すーすーす 前 編 「はぁ。」 辛そうな吐息が 聞こえた。 あかねの顔が赤い・・・照れて赤いのとは明らかに違う。 そういや朝から声、おかしかったな。 「おい。」 「なあに?」 おでこに手をあててみる・・・・・・熱い。それも、かなりの熱さを感じた。 「おめー、熱。」 「あ、やっぱり?」 「わかってんだったら、なんで言わねぇんだよ。」 「うーん、まだ頑張れるかなって思って。」 おれだったら、喜んで早退しそうなところだけど、こういうとこ、頑張り屋っていうか、根性あるっていうか。 「そんなに好きか? 勉強?」 「ううん、でも、嫌いでもない。」 声、かすれがち。 やっぱ、やばいって。 「無理、すんなよ?」 「うん。」 授業は始まる。 ・・・だけど、いつも以上に、頭に入らない。 隣の赤い顔が、気になって気になって仕方ないから。 ちらりと横目で確認。 目、つむって・・・辛そうだ。 途端、あかねの身体が後ろに揺れた。 やばっ! その反動で身体は前に倒れこみ、椅子から落ちそうになる。 慌てて差し出した腕に、あかねの身体は倒れこんだ。 ったく・・・だから言わんこっちゃねぇ。 けど、起き上がることなく、そのままだらりと垂れた腕。 あかねに意識がないことを伝えていた。 きりきりっと胸が痛む。 「先生、あかね、保健室に連れて行きます。」 そう言って、あかねの身体を抱え上げた。 ざわめきだす教室を後にする。 後でどうのこうの言われるんだろうけど、そんなことどうでもよかった。 「失礼します。」 保健室のドアを開け、中に入る。 「・・・・・・。」 誰もいなかった。 「ったく、保険医どこ行ったんだよ。肝心な時に役立たねぇな・・・と。」 とりあえず、寝かさなきゃだよな。 真っ白いベッドにあかねの身体を降ろす。 熱のせいか、息苦しそうな表情。 「仕方なくだからなっ!」 聞こえてはないだろうけど、一応言い訳をして、ブラウスの一番上のボタンをはずしにかかる。 「・・・・・・。」 震える手先がもどかしい。 ・・・というか、待て。なに、意識してんだよ。 「・・・ん。」 ようやくボタンをひとつ外した時、あかねが意識を取り戻した。 「あ・・・。」 首元にある、おれの手が あかねの視界に入る。 「え? あ、ち、違う。」 「なっ、何やってんのよっ。」 慌てた様子で、身体を起こす。 何か勘違いしたらしい。 「いや、だからだな、おれは。」 「油断も隙もないんだから。」 「違うって。」 疑いの眼差しは、どこかうつろ気。 「いいから、寝てろ。」 なにがいいんだか とは思いつつ、やっぱりあかねの身体のことが気になったし、 このまま言い合ったところで、多分決着はつかないだろうから。 ぶつぶつとまだ何かを呟きながら、あかねはベッドに潜り込む。 その身体に肩まで布団をかけてやった。 「じゃ、おれは教室戻るからな。」 「・・・戻るの?」 やけに気弱な口調のあかねが気にかかる。 「え。あ、いや・・・あの、いた方がいいんなら。」 あかねの手が服の裾を掴んだ。 「・・・いてほしい。」 言ったら手くらい握るのに。 そうは思ったけど、あえておれは、その手にふれなかった。 熱のせいで熱い手。 余計な心配かけたくないって・・・あかねなりの気遣いってやつ、無下になんかしたくなかった。 そこにある、パイプ椅子に腰を降ろした。 「ほうって、いかないでね?」 「わかってる。」 おれはそんなに無責任な男じゃねぇよ。 少しして、あかねの息が更に荒くなってきた気がする。 よく考えたら、誰もいないこの部屋。 普段は保険医がこの時期、ストーブいれてて、暖かくなってるけど、 しんとして、がらんとした部屋は底冷えしていた。 家に帰った方がよさそうだな。 「あかね。」 「・・・ん。」 辛そうに瞳を開く。 「家、帰ろっか?」 「うん。」 「平気か?」 「うん。」 「おれ、一緒の方がいいか?」 「うん。」 「おい?」 「うん。」 「不器用。」 「うん。」 「・・・おれのこと・・・好き?」 「うん。」 ・・・・・だめだ、あかねの思考、完全停止状態。 どさくさに紛れた質問の答えに耳の先まで熱くなりつつ・・・。 「鞄、取ってくっから。」 椅子から立ち上がったけど、あかねの手は裾を掴んだまま。 その手を離そうと、ちょっと握る。 だけど、おもいのほか しっかりと握りしめられた手を離すことは・・・出来なかった。 というか、そんなこと正直言ってしたくなかった。 薄い布団をはいで、あかねの身体を起こす。 連れてきたみたいに、前で抱っこしようかと思ったけど、 何となく邪まな考えが浮かびそうな気がしたので、おんぶした。 ・・・・・けど、耳に入る、荒い息に理性をかき乱されそうになる。 あかねの発する体温が背中越しに伝わってきた。 「・・・なに、考えてんだよ。」 首を大きく振り、思考を正常に戻そうと試みる。 鞄は、後で取りに戻ればいい。 早退したことは、そん時にでも言えばいいし。 とにかく、あかねを家に連れ帰らなきゃ。 そのまま、学校を後にする。 一時でも早く、あかねを救いだしたいから、家路を急いだ。 家に戻り、あかねの部屋に直行。ベッドに寝かせ、厚い布団をかけた。 風邪薬、飲まさなきゃだな。 「・・・・・・。」 まだ、あかねは服の裾を握ってた。 ったく、仕方ねぇな・・・・・嬉しいけど。 しばらく、あかねの苦しそうな寝顔を眺める。 「・・・・・・。」 うずうずした、いらない感情が沸き起こってきて・・・そんな自分の揺らぎを抑え込んだ。 「おい、あかね。」 身体を揺すり、起こす。 「ん。」 熱のせいで潤んだ瞳が、無理に抑えている気持ちに揺さぶりをかけてくる。 「風邪薬、持ってくっから。」 勘付かれまいと、わざと ぶっきらぼうな声を出した。 それは、自分自身への誤魔化しでもあるけど。 「うん・・・ありがと。」 しゃがれてる声・・・症状は悪化してる。 やっぱ、早いとこ、薬飲ませなきゃ。 「・・・・・手、いい加減、離せよ。」 視線を落とすと、あかねはその視線を目で追う。 「あ。」 つながりは断たれた。 「・・・ごめんなさい・・・。」 「あ、いや、だから、早く治さなきゃだろ?」 「・・・うん。」 辛そうに話す、あかね。こころなし、沈んで聞こえた声。 傷、つけちゃったかな? 言い方、きつかったかな? 「すぐ、取ってくっから。」 いつもながらの罪悪感に苛まれつつ、急いで部屋を出た。 =つづく= 呟 言 なるとっちさまにして頂いたキリリクを元に書かせて頂いた物。 「風邪をひいているあかねちゃんを乱馬くんが看病する」というリクエスト。 す、すみません・・・私の怠慢で途中でござる(汗) 長い話になっておりまして、今回はここまで。 すぐに完結させますので、ほんのちょこっと待っていてくださいませ。 というほどに期待されずではありますが・・・ すーすーす・・・めっさ方言なのですがー、涼しいというか、寒いというか、 すーっとするとはまた違うニュアンスでして・・・。 ぶーふーうーに似てるけど、全然違います(汗) ええと、多分、そんな感じの(どんな感じや)続きになるであろう・・・ というニュアンスを匂わせつつ・・・ ってそんなん思っきりタイトルにしちゃってたりで、すみませんっ(逃走) ひょう