオデッキにそのカセットをさし込んだ。

「ミミサトさん!?」

「みたくないの?」

「け…けどさすがにアスカ達の前では…」

けどシンジは内心嬉しかった。

レイとアスカのせいでなかなか見る機会が無かったのだ。

「うふふ、こ〜ゆ〜教育は早いうちからのほうが良いのよん、じゃあ始めるわよ」

再生のスイッチが入った。

シンジはわくわくしながら画面を見詰めた。









画面の向こうは浜辺だった。



太陽がさんさんと輝いており浜辺を照らしていた。



「アハハハハ」



「フフフフフ」



若い女の声が向こうで聞こえる。



こっちよ!ユイ



待ちなさいよオ、キョウコ



赤いハイレグを着た巨人を追いかける白いビキニ紫色の巨人。



あたりには地響きが響いた。



「もう二人とも子供ねえ」



後からやってきた水玉の水着を着た青い巨人はため息をついた。





エヴァ水着美人コンテスト





絶望的なタイトルが浮かび上がった。










「なんだこのビデオは!!」

シンジは悔しそうに畳に拳を叩きつけた。

そう、これこそゲンドウの企てたE計画の要である美人コンテストである。

通常の人間ではとてもついていけない世界だ。

「あ、弐号機が出てきたわ、やっぱりあたしの機体が一番よね」

「エヴァって私達の知らないところでいろんなことしてるのね」

二人は感嘆の声を上げた。

「感心するなー!」

シンジは叫んだ。

「ぼ…僕は、こんなものを望んでいたわけじゃないって言うかこのパッケージは一体なんなんだ!?」

「ここに書いてあるわよ、パッケージと内容は多少異なる事がありますって。」

「詐欺だよ、そんなん」

そう、第弐話でゲンドウから十万円でこのビデオを購入したが、その後この絶望的な内容を見てしまい仕方ないのでシンジに売りつけたのだ。

加持リョウジに騙されたのだ!!

シンジはキレた。

「裏切りやがった!青少年の気持ちを裏切りやがった!あの野郎!!」

涙を流しながら畳に拳を叩きつける。

「シンちゃん…」

「ハハハハハハハハハ!!」

シンジはいきなり笑い出だした。

まるで狂人のように大声で笑った。

「どいつもこいつも裏切りやがって、こ〜なったら僕も人を平気で裏切るような大人になってやる!」

「シンジお兄ちゃん!」

レイは心配そうに声をあげた。

「まずはこのビデオを三十万で売ってやる、あの明らかに変態って感じのケンスケ君なら買ってくれるだろう、幸い金もありそうだからな」

「駄目だよ、相田君は鈴原君ラヴだから買ってなんかくれないよ」

「じゃあ、あの明らかにスケベそ〜なトウジ君だ、奴に十五万で売りつけてやる」

「駄目、鈴原君ちはビデオデッキ自体が無いの!」

「なんてことだ」

シンジは床に崩れ落ちた。

「ああ…僕はなんて駄目な男なんだ」

「もう、いいじゃないのよ、裏切るなんてあんたらしくないじゃない」

アスカは励ます様にシンジの肩を叩いた。

そんなアスカを涙目でみながらシンジは言った。

「ねえ、アスカ」

「ん、なあに?」

「このビデオ、五万で買わない?」

「調子に乗るな!!」

アスカの一撃にシンジは撃沈した。



〜ビデオの続き〜









「私が一番美人よ」



「何いってんの!あんた馬鹿ぁ、私が一番でしょ」



「あんた達子供ねえ、はっ、あれはエヴァ量産型、完成してたの!?」



黄色いビキニをはいた量産型が次々に浜辺に降り立つ。



どうやら彼女達も参加するつもりらしい。



「はっ」



初号機は鼻で笑った。



「何かと思えばウナギじゃないの、こいつは腹ごなしにいいわね」



「そうそう、こいつらには映画で散々お世話になったしね…いつかこの手でお礼をしておこうと思ってたのよ」



弐号機はコキコキと腕を鳴らした。



殺気だつ二人にウナギどもはビクッとした。

「こいつらどうするの、キョウコ」



「せっかくだからいただいちゃいましょう」



だっ!



二人は地を蹴り九体の敵に飛びかかった。



(お食事中、グロ過ぎるため割愛)



「いくらS2機関で無限の再生能力があっても食ってしまえば問題ないわ!ムシャムシャ…」



「やっぱり夏場はウナギに限るわねユイ、モグモグ…」





















プツン…

テレビが消された。

「…気持ち悪い」

アスカは青い顔をしながらそうぼやいた。



キンコーンカーンコーン

四時間目の終了のベルが鳴り響いた。

「やったぁ!給食だぁ!!」

レイちゃん、アスカちゃんはうれしそうに叫んだ。

「どうしたんや、二人とも」

「三日振りの食事なのよ」

レイは笑顔で答えた。

トウジは驚いた。

「お前ら飯食わせてもらってないのか?」

「実はね…、うちお金ないの」

「どうして?」

ヒカリちゃんが心配そうに聞いてくる。

「実はね、シンジは黙っておけって言ったけどミサトがね、お金お馬にすられちゃったんだって」

「う…馬が」



<ヒカリちゃんの妄想劇場>

ミサトが一升瓶を掲げながら街を歩いていた。

すると突然前をいく馬がぶつかってきたのだ。

「きゃ!」

「おっとすいません、急いでいるんです」

軽く謝るとそのまま馬は走って行った。

「仕方ない馬ねえ」

ミサトはそのまま何も気づかず歩いていった。

しばらく行くと自動販売機がある。

ミサトは一升瓶を下ろすと財布を探し始めた。

「えっと、喉が乾いたからビールっと」

先ほどこの一升瓶を空けたところなのにまだ飲むというのか。

彼女の肝臓は鋼鉄を通り越してダイヤモンドなのだ。

「あれ、財布がない?」

ミサトは全財産の入った財布を探したがどこにも見つからない。

「あれれ」



「なんだ、あの女、ビンボ〜なのかよ」

そのころ馬は馬小屋でミサトから奪った財布の中身を清算してた。

蹄を器用に使って金を数えるが小銭だらけでどんなに数えても一万を超えない。

「くう、しけてやがんなぁ、不景気の煽りか、ヒヒーン」

馬さんはタバコをくわえてため息をついた。

その頃ミサトは自動販売機を叩いている所を警察に見つかり逮捕された。



「…なんだか知らないけど大変だわ!!」

ヒカリちゃんは叫んだ。

人が荒んでるこの世の中。

まさか馬まで荒んでいると言うのか…

「ほっておけないわ、何か困った事があったら私に相談してね」

「うん」

「なんや不憫やなぁ、綾波、今日のデザートのプリンはお前にやるわな」

「ありがとう」

レイはニッコリ笑った。

トウジはその笑顔に頬を赤くする。

「そりゃ…困った時はお互い様やからな」

なんだかいい雰囲気に見えない事も無い。

このままでは不味いわ。

ヒカリは自分の机からお楽しみのプリンをとってきた。

「鈴原」

ヒカリちゃんは鈴原の手に自分のプリンを握らせた。

「私のプリンあげる」

ヒカリは顔を真っ赤にしながら言った。

トウジの手…温かい。

LHTの始まりだとその場にいた誰もが予想したが…

「おおきに、イインチョ、綾波〜、プリンもう一個あげるで〜」

「ちょっと鈴原〜!」

ヒカリはトウジの胸倉を掴んだ。

「ちょっと、私はあんたにあげたのよ、なんでレイにあげるの」

「はあ、わしにくれたんやろ?好きにしていいんちゃうんか?」

「私は鈴原に食べてもらいたかったのよ!」

パチ〜ン!!

トウジの頬に真っ赤な紅葉が出来る。

「何すんねん…!」

不条理の一撃に反発しようとしたトウジだったがヒカリの顔を見るなり黙ってしまった。

ヒカリの目から大粒の涙が零れ落ちたのだ。

「うえええええええんん」

ヒカリは大声で泣き出した。

クラスメイトが全員ヒカリの方に注目する。

「ど…どないしたんや!」

「鈴原君、せっかくだけどさ」

レイはプリンを二つともトウジに返した。

「せっかくだけどもらえないや…」

「なんでや!わしは」

「ヒカリちゃん、泣き止んで、ヒカリちゃんは鈴原君に食べてもらいたかったんだよね」

レイはヒカリの背中を撫でる。

ヒカリは涙声で

「うう…レイ、なんて優しいの、鈴原が好きになるわけよねえ〜うわああああああん!」

余計泣き出した。

レイちゃんは首をかしげながら呟いた。

「なんでえ?」



その様子をプリンを食べながら見守っていた少女がいた。

「ヒカリ、がんばるのよ、拳を交えた仲のあたしはいつでもあなたの見方よ」

そう言いながらちゃっかりとヒカリと鈴原の分も食べているアスカちゃんでした。

「う〜ん、プリンっておいしいよぅ」



その頃シンジ君は

「シ〜ンジ君」

シンジと同じクラスの霧島マナちゃんはいつもの様にシンジの弁当を漁りにきた。

シンジの弁当はとにかく美味いのだ。

そして彼女はこの小説で数少ないイカレシンジに好意を抱く同い年の奇特な女の子だった。

「やあ、霧島さん」

「今日は何食べてるの?お弁当箱は無いみたいだけど」

「ふふ、大した物じゃないんだけどさ」

シンジはトクトクと魔法瓶から赤い液体をコップに注いだ。

マナの鼻に強い血臭がついた。

シンジのカップには赤い液体が揺れている。

「ただの…トマトジュースさ、おいちぃよ、霧島さんもどう?」

「え…遠慮しとくわ!じゃあね」

マナは真っ青な顔をしながらそのまま逃げる様にしてさっていった。

「どうしたんだろう」

シンジは首をかしげた。



その頃騒ぎの元凶である駄目保護者は

「悪いわねえ、日向君」

「いやぁ」

ミサトはワインを一口した。

今日で三日目だ。

こうしてマコトに昼を奢ってもらうのは。

「葛城さんのためならどんなたのみでも」

「じゃあ、私、今日黒星レストランでフルコース食べたいの」

「黒星…?」

最近銀座にできたあの高級レストランである。

安月給の自分など片足を引っ掛けるだけでも大変なところだった。

マコトの顔が青くなる。

「え…えっと葛城さん」

「食べたいの」

「はい!男!日向マコトにお任せください」

「ふふ、ありがとねん」

ミサトはワイン瓶を持ち上げてラッパのみにした。

マコトは心の中で泣きながら後悔した。

なんで俺、嫌って言えなかったんだろう?

昨日の分でもうカードがオーバーしちまってるってゆうのに。

黒星レストランで日向マコトは皿洗いする事になったのはこの日からだった。



その日の夜…

アスカはヒカリのうちに泊まりに行った。

レイはリツコのうちに泊まりに行った。

ミサトはマコトを唆してマヤと一緒に高級レストランに行った。

つまり

「僕だけかよ」

シンジはLCLをちびちびすすりながら涙を飲んだ。

「みんなずるいよ!逃げるなんて僕だけマンションに残ってこんなんのまなきゃ行けないなんて…酷すぎるよ」

マンションに生息しているペンペンもいつのまにか消えている。

「ペンペンまで…、今日こそフライドチキンにして食べてやろうと思ったのにぃ〜」

シンジの手には包丁が握られていた。

ペンペンはどうやら危険な同居人から避難した様だ。

シンジは包丁をおくとその場に大の字に寝転がった。

「うう…、お腹好いた」

シンジの腹からは絶えず虫の声が聞こえてきた。

このままではまじで背中とお腹がくっつくかもしれん。

さっき鏡で見たがとくにそんな様子はなかったのでひとまず安心した。

三人ともいいよなあ、行くところがあって。

僕なんか行くとこないからなあ…

行くところ…はっ

シンジは目を開けた。

携帯電話を手に取るとそこに電話をかけた。

『…私だ』

すぐにそいつは出た。

どこぞの司令塔でシンジの実父である。

「もしもし父さん」

『なんだ、お前か、なんのようだ』

「頼む、親子と見てくれなくていいから、ご飯を奢って欲しいんだ」

『葛城君がいるんじゃないのか』

「いるからうまくいかないんだよ!」

シンジはこれまでのことをゲンドウに話した。

「ね、だから助けると思って」

ゲンドウは少し考えるような素振りを見せるとゆっくりと口を開いた。

『…わかった、今日だけだ、いまからそっちに迎えにいく、夕飯は外で食べるぞ』

それだけをいうとゲンドウは電話を切った。

シンジはしばらく黙っていた。

いままでの会話を整理してたのだ。

「ありがとう父さん!」

シンジは涙を溜めながら繋がっていない携帯電話に礼を言った。

十年振りにシンジは父親っていいなって思った瞬間だった。



この夜ミサト、アスカ、レイ、そしてシンジはそれぞれ楽しい夜を過ごした。



「父さん」

「なんだ」

「もしかして、読めないの?」

ゲンドウはフランス語のびっしり書かれたメニューを片手に顔を赤くした。

「ふっ…問題ない、全部注文すれば済む事だ、全部持って来い」

ゲンドウはウェイターにそう命じた。

シンジはぼそりと呟いた。

「そんな食べきれないよ〜」

シンジは笑いながらぼやいた。



その夜二人で山のような名前も知らない料理を食べた。

「も〜たべらんないよ」

これもある意味地獄だったかもしれない。

だがシンジにとってこれは久し振りに親子の心を通わせた特別な日だった。



おまけ

★登場人物紹介2★



碇ゲンドウ 己が妻の妻のためなら世界を敵にまわしてもいいという考えの持ち主で、

サングラスをかけてなかなか素顔を見せようとしないというニクイ奴。

シンジの実父だが彼とは違って女性職員にモテモテであるが彼の心は常に奥さんの物なのだ。

特務機関ネルフの最高司令官で最凶ママ初号機であるユイの旦那さんでもある。



葛城ミサト ネルフ本部の女軍人。

かって中国で伝説の挌闘家シスターアジア、

東方腐敗の元で修行していた事があるらしい。

普段はのらりんとしているがその戦闘能力は計り知れない。だが本当に要注意なのは彼女の作り出すカレーにあり。



赤木リツコ 言わずとしれたマッドサイエンティスト、エヴァやガンダムを作って遊んでいる変人である。

だがレイにとっては優しいお母さん。

碇司令が好きであるらしいが…最近では幻滅しかけている。



冬月コウゾウ 今だ珍話の中で沈黙を保っているが実は大学時代のゲンドウの先生で教え子であったユイに恋してしまい…家庭が崩壊した。

しかもトウジからユイはまったくじじいの事は見てはおらずゲンドウとゴールインしてしまい、その時のショックからボケる傾向が見られていた。ネルフの副司令。



加持リョウジ ネルフの諜報部員、アスカから好かれており彼女が成長した暁にはモノにしようと密かにたくらむ外道。ミサトのもと恋人である。

弟の事で過去にいろいろあったらしい。

女にはだらしない性格。



〜後書き〜

いろいろあってしばらくインターネットが出来ないので急いでこれを書きました。

あまり話しを練る機会がなかったので破壊と裏切りをモットーにした珍話には珍しいほのぼのとしたオチのつけ方でしたがどうでした?

気に入ったって人もいるでしょうがこれはちょっと…って人もいる事かと思いますがお目こぼしを、まあ自分としてはゲンドウとシンジの話しを書きたかったところなのでこれでいいと思っています。

それにしても僕のミサトさんってギャンブル癖もありますね〜、これからの展開は原作より酷いものを予想します。(^^)

それでは。Seeyou

ミサト:おっしゃ、もう一件行こか!

マコト:もう勘弁してうださいよお〜


マヤ:うぷっ…!もう駄目!


 幻都さんからSSを頂きました(^▽^)ありがとうございます〜
 
 LCLを飲むシンジ君達、サードインパクト後かとおもいきやお金が無かったんですね。その原因はミサトさんが起こしたサードインパクト(笑)ミサトさん、ギャンブル弱いですね。

 リツコさんから貰ったお年玉、レイちゃん達は偉い事に貯金をしてシンジ君は・・・男のロマンを買ったんですね(爆)でも裏切られちゃいましたね(^^;)ビデオ内容は・・・ゲンドウしか喜ばないでしょうね。

 レイちゃんとアスカちゃんは給食がありますのでLCLから解放されて良かったですね。トウジ君はレイちゃんにプリンをあげてさり気無く好きな事をアピール、ヒカリちゃんトウジ君の気を引くのはまだまだ先のようですね。

 ゲンドウとシンジ君、まさかこんなかたちで食事するとは思いませんでしたね、ちょっとミサトさんに感謝でしょうか。

 シンジ君、美味しい夕食を食べられて良かったと感想を送りましょうね。

 とっても素敵なSSをくださった
幻都さんに皆さん感想を送りましょう。

 皆さんの感想が作者の力になります!一言でもよいから感想を書きましょう!!


 参話 お正月なの

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