其の一   閉まりゆく扉





「何階なんだ?」
「えっと、一番上。」

お目当ての場所は映画館。このビルの最上階にある。
乱馬の趣味じゃないと思ってたから、友達と来ようとしてた映画だったけど、
今日に限ってなのか、付き合ってくれた。

ドアが開き、乗り込むと、エレベーターは結構混み合っている。
そのほとんどはカップルで、皆、目的地は同じの様子。

一時して、最上階に到着。ドアは開いた。

奥の方にいたせいで、もたもたと流れる人の並に乗り遅れる。
先に降りた乱馬の背中を追い、急いで降りようとドアをくぐろうとした時、
無情にもドアは閉じかかった。

突然のことに動かなくなり、固まる身体。

途端、挟まれそうになったわたしの頭上を、かすめるように通り過ぎた腕。
閉まりゆこうとするドアを、乱馬は押し開けてくれていた。

「ん。」

早く通るようにと、目配せされる。

「・・・ありがと。」

怖かったから、声が上擦っていた。

「大丈夫か?」
「うん。」

どきどきしている胸をおさえ、立ち尽くすわたしの身体に、乱馬は腕を回した。

「ごめん。」
「・・・ううん。」

頭の中まで血が回らない状態では、返事もろくに出来ない。

乱馬のせいじゃないのに・・・。

回されてる腕から伝わってくる、優しい気持ち。

「歩ける?」
「うん。」

慣れない乱馬の態度が、くすぐったくて心地いい。


ようやく、落ち着いたわたしは肩に腕を回されたまま、歩き出した。







  【解説】
  優男的行動・・・ドアを開ける。というか、開けてくれる。
  割と実用的で日常的。

  先にドアの前に行き、どうぞっていうのではなく(これは執事さんとかのお仕事)
  特に書いたような、エレベーターのドアをそっと押えてくれている感じが、さりげなく自然でいい感じ。
  ドアを開けてくれる場合なら、上の方でそっと押えてくれてて、
  その身体の下を潜り抜けるように通るのが理想。

  二の腕にかかる力あたりがよいなっと、そう思うのです。  
  ここの筋肉が好き。

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其のニ   拭われる涙





雰囲気好きな感じだったし、出てる俳優さんも女優さんも好きだったからって理由で選んだ映画だったけど・・・。
洋画だし、女子と男子の趣味ってやっぱり違うと思ってたから、最初は乱馬の反応ばっかり気になってた。
乱馬はわたしの抱いていた大方の予想にして反して、居眠りする様子もなく、黙ってスクリーンを見ている。

正直言って、安心した。


気がついた時には流れていく映像世界にのめり込んでいた。


言いたいことが上手く伝えられなくて、誤解だらけで、間違いばっかりで、
見てるこっちが、やきもきして・・・そんなスクリーンの中の恋人たちを、自然に自分の姿と重ね合わせてしまう。

女の人の目から涙が溢れ出すと、わたしの目頭も熱くなっていく。

乱馬には気付かれたくなくて、そっと涙を拭取ろうとして、はんかちを取り出そうとしていたら、
いきなり手が顔の前に伸びてきた。

「え・・・。」
「・・・・・・。」


指先で目元を撫でられる。
溢れ出そうとしていた涙を、優しく触れて拭ってくれた。

乱馬はわたしの顔も見ず、黙ったままでまっすぐ、スクリーンを見つめていた。



映画が済んで、椅子から立ち上がる。

「おもしろかったね。」
「・・・悲しかったんじゃねぇのかよ。」
「ううん。だって、ハッピーエンドだったもん。」
「さっきまで泣いてたくせに。」

表情のころころ変わるわたしのことを、乱馬は不思議そうな面持ちで見ていた。







  【解説】
  優男的行動・・・涙を拭ってくれる。
  非日常的?

  はんかちを差し出してくれるというのも、確かにフェミニストなのですが、
  はんかちではなくて、手、というところに愛があるような気がします。

  超理想系は、はんかちを渡してくれつつ、指先で涙を拭ってくれる、
  はんかち意味ないじゃん・・・です(笑)
                        
                        >>>もどる   >>>其の三を見てみる。 




















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其の三   背伸び





ふたりで本屋さんに入った。

「なに買うんだ?」
「え? うん、ちょっと。」

料理の本って言ったら、絶対あからさまに嫌な顔されそうで、言葉を濁す。

「乱馬は、このへんで待ってて。あっちだから。」
「ん、ああ。」

ちょうど、近くに置いてある雑誌を乱馬は手に取った。

「早くしろよ。」
「うん。」


奥の本棚に足早でかけて行き、てっとりばやくその辺の本を掴む。
表紙を見て、ぱらぱらめくりながら、視線を移していく。

うーん・・・あ。

一番上に、『絶対に失敗しない毎日の献立集』っていうのが見えた。

あれ、ほしいな・・・。

きょろきょろ辺りを見渡してみたけど、踏み台らしき物はない。
とりあえず、背伸びしてみるけど、全然足りない。

もう一回、きょろきょろと周囲を見て、店員さんがいないのを確認。

ちょっとだけだから、ごめんなさいっ。

悪いとは思いながらも、詰まれた本の上に片膝を乗せた。

精一杯、手を伸ばして、もうちょっとってところで、身体が大きく後ろに傾く。
膝の下に敷いていた本が滑り、身体がぐらつき揺れた。

「あっ。」

どうにかバランスを取り戻そうとする腕を、いきなり後ろからぐっと掴まれ、
同時に背中に、暖かい温もり。

見上げたら、乱馬の顎が見えた。

「なにやってんだよっ!」

向き直り、わたしの前に姿を現した乱馬は大きな声で怒鳴る。
しんとした場所だから、余計に響いて・・・恥ずかしい。

「乱馬、声、大きい。」
「ばかっ! 危なかったんだぞ!」

いつになく、真剣に怒る乱馬に、わたしは罪悪感よりも
守られてるっていう、安心感に包まれた。

「なんで言わねぇんだよ・・・ったく。」
「ごめんなさい。」

ひょっとしたらプライド傷つけちゃったかな・・・。
どきどきしながら、反応を待つ。

「・・・で?」
「え?」
「どれが欲しいんだよ?」
「な、なにが?」
「本だよ、本。」
「あ、えっと。」

よかった・・・怒ってないみたい。

「・・・ひょっとしてこれか?」

指差そうとした先の本を、乱馬は取ってくれた。

「・・・よくわかったね。」
「不器用なやつが興味持ちそうなタイトルだからな。」
「悪かったわねっ。」

受け取ろうと手を伸ばしたけど、高い位置で珍しい物を見るように
自分の目の前で掲げてる乱馬の手には到底届かない。

「意地悪しないで、それ、ちょうだい。」
「欲しいのか?」
「うん。」
「だったら、買ってやるよ。」
「え? ど、どうして?」
「この本、おれのために使うんだろ?」
「・・・うん。」
「なら、おれが買う。」
「・・・・・・。」

拒絶しなかった乱馬の態度に、嬉しい気持ちになりながら、ふたりでレジに向かった。







  【解説】
  優男的行動・・・高い物を取る。取るというか、取ってくれる。
  実用的。これやってもらうと、かなり嬉しい。

  夏場に二の腕が見えてる状態で、すっと手を伸ばして
  その取ってほしい物を掴んだ時の、筋肉がたまらなく好きだったり。
  て、これは好みでフェミな話じゃないですな(汗)
  だからといって、いかにもって感じでやられると幻滅。
  やっぱりさり気なさがフェミの基本。
  と、熱く語る阿呆な私・・・。 

                        >>>もどる   >>>其の四を見てみる。



















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其の四   子供みたい





「何食べたい?」
「うーん・・・。」

正午を回って、減ってきたお腹と相談。

「パスタかな。」
「了解。」

だって、中華やお好み焼きって言ったら、行くところ決まっちゃうし、
せっかくふたりでデートみたいなこと出来てるんだもん。
やっぱり邪魔されたくない。

「だけど、あかねってパスタ好きだよな。」
「えっ・・・あ、うん。」

今考えてることが見透かされてるような気分になりながら、よく行くお店に入る。


注文して、すぐに料理は運ばれて来た。

「いただきます。」
「うまそーだな。」
「うん。」

がつがつ、すごい速さで食べる乱馬に、少しでも合わせようと、
必死に長いパスタを口に入れる。

「ゆっくり食っていいから。」
「う、うん。」

思いっきり指摘されたことで、口に含んでいたのを
喉に引っかけそうになったわたしは、慌ててグラスの水を飲んだ。

「いつも言ってるだろ。口の大きさが違うんだから、合わせる方が無理だっての。」
「だって。」

食べ終わった乱馬が手持ちぶさたでいるのが嫌だったし、
それ以上に食べてるところを、乱馬に見られるのが、なんか恥ずかしくて嫌だったから。

「だいたい、そんなに急いで食ったら・・・。」

急に真剣な眼差しで見つめる乱馬の視線を感じ、わたしは固まる。

「な、なによ。」
「・・・子供みてぇだな。」
「え?」

乱馬の手が差し出され、口元をすっと指先が撫でた。

「ん!」
「こんなに汚して・・・ちったぁ、きれいに食えよ。」
「な、なにすんのよっ!」

突然のことに激しく動揺してしまう。

「なにって、汚れてたから拭いてやってただけだろ?」
「だからってっ。」

更に乱馬は、わたしの唇を触ったソースのついた指先を、ぺろりと舐める。

「あかねの方のも、おいしいな。」
「乱馬っ。」
「次、来た時は、それにしよっと。」
「・・・・・・。」

わたしは赤くなってく顔を隠すように、俯いて皿に残っているパスタを口に入れた。







【解説】
汚れた口元を指先で拭う。
割かし実用的・・・だろうか。

あかねちゃんって、口元とか汚してくれそうな感じがするのです。
乱馬くんって隙あらばって思ってるとこあると思うので、
こういうことがあったらいいなぁという、早い話、私の願望です。
ご飯粒が口元とかについてて、それを取って食べるのは
あかねちゃんが乱馬くんに対し、してほしいことで・・・って、それも願望かよ。
フェミというよりか、過保護乱馬くんな気もしなくはないって話。

 
                        >>>もどる   >>>其の五を見てみる。


















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其の五   危ない





お店を出て、雑踏の中をずんずん乱馬は歩く。
わたしは一応、隣に並んで歩くけど・・・。

「危ねっ。」

乱馬はわたしの肩を引き寄せる。

「な、なに。」

急に積極的な乱馬の態度に、私は戸惑った。
乱馬の顔を見上げたら、わたしではなく向こうを睨みつけるように見ている。

「え?」

よく見たら、わたしの横を通り過ぎていく人の手にタバコの火。
寸でのところをかすめていった。

「・・・ったく。」

やれやれとした表情を浮かべて、わたしの肩を離す。

「あかねも、ぼーっと歩いてんじゃねぇぞ。」
「・・・うん。」

なによ、偉そうにって、反論しようと思ったけど、
こんなことで喧嘩するのも馬鹿らしいから、やめておいた。




【解説】
歩いてて障害物から身を守る。
いろんなパターンがあると思われる。

こんなの当たり前すぎて、これをフェミと言ったら
世の中フェミ男だらけじゃんっというつっこみは流しつつ。
実際にされると、守られてるんだなという気分になって、
いい気持ちになったりする・・・と思う。多分。

                        >>>もどる   >>>其の六を見てみる。